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「みんな~!この二ヶ月、ほんとお疲れさ~ん!!
 今日は、正真正銘の千秋楽を祝って、打ち上げ盛り上がっていこ~ぜっ!!」
「イエー!!」

幕が下りた後の舞台裏では
植草のかけ声に、カンパニーも拍手をしながら大いに沸き上がる。
これまで、舞台上以外でのこういった盛り上げ役を苦手としていた光一は、
先輩である彼が自らそういう役を買ってでてくれた事に心底感謝して、
千秋楽の余韻を共に楽しんだ!

時間はたっぷりある。
それぞれの準備ができたら、会場に集合するように伝えられると、
光一も長きに渡り公演を重ねてきたステージに別れをつげ、名残り惜し気にその場を去った。

毎年、この日この時を迎えるといつも、
充実感と共にしかしすでにバラされていく舞台装置を見る度に、寂しい気持ちになる。
この瞬間だけはいつまで経っても慣れる事はなく、どこか放心状態のまま、
暫くは動くことなく、ただ舞台裏が映し出されたモニターを見続けていると…

「光一くん、お疲れ様!…ちょっといいかな?」

突然、遠慮気味に声をかけて入ってきたのは、なんと剛のマネージャーだった。


「あれ?」
「千秋楽おめでとうございます!二ヶ月間お疲れ様でした」
「なに?急に…どうしたん?」
「いえ、ちょっと剛君に頼まれ事を託ってきたんで」
「剛が!?」
「これなんですけど」

そう言いながら、それまで手に
下げていた紙袋を、そっと光一の前へと差し出した。

「…これなに?」
「いえ、僕も中身までは知らないんですが、光一に渡してくれたらいいからと…」
「…なんか嫌な予感がする」

これまでの彼からのプレゼントであまりいい想い出がないからなのか、
そんな一言を口にしながらも、
実のところ急に生き生きとした表情に変わった光一を横目で見て、マネは小さく微笑んだ。



「あ、この紙袋どっかでみたことあんな…」

頭の隅に残る記憶を辿りながら、中に入っていた箱を取り出すと、すでに独特の香りが漂う。
光一は、開けるまでもなく、剛が贈ってくれた物がわかったようで、
暫く箱を手にしたまま考えこむと、またそのまま紙袋の中へと終いこんだ。
そして、おもむろに。

「…あいつ、今何してんの?」
「彼はここ最近は、スタジオに篭っての仕事が殆どですね。」
「そっか。今度は剛がLiveツアーで忙しくなる時期やったな」
「そうですね。」

それでも、しっかり光一の千秋楽という日を覚えているのが、
やっぱり剛らしいと思わず感心してしまう。
自分は剛の詳しいLiveスケジュールさえ把握していないというのに…

記念日などをしっかりと押さえている剛と、そういった事に全く無頓着な光一。
剛がモテる理由がよくわかると、こんな時つくづく実感する光一だった。

「ほんま、こういう事にマメやな、剛は…」
「…仕事しながらも、この舞台の時間気にしてましたよ。
 そろそろかな?じゃあ行ってきてや!って、僕、放り出されましたから(笑)」
「ふふふ(笑)」
「とりあえず、ちゃんと役目は果たしましたので、僕はこれで失礼しますね」
「あぁ、わざわざありがとう。剛にも、ありがたく使わせて貰うわって伝えといてや。」
「はい、わかりました。」


マネが帰ったのを見計らって、光一はもう一度、紙袋の中を覗きこんだ。
実は、箱に添えられた手紙が目に止まったが、
彼の前ではさすがに開けるのを躊躇していたのだった。

あらためて一人になった今、光一は、その手紙を開いてみると…。



「光一さん、千秋楽を無事に迎えられたようで、おめでとうございます。
 そして心からお疲れ様でした。

 あなたの頑張りはいつも、風に乗って僕の耳にも届いておりました。
 目をつむれば、あなたの勇姿など容易に想像出来るほどに、
 素晴らしい座長として、周りをずっと支え、率いてこられたんですね。

 時々、仕事で一緒になっても、裏でのあなたをみていると、
 絶えず眠そうな目をしていて、ほんとに心配になる時も度々ありましたが、
 今年も無事に大役を成し遂げ、
 また一つ、大きな成長を遂げたあなたが僕の誇りでもあります。

 きっと今もどこか切り替えができず、心が舞台の上に置き去りかもしれませんが…
 まだ打ち上げという一仕事が残ってるだろうから、最後まで座長らしく。
 少なくとも、始まって40分足らずで居眠りだけは、僕たちの打ち上げだけにするように(笑)

 それでは、明日くらいはゆっくりと身体を休めて、休養をとって下さい。
 そして、次に会う時はまた、元気な姿を見せてな。


                              

      堂本 剛


 P.S.今回はメールではなく、初心に帰って手紙にしてみました(笑)」






一通り読み終わり、そういえば昔こういった手紙を剛からもらった事があったのを思いだした。

あれは、初めて座長として舞台に立つ初日だったろうか。
それまで、緊張で何も手に付かなかった自分がでも、剛から送られた手紙を読み終わった途端
急に気持ちが楽になり、がんばれる気になったのを思い出した。

ずっと、ずっと、陰ながら応援してくれていた、唯一無二のパートナー…


光一は、そっと手紙を折りたたむと、大事そうに仕舞いこみ、
やっと気持ちを切り替えるように身体を動かした。
剛のいうように、自分にはまだもう一仕事残っている。
打ち上げの主役ともいえる座長が遅れていく訳にもいかない。

光一は、早速支度に取り掛かりながらも、今だけ、剛へと想いを馳せる。



「次はお前の番やな…頑張れよ、つよし。」



この声がきっと彼に届くと信じて…





             

fin

 

 




 

 

 

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