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・・・・・・・・・






「ぼっちゃんぼっちゃん!! 自治会長さんから依頼があった洋館はこれみたいですねぇ」
「すご~いっ!! でも幽霊がでるっていうよりも、西洋の怪物がでそうな雰囲気ですよね?」
「んん?あきらちゃん、西洋の怪物って例えば?」
「ほら~!!有名どころで狼男とか、フランケンシュタインとか、ドラキュラ伯爵とかっ!!」
「まさに藤子不二雄?ワールド・・・じゃあさしずめ俺は“怪物くん”やなっ」
「あぁなるほどっ!! ぼっちゃんつながりでね、ぼっちゃん?」
「・・・」

と、相変わらずの漫才トークを繰り広げながら、
古びた西洋チックな洋館を見上げているのは、ご存知、天魔さんご一行。

どうやら自治会長さんの話では、長い間空き家となっていたこの洋館で
ここ最近、不気味な現象を多くの住民たちが体感しているというのだ。
それは、誰もいないはずの部屋に灯りがついているのを見たり、物音を聞いたり。
何よりも気味が悪るがられているのが、
真夜中にこの近くを女性が通ると、何故か引き寄せられるようにこの洋館に辿りつくらしい。
ただ、玄関前に立ち尽くしたところでハッと気がついて事無きを得、
いまだ事件らしい事件が起こっていないのが不幸中の幸いだが。

ちなみに、その女性達は揃って美しい女性ばかりだという。

最初は変質者でも住み着いたのかと、通報を受けた警察も
それこそしらみつぶしに洋館一帯を調べつくしたのだが、それらしい人物は一向に見当たらず、
設置した防犯カメラには、勝手につく灯りや物音は撮れていても、
そこには人っ子一人映ってはいなかった。

困りに困り果てた自治会長さんは、これはオバケの仕業かもしれないという結論に至り、
今回、天魔さんに白羽の矢が立てられたというわけだ。



「いい感じに日も暮れてきましたし、とりあえず入ってみますかっ」

三人は覚悟を決めて、自分たちを不気味に見下ろす洋館に足を踏み入れたのだった。




両開きの扉をあけた向こう側に広がるは大広間ともいえよう玄関ホール。
天井から吊るされたシャンデリアはきっと、
この洋館の住人がいた頃はゴージャスに周りを照らしていたことだろう。

まさに、貴族や華族が住んでいたのではという壮大な佇まい。

玄関先に一歩足を踏み入れた三人は、玄関ホールの広さを感じただけで
思わず大きなため息をこぼすはめになる。


「ぼっちゃん、こりゃまた、どこから探していいのやら?な広さでございますなぁ」
「両サイドに階段って!!両サイドに階段って!!」
「あきら、なんで2回言った?」
「言ってみたかっただけです」
「これはもぉ~あれやな。てっとりばやく捜索するにはー」
「やっぱ、別行動ですかっぼっちゃん!!」

それが一番やろな・・・とひとりごちながら、
天魔はひとしきり辺りを見回すと、今一度、大覚へと問いかける。

「この屋敷内で一番、目撃情報の多い場所ってわかりますか?」
「この付近の住人の皆さんからの目撃情報をまとめましたところ・・・
 一階奥がどうやら大広間らしいのですが、
 其の辺りから、いるはずないのに人の気配がするとか、ピアノの音が聞こえるとか」
「2階の窓からも時折、
 明かりが漏れてるのを見た人も結構いるとかっいやんっ!!」
「・・・」

急に可愛こぶった旭を冷たい視線で一瞥した天魔は、
徐に「よしっ」と何かを決断すると、

「旭は一階を、大覚さんは2階をしらみつぶしに幽霊の気配を求めて捜索お願いします」
「ほらまたきたっ!!」

天魔が言うや否や、大声をあげる旭。

「ど~して、一番、怪しくて目撃談も多い場所に私を行かせるかな~な~!?」
「旭は授業では音楽が一番得意やとー」
「言ってません!!そんなこと、ひとっことも言ったこともないし、
 ピアノなんか弾けるかっつ~のっ!!」
「なにもお前が弾けとはいってないが?」
「とーにーかーくー!!そんなヤバイところ、一人でなんか絶対行きません!!
 ってか社長はどこ捜索するんですかっ!!」
「女性が引き寄せられて来たときのために、ここで辛抱強く瞠ってるつもりや。」
「ほ~ら~!! また一番楽なところ選んで~!!
 絶対いかないからね~!!絶対いくもんか~~!!」

と、頑として動かないつもりでいた旭ではあったが・・・

「さぁ~旭ちゃん、お仕事ですよ~頑張って探索しましょうねぇ」

あっさりと大覚に首根っこ引っつかまれて、あっという間に一階奥へと消えていった。


「ほんまに、毎回毎回あいつは・・・」

大きなため息をつきながら、やれやれという素振りをすると、
天魔は一旦、外に出てみようかと、ゆっくりと玄関の扉に手をかけた、


その時だった。



ピピピン。


突然、天魔の髪が妖気に反応する。
それとともに、玄関脇に置かれていた燭台がふわっと炎を灯らせたのだ。

天魔は思わず、その燭台へと視線を向けると、
さらにその先におかれていた燭台もまた炎を灯らせる。

それはまるで、天魔を誘うかのように、一歩踏み出せば、その次の燭台。
そしてその炎に導かれるように天魔がたどり着いた場所は、
ホールの片隅にふいに現れた地下へと続く階段の前。


「この洋館、地下にも部屋があるんかい。」


まったくもってここが一番怪しいやないかいっと自身にツッコミを入れつつも、
後にも引けず、天魔はゆっくりとその階段を下りていった。

十数歩降りたところでまたしても目の前に現れたのは重厚な扉が一つ。

その扉へと手をかけつつも、その先にあるものを考えると、
やっぱり一人より三人のほうがいいかな~と心ゆらぎ、

「みんな~~!!は~い、集合~!! ここが一番怪しいよ~」と

声を発しながら今来た階段をまた登ろうかと思った時、
バタンッと背後の扉が開いたかと思うと、ものすごい勢いで部屋へと引きずりこまれ、
あれよあれよという間に、気がつけば地下室に放り込まれてしまった天魔。

何事や!?と呆然と辺りを見回してみたが、
思っていたようなおどろおどろしい感はなく、素っ気無いながらも、
以外にも小奇麗に整っていた一室に、少し安堵感に包まれた。


ただ、一つを覗いて。


そんな小奇麗な一室のど真ん中に、どうにもこの部屋にそぐわない物体が一つ。

それはどうみても、人間一人が入れる黒い棺・・・

それも、その棺の蓋が半分ほど開いている。



なにかがそこにいる。

天魔は直感する。

分かっているくせに、まるで何かに引き寄せられるように
ゆっくりとその棺へと近づいていき、


そしてー


真上から覗いたその下には・・・


かつて見たこともないような美しきものが、
静かに横たわっていたのだ。


「え?・・・人間?生きてるんか?息してるか?」

 

そう呟きつつも、それよりも見入ってしまうその姿・・・

 

 

「ってか、男?・・・女?」


思わずそう問いかけた時。




   カッ!!!!!




と、音が聞こえそうな程に突然見開かれたその双方の瞳は赤く光り輝いていて、
それを目の当たりにした天魔は、案の定。



「キューーーー」



見事にひっくり返って失神してしまったのだった。





・・・・・・・・





程なくしてー

ペチペチと両頬を叩かれる痛覚と共に

「おいこらっおきんかいっ!!
 人の顔見た瞬間に気ぃ失うとはええ根性しとるやないかっ!!」

なんともドスのきいた、天魔にも劣らぬ関西なまりの強い声に
天魔もやっとのことで目を覚ます。

「・・・え?」
「え?やないわ」
「・・・誰ですか?」
「それはこっちの台詞やで」
「あ、確かに・・・」

言われてあらためて、目の前の男へとじっくり視線を向けてみた。


先ほどは思わず、男か女かの分別もつかない程に
その現実離れした容姿に目を奪われたが。


今よく見たら、男だ。
この口調といい声といい、全くもって男でないはずがない。

ただ、男ではあるが人間離れした美しさをまとっているのが
やはりどうにも目を引いてしまう。

身を包む衣装は、まさに貴族か王族か、という気品に溢れ。

黒目勝ちでありながら切れ長の瞳。

綺麗に通った鼻筋に、程よい厚さの唇。

そして、驚くほどの肌の白さ・・・


それはまるで何年も、何十年も陽の光を浴びたことがないのでは?と思うほどの
透き通るような青白さ・・・


天魔はそっと確信する。


この男は人間離れしていているのではなく、
やはり人間ではないのだということを。



「ちょっとお尋ねしますが、貴方はこの洋館の住人の方ですか?」
「そうやで」
「でも、この洋館はもうかなり前から人が住んでないと、
 古くから町内の事は把握している自治会長さんが、そう言ってましたが。」
「いろいろ・・・あってやな。なかなか外にでれへんだけで、
 その自治会長という奴よりもずっともっと長い事ここに住んでるのは確かや。」
「・・・自治会長さんは70超えたおじいさんなんですけどね~。
 でも、あなたはどうみても、僕と年、変わらないよう見受けられますけどね。」
「なにゆうてんねん、こうみえて、もう覚えてへんほど年だけはとってるで、
 自慢やないけど(笑)」
「それはもぉ~人間やないと言ってるようなもんですね。」

天魔のその一言に、男はキョトンと顔を傾けた。


「ここ最近の、この洋館付近の一連の不可解な現象は、
 貴方が全て関わっていますね?ここの住人だというのならなおさら。」
「・・・やっぱ、騒ぎになってもうた?
 今度こそ、控えめに行動したつもりやったけどー」

以外にあっさりと認めた事で、天魔は思わず拍子抜けしてしまう。

「何がしたくて、こんな騒ぎになるようなことを」
「のどがめっちゃ乾いてもうてん。」
「・・・・は?」
「思い出した!!ほんま喉渇いて死にそうや」
「いやいや、死んでますから。」
「なんでやねん、死んでへんわっ」
「幽霊さんが何ゆうてますの?」
「は?そっちこそ何ゆうてねんっ!!」
「とにかく、これ以上騒ぎが大きくなる前に、成仏して下さい」


天魔が有言実行とばかりに、男へと一歩足を踏み出したその時っ!!


「あ~もうええわっ!!

 どうせ吸うなら、綺麗な女がええとおもっとったけど、
 ここまで渇いてもうたらもぉ~選り好みしてられへんっ!!
 お前でええっ!!我慢したるからー

 吸わせろっ!!」

最後にそう叫ぶと同時に、目の前の天魔へと両手を伸ばす。
すると、驚くほどの早業で天魔は一瞬にして抱きすくめられた。

「え?・・・え~~~~!?」

そして、天魔の首筋へと唇と落とすと、男は有無を言わせず濃厚に吸い付いたのだ。


「っ!!」


一瞬、天魔の首筋に痛みは走れど、それは本当に一瞬のことで。

何がなんだか分からないままの抱擁から解放された時は、
天魔は、腰砕けの状態でへなへなとその場へと座り込んでしまった。


「・・・ごめん(笑) 思った以上に美味しくて、ちょっと飲みすぎてもうた。」
「なんや、軽い貧血が・・・」
「ほんま、ごめんな。
 でも・・・ほんま美味しくて・・・懐かしい味やった。」

その言葉に、ふと天魔は顔をあげると、
何故か、切なげに瞳を揺らしたその横顔は、どこか遠くへと想いを馳せているようだった。

途端に、天魔は無性にこの男へ興味を持った。
成仏云々より、もっと深く・・・


この男のことを知りたいと思ってしまった。









・・・ 後編へ続く・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「天魔さんがゆく」番外編 

 

       ―――美しきヴァンパイア(前編)

 

 

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