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 「ゆかたでポンッ」










「・・・なんで浴衣?」


目の前のラックにズラリとかけられた衣装を凝視しながらそう呟いた剛に、
傍にいたスタッフが、

「本日の七夕に合わせて、夏祭りというコンセプトに添って、
 記者会見上のステージにセットを組みましたので、
 衣装も浴衣で揃えてみました!」

と、何故か得意げにそう口にする。
すると、その横に立っていた初めて目にする女性も、
「浴衣もいろいろ揃えてみましたよ♪」と、さも楽しげに続けていった。
彼女は、浴衣の着付けも兼用するということで、
今回初めて二人の担当に選ばたスタイリストだ。


剛はというとそれを聞いて「なるほど…」と、頷いてみる。

「ええコンセプトやん。」

その言葉に、彼女も一緒になって頷いた。

「ですよね! 剛さんはどの浴衣にします?気に入ったのはありますか?」
「う~ん…」
「光一さんはどれにしましょうか?これなんかどうです?
 あ、ちょっと渋めですかね。」
「・・・」

言われて剛は、チラリと後ろを振り返った。
名前の上がった本人は、今だソファーの上で爆睡中。

「そろそろ、着替えた方がええ時間かな?」
「そうですね。でも、早すぎるとせっかくの着付けが乱れてしまいますしね。
 まぁ、すぐに直せますけど。」

それを聞いて少しだけ悩んだ剛だったが、
スタスタと光一の傍まで寄ってその肩に手をかけると、
そっとゆすりながら声をかけた。

「光一。そろそろ時間やから、目覚まし。」

しかし、見事なほどに爆睡中。

すると、剛は膝を折って光一の耳元まで顔を近づけると、
さらに間近から、甘い声で囁いてみる。

「光ちゃん、起きや。」
『・・・・・』
「ゆっくり寝さしてあげたいけど、仕事やからなぁ。」
『ん~?…つよしぃ。』
「目~覚めたかぁ?―おはようさん。」
『ん~。』

なんだか異様に甘い雰囲気に、その場にいたスタッフとスタイリストは、
なんとなく見てはいけないものを見たような気分になり、

「じゃ、じゃあ、また時間が来たら呼びにきますんでっ」
「あ、あたしも下駄とか、あっ用意して…また伺います!」

急にアタフタと楽屋を去っていく二人に、何故だか剛は笑顔で手を振った。


そんな周りのドタバタ状況に、やっと上半身を起こした光一は
ガシガシと髪をいじりながらも、どうにか寝ぼけ眼を向ける。

「やっと、起きましたか?」

目を細めてどこか楽しげに話しかける剛だったが、

『今、何時ぃ~?あぁ…ねみぃ。』

気を抜くと、今度は座ったまま寝そうな勢いの光一に、
さすがの剛も困ったように苦笑すると、
突然、何を思ったのか。
両手を伸ばして光一の後頭部を抱き込むと一気にその頬へと唇を寄せたのだ。

『・・・!!!!!』

今だ夢と現実の狭間にいた光一は、一瞬何が起こったのかわからなくて。
頭が引き寄せられた時には無抵抗だったものの、
剛が頬へと唇を押しつけた瞬間に、思わず声にならない悲鳴をあげた。

『お、お前、何すんねんっ!!』
「やっと目ぇ覚めたみたいやね♪」
『アホかぁ~そりゃ目も覚めるわっ!!」
「そりゃよかったよかった♪これでまだ夢心地やったら、
 本格的におはようのチューで起こしたろか思ったけど。」
『いらんいらんっ!!』
「なんやったら、ジュリエットばりの濃厚なのは如何でしょ?ロミオ様」
『もう~オメメばっちし! 気分爽快っ!!』
「んふふふふw」
『・・・ほんまお前の傍ではオチオチゆっくり寝てられへんわ…』
「なにゆってますの。めっちゃ熟睡してたくせに。」
『ふふふっ』


光一は、やっと体を動かすように大きく伸びをして立ちあがると、
その横に並んだ剛に視線を向けて、

『で、なに?』

と、意味不明な質問をした。

「で、なに?とは?」
『俺、なんで起こされたん?』

剛は思わず眩暈がしそうになった。

「これから新CMの記者会見に出席するんでしょうが。」
『あっ!!…忘れてた。』
「舞台の事しか頭にないってゆうなよっ」
『ゆわへんゆわへん(笑)』

光一はますます分が悪くなってきたので、
話題を変える為につい、目に入った衣装へと反応してみる。
それを見ての感想が。

『。。。なんで浴衣?』

あぁ、ほんまに俺らKinKi Kidsやなぁ(笑)

剛はひたすらに笑いを堪え、この先の展開がさらに楽しみになるのだった!



それから十数分後。

コンコンとノックした後に、かなりゆっくりと扉を開けると、
恐る恐る覗きこむスタイリスト。
そして、二人と目があった途端、思わず一度顔を引っ込めて、
また顔を覗かせるその奇妙な行動に、
二人は同時に、「なにやっとんねん。」とツッコンでみる。

「お、お邪魔じゃないですか?」

彼女なりにかなり気を使って意味深に問いかけてみたが、
『なにが?』と、首をかしげる光一に苦笑して、
恐縮そうに、futariの楽屋へと足を入れた。

さすがに、そろそろ会見時間も近づいてきたので、
二人にどの衣装を着付けいこうかと彼女が再度チェックていると―

「俺、これにするわ」

スタイリストが選ぶよりも早く、剛は一着の浴衣を選ぶ。
それは、先ほど彼女が光一に選んだ浴衣だった。

「え、それですか?
 …剛さんはもっと柄のハッキリしたのが似合うんじゃないかと―」
「なんでもええねん。こういうのは着こなしやで。
 地味な柄も、合わせかたや持ってきかたで、
 それなりに着こなせるもんやん。…そうやろ?」
「はぁ…まぁ。」
「俺は一人でやれるし、光一の選んだって」

確かに言ってる傍から、確実に身につけ始めている剛は、
正直スタイリストが全く必要じゃなさそうだ。
彼女は、言われたとおりに気を取り直して、光一へと向き直ると、
数ある浴衣の中から、紺色の落ち着いたものを選びとった。

「光一さんには、これなんかどうでしょう?」
『着れたらなんでもええよ。』
「・・・・・」

剛と違ってこっちは全く投げやり状態で、
彼女は光一に対しても、どう反応していいやらと困惑する。
KinKi Kidsってこんなに扱いにくいグループなのだろうか?
ってか、こんなに真逆な性格のコンビも珍しい… と、
担当初っ端から、愚痴めいてしまいがちになるのを堪えつつ、
めげずに光一に合うものを一つ一つ選び抜く。

「光一さんは、色白なんで、やっぱりちょっと濃い目のカラーの浴衣が
 映えそうですよね!!
 これなんか、光一さんのクールでカッコイイイメージを引きたてる
 大人な感じでいいんじゃないかなぁ~」

私服の上から浴衣を羽織らせて、その映え具合を比べていると―


「光一にはこっちの方が似合うんちゃうか?」


突然、背後から声をかけてきた剛に、
反射的に振り返ってみた彼女は2つの事を目にしてビックリ仰天!!

一つは、ものの5分もしない内に、
衣装である浴衣を見事なほどに自分流に着こなしていた剛に対して。

先ほどから履いていた私服のパンツの上から、
浴衣をはおり、裾を思い切り腰辺りまでたくしあげると、
腰ひもで簡易止めをしているその姿は全く思いつきもしない斬新な着方。

思わず、目を見張って自分に注目する彼女に、ん?っとなった剛は、

「ここに帯巻いてアクセントつけよう思うねんけど、
 それだけ、後で手伝ってくれへんかな。」

と、にっこり笑って言われたら、それを断われる人間などいないだろう。

そして、もう一つは、その手にしていたもの。
いつの間に選んだのか…
光一に似合うと持ってきた、下地がオフホワイトのいかにも清楚な浴衣にである。
スタイリストの自分としては、
まったく彼にはイメージしていなかった類なので、思わず眉をひそめたが、

「今回のCMはカッコいいシーン満載やから、
 十分に光一くんのクールでカッコいいイメージは、それで伝わると思うねん。
 だったら、この会見くらい、柔らかな雰囲気で大人な色気を放った、
 まったく逆なイメージの彼をアピールするのもええんちゃうかなって。」

しっかりとさっきの彼女の言葉を意識しつつ、
その上で「俺の方が光一の見せ方をよくわかっている」と、
さりげに自慢されてるようで複雑この上ないが―
でも、一理あるので

「…なるほど。」

と、無理やり納得してみる。
剛はそれを確認して、光一へと向き直ると、

「とりあえず、ちょっと着てみ?」

さっそく、手にある浴衣を勧めたのだった。

この間の光一はほんとにおきてるのか?というほど無反応で。
実のところ、目をあけて寝ているんじゃ?と、剛も心の中でかるく疑ってみながら、
着せ替え人形の如く、されるがままの彼へと着せてやる。

すると・・・

「うん。やっぱええんちゃうか?」
「・・・」

スタイリストまっつぁおな見事なコーディネートっぷりに、
彼女も唸るほかない。

そのまま、剛の勧めるモノで全て揃えて、綺麗に着つけてみせると、
その出来上がりに、思わず二人してため息が漏れた。

「すごく綺麗かもしれない…」

女性に、綺麗と言われる光一もどうかと思うが、
綺麗なものは仕方がない。

で、剛はというと。

「なぁ、光一。 余計なエネルギー使いたくないのはわかるけど、
 そのあまりにお地蔵さんのように固まってるのは、
 正直怖いからやめてくれへんか?」
『やって、また大勢の人の前で、いろいろ喋らなあかんのやろ…
 余計な労力つかうやん~。 つよしぃ、一人で会見出席してくれへん?』
「アホかっ! なんで久々のツーショット会見を、一人でやらなあかんねん。
 それも楽屋でスタンバイまでしてるくせに。」
『…冗談にきまってるやん。』
「あなたの冗談は時に叶えたくなるのが厄介なんです。」
『う~・・・なんか歩きにくい~』
「お前、あんまり大股で歩くなよ?」
『これ、これでええん?』
「ええねん。…あっ、それ以上触ったらあかん。」

気がつけば、いつの間にか甲斐甲斐しく光一の世話を焼き始めた剛に、
すでに自分の仕事がない事に気がついたスタイリストの彼女。

さっきも、いやに甘い雰囲気に当てられてしまって、
思わず楽屋を飛び出してしまったが、
今も、もしかしてもしかしなくても私はお邪魔虫っていうくらい、
二人の甘い甘いムードに、部屋の隅へとおいやられそうになる。

どうでもいいが、眠いせいなのか甘えたいのか、ただ単にやる気がないのか?
とにかく、堂本光一の舌ったらずな喋り方や、相方へと頼りきったモードに、
これまでの彼へのイメージが尽く覆されたような気がして驚きが隠せない。

そして、乙女チックで人懐っこそうな彼との方が、、
どちらかといったらもっと身近に感じれると思っていた堂本剛が、
思った以上に男らしくてつっけんどんで…なのに妙にドキドキしてしまう。
しかし、このコマメな光一への世話の焼き方見てると、
献身的な妻の姿に見えなくもないから、ほんとに不思議な二人だ。

その時。
「なぁなぁ」と、剛が手招きするので近寄ると、
派手な金の帯を手渡されて「帯巻いて?」と、これまた可愛くお願いされたので、
彼女は、ここぞとばかりに可愛く前結びしてみたら。

「か、かわいい・・・」

これまた、なんでか似合ってしまうんだから軽い衝撃を感じてしまう。


方や剛の要望で、色気を見せるようにあえて女性的な着付けを施してみたら、
見事に普段とは違った柔らかで清楚な色香を漂わせて、美しく着こなす堂本光一と、
方やスタイリストの全く無視な、自ら着こなした個性的ファッションで、
それでも、思わずスタイリストを唸らせてみせた堂本剛。

はぁ、私ってまだまだだなぁ…と反省しつつも、
彼らに負けないようにファッションセンスを磨いて頑張っていこうと、
別の意味でスタイリストとしての彼女のやりがいを見出した二人は、
やっぱり存在自体が凄いのかもしれない。



その後、ヘアメイクが入れ換わり最終的な仕上げを施す。
光一は髪の毛を弄られている内に、また眠気が襲ってきて、
終わった事も気がつかずウトウトしていると。

「ま~た寝る気か、お前はっ」

その声に慌てて目を開けば、ビックリするほどの至近距離に
剛の顔があったもんだから、またしても「わぁっ!!」と叫んでみる。

「お願いやから、ステージ上では寝んといてや?」
『なんでやねん、寝るかっ(笑)』
「なんか危なっかしいねん…もしもの時は、コンサートの二の舞やからな。」
『ひゃ~…やめてぇ~(笑)』
「んふふふ」
『あっ・・・』
「ん?」
『つよし、髪型…』
「髪型?」
『わぁ~懐かしいなぁ~金田一くんやん~w』
「あぁ。意識したわけちゃうけど。」
『金田一くんが、老けたみたいや~』
「いやいや、もともと俺やしね?」
『見た目は、岡っ引きやねんけどw』
「んっふふ」
『岡っ引きハジメちゃん、おもろ~ww』
「なんかしらんけど、ツボにハマった?」
『うひゃひゃひゃっ』
「んふふふっ」

そんな風に、ソファーの上で意味なく笑いながらじゃれ合う二人を、
時間の為、呼びにきたスタッフが、どう声をかけていいのか、
そのタイミングが計れずに、
楽屋ドアの前で、右往左往していることなど、
今の二人には、どうでもいいこと(爆)



       fin





オマケ(現実の記者会見場にて―)

CM曲のレコーディングでの状況説明を身振り手振りで伝えていた剛だったが、
その横で、ひたすら寡黙に座ったまま、
全く話に入ってこない光一に焦れた司会者が、剛の話を遮って声をかける。
「光一さん、光一さん、聞いてます?」
そんな彼女の声に、剛も横へと向き直り、一言。

「あの…光一くん、起きてますか?」

『起きてる起きてるっ(笑)』

「ほんとにねぇ、最近、休み方を覚えてきてるんですよねぇ(笑)」


会場内が笑いに包まれる中、こっそり胸をなでおろす光一だった。




   ―完― 

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