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​「この部屋でキミと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽も暮れた頃、来客があり、
インターフォンが鳴る。
パタパタと廊下をかけてドアを開けたその先には―





「この部屋で君と―」




「いらっしゃい」
「・・・ただいま」
「んふふ、お疲れさん。」

眼深に帽子をかぶりコートを羽織った姿は相変わらずで
小さな荷物を手にしたまま、
剛に促されるように光一はドアをくぐった。
そのまま部屋へと案内されて一歩踏み込んだ時にふと。

「・・・なんや、独特な匂いする。」
「気いついた?」
「うん。」
「ちょっと前に少しだけお香焚いてん。
 海外のやつやけど、ほんのりと森林のやわらかな香りが楽しめるやつ」
「ふ~ん。」
「嫌やない?」
「え?いや、ええ匂いやで」
「そっか、よかった。とりあえず荷物置いてゆっくりしとき。」

そう言って剛は部屋を出て行った。
光一は言われるままにリビングのソファーへと腰を下ろして大きく伸びをする。
ほんの数時間前までは日本にはいなかった自分。
一週間ほど海外に滞在していて、その時間はあっという間だった。
そして予定を終了して日本に舞い戻ってきて、
そのまま直行した場所が何故か剛の部屋という、ありえない状況。

どうしてこうなったかというと―

空港を後にしたタクシーの中で、光一は久しぶりに見る日本の夜景を目にしていた。
東京は自分にとって十分過ぎる程の大都会だったが、
飛び立った先はそれを上回る人の多さと外観に毎回圧倒される。
それでも与えられた僅かな時間に集中して得たものは大きく、満足のいく遠征だった。
とにかく毎日の生活スケジュールを体に刻み込むのに必死で、
その他の事を考える余裕すらなかった自分だったが、
日本の地を踏みしめて、見馴れた景色を捉えた時に
ふと過った存在。

「剛はいま、なにしてるんやろ?」

思い浮かんだままにそう呟いたら、
助手席にいたマネージャーの耳にしっかり聞こえていたようで。
その後こっそり剛とメールのやりとりをしていたのを知ったのは、
彼のマンション前に下ろされてからの事。

時差ぼけで頭が回らずに、暫く置かれた状況をのみこめなかった光一を
さっさと置いて去ってしまったマネージャーを少々恨みながらも、
疲れた足は素直に剛の部屋へと向かっていた。




「・・・あ~やっぱ落ち着くなぁ」


思わず零れたそれは、日本に帰ってきての感想なのかそれとも?

かすめる匂いは癒し効果があるのか、
体からは程良く力が抜け、そのまま眠りにつけそうな程に心地いい。
気がつけば大の字でソファーに寛ぐ自分を、
いつのまにやってきたのか口元を綻ばして見下ろしていた剛と目があった。

「もう寝てもうたんかと思った。」
「あぁ~でも、やばかったかも」
「んふふ、そりゃ疲れてんのやからしょうがないわ。
 でも、腹も減ってるやろ。食べたん機内食だけやろ?」

剛はそう言って手にしていた皿を、光一の前へと並べ始めた。
それは、大好物の豚の生姜焼き。
一週間海外暮らしだった光一には、たまらなく食欲をそそる香りだった。

「うそっ!!ええん!?」
「マンション帰ってもなんもないんやろ?
 明日も朝から移動しなあかんし、ちゃんと食っとかな体力もたへんで。」
「…マネージャーがなんかゆうた?」
「ンフフ、何をゆうねん(笑) 俺の勝手なお節介やから気にすんな。」

笑顔で勧められて、光一は結局そのまま御馳走になった。
その後、少しだけ剛に振られてロス話をしていた時に、
急に思い出したように光一はソファー横に置いていた荷物から何かを取り出して
そのまま、剛へと差し出した。

「…なんや?これ」
「お土産…っていいたいところやけど、そんな時間なかったから代わりにこれ」
「ん?・・・のど飴…」
「ふふふっ」
「それも製造元日本やし(笑)」
「日本大好きw」
「んふふふっ有り難く頂いておきます」
「時間なかってん、ほんまごめんな?」
「かまへんて、観光に行ってたわけちゃうねんから」

剛は光一の手から大事そうに受けとると、
そのまま立ち上がりそして。

「―で、どうする?」
「なにが?」
「自分ち戻るんやったら、すぐに送ってってやるよ」

キーケースにかけていた車の鍵を手に取ってそう告げる剛。

光一の事を気にかけながらも
無理強いはしたくない彼の精いっぱいの優しさに、
でも、この落ち着いた時間が終わってしまう事に、不意に寂しさを感じてしまう。

帰ったところで誰が待ってるわけでもなく
何かをするにも、今日はもうその気もおきない。
それよりも、今はこの部屋の居心地のよさに甘えたい自分がいて。

光一はちょっとだけ考えたフリをして出した答えは。

「もう動きたくない。」
「あららっ」
「リラックスしすぎてここに根ぇ生えてもうた」
「それやったらしょうがないなぁ」
「ふふふっうん。」
「んふふふっ」

嬉しそうに笑う剛を見上げて光一は思う。

日本に帰ってきたんやなって。

やっぱり日本が一番やって。


だからこの部屋で君と―


「光一っこの皿、どうやって運ぶ?」
「ちょっと待てっこれはなっ!!」
「んはははっそれ無理あるっ」
「バランスやっバランスっ」
「やっぱトレイ使った方が(笑)」


   もう少しだけ君と・・・




     ーfinー





 

今頃こんな風に過ごしていたらいいのにねぇ(笑)
妄想といえど、こんなfutariを想像したら(ToT)/

 

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