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「ブティック店員の呟き」

 

 

 

 

 

 

 


  






「ほんと暇・・・」

 



ずらりと並ぶ見目よくたたまれたTシャツを乱れてもいないのに、
崩してはたたんで、たたんでは崩し…
そんな意味のない行動を、カレコレ30分はしているような。

全くもって客の入ってこない店内に、ただボーと突っ立ってると、
それこそ、入りずらい雰囲気を醸し出してしまうので、
とにかく何気なさを装って、仕事をしているフリをし続けている訳だが、
そんな行動も虚しく、朝から開店休業なような状態の店内に、思わずため息が漏れる。

メンズブティックに勤めだして、早3年。
それなりに、接客も上手くなり、ファッションセンスにも磨きがかかったようにも
思えなくもないが、こうも、客がいないと仕事にもなりゃしない…

店長は、昼から本社へと出かけ、同じシフトで出勤してるもう一人の店員は、
食事に出かけてまだ帰らない。
店長がいないのをいいことに、時間をつぶしているようだ。

 腹減ったよ!早く帰って交代しろっ!!

レディースよりは活気がないメンズショップであっても、
バーゲンやフェア開催期間中は、それなりに来店数も多く、
朝から晩まで、慌ただしい日々を送っているわけだが、
その分、その時期以外の店内の様子といったら…この通り。。。
この落差、ほんとになんとかしてほしい。

「だいたい店長の、このセンスは如何なものかと…」

いや、別にセンスが悪いと言ってるわけでは断じてないのだが
どちらかというとわかる人にはわかる、ファッション業界では
口コミで有名人も来店するほどの、品揃えのいいメンズブティックではあるけれど
そうそう、そういうセンスとお金を持ち合わせた人ばかりが訪れるわけもなく、
一般人には、やはり敷居が少々お高いお店となって、
客足も微妙だったりするわけのだ…

そんなこんなで、今日も、一日が長い・・・

また一つ、大きなため息をついたところで、珍しくも店のドアの開く音がして、
待ちに待った来店客が現れた!

「いらっしゃいませ」

声をかけつつ、入口を伺うと
一人の男性が、高級ブティックに臆することもなく悠然と店内へと足を進める。
…と、その後ろを、もう一人の男性が、
こちらはなんとも控え目な感じで、ひっそり後を追って入ってきた…

 し、知り合い??

知り合いにしてはなんだか微妙な距離間で、
友だち?と呼ぶにはあまりに見た目から違和感を感じた。
職業がら、客のセンスを見極める為に、
頭の先から足の先まで、さりげなさを装いながらついつい観察してしまう。

ちなみに、最初に入ってきた男は、グラサンに、色鮮やかで個性的な着こなしに
かなりの存在感を放っている。
これまでの接客で、コーディネイトはお手のものだが、
こういう服の合わせ方は、正直全く思いつきもしない見事なファッションセンス…

これがでも、彼には不思議と似合っているのだから、
服にはかなりの拘りを持っていそうだ。
これは、この店さえ気にいってくれたら、結構なお得意様になりそうな予感。

で、視線を左へとズラすと、もう一人の男。
こちらは、まったくもってシンプルな出で立ち…着こなしもシンプルなら、
色合いもモノトーンで決めている。
スタイルは良いが、帽子を目深に被って、視線を地面から離す様子もない…

前方を歩く男は、店内に入った時から、商品に目を向けるが、
こちらは、まったく興味がないとでもいうように、
商品どころか周り事シャットアウトしている…そんな印象さえ受けるのだが。

でも、派手な男の後ろを、チョコチョコとついて回る姿をみると、
やっぱり知り合いなのかと思ってしまう・・・

ついつい、じっくり観察してしまったが、
派手な(笑)男性の方が、少し商品に興味を持ってくれてるようなので、
ここは、本日の売上をあげるべく、俺は仕事へと舞い戻った。

「何か、おさがしでしょうか?」

彼に近よると、なんとも言えない威圧感が漂うが、
仕事だ!と自分に言い聞かせて、営業スマイルで声をかけてみた。

すると―。

「ええねん。ほっといてくれるか。自分で選ぶわ。」

淡々と告げられた言葉だったが、俺にはその一言と関西弁というだけで
接客放棄するのには十分だった。

 こわっ!!
 あのカッコで関西弁で言われた日には、そのスジの人と間違えそうじゃん!
     
人は見かけによならいとはいうが、
こういうタイプは、近寄らず見守るに限ると、自分の中で一線を引き、
すごすごと店のカウンターに戻ると、そこからひっそり二人の様子を伺う事にした。

そして――
この後、俺は、奇妙な二人に、ひたすらツッコムことになる…



「う~ん…これ?ちゃうなぁ…これ?…あかん―」

さっきから、どういうものを探してるんだろ。
自分の?にしては、彼の好みとはかなり違うような・・・
それにしてももう片っぽのお連れさんは、どうみても付添いって感じだね…暇そう。

「おっ!」

 あ、やっとお気に召したのが見つかったか?

おぉ!
それは店長が至極気に入って仕入れてきた商品ではないの!?
でも、センスと値段に似合う客がなかなか現れなくて、
売るに売れずで困っていたんだが・・・さすが見る目ある…

「これ、お前に似合うわぁ~」
『んん?どれ』

って、自分じゃなくって、そっちの彼の方かい!!

「うん、ええ感じやわ~♪これと合わせて試着してみぃや」
『え~…、めんどい…』
「ええから、ほい。」

ご本人さんはどうにも乗気ナシらしいけど、
有無を言わせぬ感じで、フィッティングルームに押し込んじゃったよ…
たまたま、彼に似合う服を見つけたから勧めたのか
もともと、彼に似合う服を見つけにきたのか?

後者だとすると、どういう関係の二人何だか(笑)

に、しても、彼にあの服着こなせるのかなぁ…
俺なら、絶対すすめたりしないけどな。

それにしても―
どっかで見たことある二人だな?
意外に有名人?
まさかな…

・・・と思ってたら、でてきたよ。
ん?ん?
ま、思ってたよりも、なかなか・・・

「お前、帽子とれや、これには合わんやん」
『どうでもええやん~』
「あかん、はよとれ。」

なんていって帽子とって手櫛で彼の髪の毛整えちゃって、至れりつくせりだね~
ますます、二人の関係がきに・・な・・・な?

ど!どわぁぁぁぁぁあ~~~!!

「ほら♪ やっぱお前に似合うわ~!それにしよ♪」
『そっか~?』

あの、グラサンの男は彼のスタイリストかよっ!?
見事に大変身!というか、似合いすぎ!
まさしく彼の為の衣装だわ・・・
さっきまでの、くら~い、地味~な印象はどこへやら!?
すごい男前じゃん…

・・・いや、まて。
やっぱどこかでみたこと・・・ん?・・・あ・・・

あぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!
思い出した~~~~~~

堂本光一だ!!!!!

ちょ、ちょっと待て。
彼が堂本光一だとすると…あっちの派手な方は・・・

・・・・・堂本剛!?

えぇ!?KinKi Kids!?


なんて、少し離れたところで、状況を把握するのに必死な俺のことなど
全くお構いなしで、和気あいあいと二人の世界で服選びに専念なんですね(泣)
いいけどね、別に・・・

「ん~、あと何着か、ここで選ぶかぁ」
『俺のはええから、つよしの服も買えや』
「俺か?俺は、お前と違って、マメに買い物してるもん。
 光一が、それ聞いて、ええなぁ~いうから連れてきたんやん」
『まぁ~そうやけどさ…』
「せっかく来たんやし、いつもスタイリストの持ってくる服ばっか買ってんと、
 今日くらいショッピングで欲しいもの選んだらええやん」
『ん~・・・』

…なんかおもしろい関係の二人だね。

仕事でも一緒でこういうプライベートでもと思ったら、そうでもなさそうだし。
そっか、堂本光一の方は、普段買い物しないのか・・・
見ててなんかぎこちないと思ってたら、買い物慣れしてないからとは、
同じグループでも、まったく性格の違いそうな二人だな(笑)

「これも・・・」
『あっ、これ、剛に似合うわ!これこれ!!』

自分が試着したことで、やっと周りの商品も目に止まったらしく、
ポツポツと会話しながらも、どうやら彼に似合う服を探していたらしい(笑)

ここにきて初めて?と思える笑顔を見せた。
へぇ~そんな表情もするんだぁ~♪
で、自慢げに堂本剛へと、翳してみせるそのTシャツは・・・

あ、ありっすかね?それ!?(笑)

「えぇ!?」

ほら、堂本剛もびっくりしてんじゃん。
ギャクで勧めているのか、本気で言ってるのか。
堂本光一のセンスは、今だつかめません・・・

『ほらほら』
「ほんまに~?」
『ほんまやって!お前、緑好きやん♪』

えっ、そんな理由!?

「じゃ~買うわ」

って買うんかい!!
試着もなしで!?

すごい買い物するなぁ~二人…
こりゃ~今日の売上ノルマにかなり貢献してくれそうなので、
俺としては素直に嬉しいけど。

「光一、これもええで、着てみ~」

と、思ってたら、まだまだ貢献してくれるらしい・・・
堂本剛さまさまだ~

『・・・それは、俺には合わんやろ。剛の方が似合うって』

おぉ~なんでも言いなりかと思ってたら、ちゃんと自分の意志も伝えるんだな。
当たり前か(笑)
確かにそうだね、堂本剛の方がなんなく着こなせそうだわ。

「んなことないで、お前も似合うわ」
『無理やって、そんな派手なん、持ってへんもん』
「それはお前がより好みするからやん。
 光一はこうのも全然似合うで。…ちょうまてや。店員さ~ん」

なんか奥が深いな~
相手をよく見てるというか、
そんな風に見れる相手っていうのがもう…なんて思ってたら、初めての指名が!!

「あ、はいはい!!」
「これ、こいつに合いますよね?」
「え?あ、はい…似合う、かな?」
「…なんか困ってはんで店員さん。」

いや、今の雰囲気とは全くかけ離れたイメージの服だったんで、つい。
今試着してる服がフォーマル的なら、今度のは思いきりカジュアル。
堂本光一ってそんな明るめのカジュアル服着るの?
あんま知らないからどうとも言えないけど
顔立ちからはあまり想像できないのが本音…

「なんでやねん!これとこれ、持ってきて、ほれきてみろ!」
『え~また?』
「めんどい言うなよ」
『・・・・・』

図星だったらしい(爆)
またしても彼の勧めるままに、
商品を持ち込んでフィッティングルームに入っていった堂本光一。
おかげで、堂本剛と二人きりなんですけど・・・
なんか気まずいので、ちょっと話をふってみよう。

「あの…かなり大胆なコーディネイトですね。
 あの方だったら、もう少し、落ち着いた…」
「なんもわかってへんなぁ~自分。ファッションのプロフェッショナルちゃうんかい。」
「あ、はぁ…」
「まぁ~でも、あいつの場合、もとから決められたイメージって強いからな~
 きてみるまでは、想像できへんのもわかるけどな」

やっぱ奥が深いなぁ~
長年一緒にいると、そういうことまでわかってしまうものなのかな。
売る側としては、そんな冒険するような商品は揉める元なので、
あえて無難なものを進めるものなのだけど。

暫くの沈黙ののち、
フィッティングルームの開く音がして、試着した堂本光一がでてきた。

「ほら、全然似合うやんかぁ♪な?」

な?…とは、俺に言ってるのか、堂本光一に言ってるのか…
そんなことはどうでもいいとして―

・・・すごい。。。。

こういうのもありなんだ、って、軽いカルチャーショックを感じてしまった。
服だけ見てたら、派手に感じれたそれも、
堂本光一が着るとしっくりきて、逆に品さえ感じる。
着こなす人間によって、こうも印象が変わるんだと、改めて知らされた一瞬だ!

恐るべし、堂本光一!!

そして、それを見事に見抜く堂本剛・・・

恐るべし!KinKi Kids!!

―と、一人打ちひしがれる横で、相変わらず周りを無視して二人の世界・・・

「な、ええやろ♪」
『ええけど…どこに着ていくん、こんなカッコ』
「どこでもええやん、
 どっか出かける時にでも着たら。」
『どっか出かけることがないからなぁ~俺。。。』
「・・・わかったから。。。また誘ったるし、そういう華やかなカッコして
たまには外にもでなさい。」
『え~ほんまぁ?』

あ、嬉しそう?
それにしても、さっきから二人の会話が妙に甘く感じるのは、気のせいですか?

「じゃぁ~こんなもんで…」
『ちょ、ちょ~待て!』
「なんや?」
『俺にもお前をコーディネートさせろや!』
「え?なんか似合うの選んでくれんの?あのTシャツ以外に?」
『あれは、冗談として―』

あ、やっぱり冗談だったんだ。

『う~んと・・・これと…』
「・・・・・・・」

・・・・・冗談?じゃない?やっぱ…

『これ、…うん。よし! はい、これ試着して。』
「…わかった。」

あ、着るんだ。
確実に、違う…って顔に書いてたけど(笑)
この二人、真剣なのか、遊んでんのか。
そんな二人のノリについていけない自分が悲しい…

と、思ってると。

『ふふふ(笑)』

あ、堂本光一が笑ってる。
クールなイメージしか持ってなかったけど、意外に幼い表情したりすんだなぁ~

『なぁ、あれ、つよしに似合うと思う?』
「え?」
『あんなん、コーディネートされたらいややんなぁ~♪』

あ、やっぱ冗談!?
そうだよね。
確かにあり得ないコーディネート。
でも、彼のセンスがいまいちわかってない俺としては、
冗談なのか本気なのかが、見ぬけてなくて(苦笑)

で、ふと思ったけど、実は、この状況、二人して楽しんでる?
俺、完璧、その遊びに付き合わされてる!?

「着たで~」
『おっ、はよ、でてこいや』
「おぉ~」

気ノリない声が返事したかと思ったら、
試着を終えた堂本剛が、フィッテングルームからでてきたが―
絶句・・・
そこには、グラサンを外した、正真正名、素顔の堂本剛が立っていた。

『!!!!!!』
「どうや?似合うか?」
『おまえ…めっちゃムカつくわ・・・』
「なんでやねん(笑)」
『似合う!似合う!!それ買えや、おまえ~』
「え~いやや~こんなん~(笑)」
『ひゃはは(笑)』

堂本光一が、ムカついた気持ちよくわかる…
どうみてもあり得ないコーディネートされた服を渡されながら
しっかと、自分流に着こなしてみせた堂本剛。
フィッテングルームに入りしなに、近くのアクセサリーやベルトを、
一瞬でひっつかんで入ったのは、こういう為…

袖を折ってみたり、ベルトでアクセントつけてみたり、
ただ着るのではなく、そこに色を加える着方で、
自分のファンションにしてみせるのはやっぱりセンスのある人間だからだろう。

ほんとまいった・・・

ってか、この二人、なに着ても似合うんじゃ!?

考えてみたら、芸能人だし
キラキラのアイドルだし?
俺の、出る幕ないじゃん??
はぁ~
もういい。付き合いきれない…

まだ、なんだかんだと楽しんでる二人を後にして、
俺はカウンターへと戻り、彼らの会話に耳を澄ますこともやめにした。
ほどなくして、やっと納得した二人が、会計にカウンターへとやってきた。

「これ、頼むわ~」
「はい、ありがとうございます。
 …あの、会計はご一緒でもよろしいのでしょうか?」

すると、二人顔を見合わせて。

『ちなみに、俺、財布持ってきてへんで?』

え~!?ショッピングに来て財布持ってないって!

「やっぱりな・・・ええわ、一緒で会計して」

え~!?やっぱりな。で終わり!?
かるく電卓たたいても…結構な金額なんですけど~~!!

『また、後から清算して渡すし』
「ええよええよ。今回は俺が誘ったし」
『ええの?じゃ、次は俺がもつわ!』
「うん。」

なんなんだろ~なんなんだろ~この会話・・・
二人のイメージが尽く塗り替えられていくんですけど…

『このあと、どうすんねん』
「どっか行きたいとこあるか?」
『じゃ~…車のぉ―』
「腹減ったし、なんか食うか」
『無視かい(笑)』
「んふふ(笑) いくかっ、そんなもんっ」

しっかと会計をすませると、
そんな、二人にしかわからないような会話を弾ませて、
それはそれは楽しそうに、店内を後にしたKinKi kids・・・
そんな二人とすれ違うように、

「ただいま~、遅くなってごめん~♪ あれ?どうしたの??」

いまさら帰ってきたもう一人のスタッフが、机に懐いてる俺を見て言った言葉に

「遅すぎ・・・」

精魂尽き果てた俺は、その一言を言い残して、スタッフルームへと向かう。

「おぉ~!!すごい売上じゃん!!」

背後で歓喜を上げる同僚を一人残して・・・


お、おそるべし!! KinKi Kids!!!





☆おまけ☆


それから、数週間後…
その日は何だか寝付けなくて、何気に夜更かししながらテレビをつけていると―

「あっ!堂本剛・・・」

そこには、あの日、さんざん振り回された芸能人の片方が
画面の向こうに映っていた。
それも・・・

「あの服、あの時の…」

どこかで見たと思ったら、剛の着ていた服は衣装ではなくどうやら自前らしい。
それも、見覚えのあるそれは、あの時、買っていった服。

実は光一へと勧めた派手なカジュアルシャツだったのだが、
「剛も似合う」と、逆に勧められたようなので、色違いで買ったようだ。
それは清算の時に気づいたことだったのだが。

「堂本剛の着てる服を、ペアルックで堂本光一も持ってるってことは、 
 俺だけが知るってやつだな。なんか、すごい秘密を握った感じ(笑)」

 でも・・・ほんと、仲のいいコンビだよな、あの二人は♪」

またぜひ、二人で来店してほしいものだ!! (懲りないヤツだな、俺って笑)


               fin 


 

 

 

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