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「バーガー店員の呟き(ドライブスルー編)」

 














「ちょっと…まだこんな時間…」

ちらりと時刻を確認して、私はひっそりとため息をついた。


某ハンバーガーショップの、ドライブスルーでのインカム担当の私は、
車が入ってくるたびに、対応に追われていたけれど、
忙しい時間帯も過ぎ去り、世間もそろそろ寝静まろうかという時間帯に入ると、
どうやって時間しのぎしようかと言う程の暇な状況に、いつもため息が洩れてしまう・・・

スマイルをモットーとしている仕事なので、笑顔は絶やすことはないけれど、
それはお客様がいての話であって、今の私はかなりやる気のない顔をしてると思うの。

猫の手を借りたいほどの忙しさも辛いけれど、こうも暇なのもやってられないわ。
いつも、この時間はこんな調子なんだし、
24時間店を開ける必要もないと思うのだけど―

あぁ、早く帰りたい…
私の勤務時間終了まで、あと1時間ちょっと。
帰れば、やりたいこともいっぱいあるし、見たいDVDもたくさんあったり。
こういった仕事でのストレスを抱えた時こそ、
大好きな彼らの、お気に入りのDVDを見て癒されるのが私の毎日の日課なんだもの♪

今日は、どれにしよっかなぁ~
あの時のLiveDVDにしようかしら?それとも録画した番組をリピってみようかな!

・・・なんて。
そんな風に考えるだけで、この退屈な時間も一瞬にして幸せな時間に変わるんだから不思議!
こうやって頑張って働けるのも、彼らのおかげ、そして彼らの為!
ここまで言いきっちゃう私ってどう?(笑)
さすがに、同僚にはこんな一面は見せていないけれど、もしも知られたら引かれるかしら(汗)

思わずボーっとそんなこと考えてたら―


「安藤さん?」
「・・・あっ!なにっ!?」
「…どうしたんです?さっきから、笑ってみたり、無表情になってみたり…」
「え!?…あっ! ちょっとした表情の練習よっ!」
「あ、そうなんですか。」
「えぇ!スマイルスマイルッ!!」


あぁ、やばいやばいっ!思い切り顔にでてたみたいね。
彼らのことを想う時には気をつけないとっ!
そんな反省をしていると、やっと一台の車がやってきたみたいっ。
気持ちを切り替えて、お仕事お仕事!!


程なくして、お客様とのインターフォンが繋がった。

『いらっしゃいませっ!ご来店ありがとうございます。 
 お客様の御注文はお決まりでしょうか?』


そう言って、いつものマニュアル通りのセリフを伝えた私はしかし、
この後、まさかの奇跡の出来事に遭遇するのだった!!



「え~っと…。ダブルチーズバーガー…と。」
『セットですか?単品ですか?』
「あっセットでっ」
『はい、ダブルチーズバーガーセットで』
「・・・おまえはどうする?」

あ、一人ではないのね。
カップルかしら?
と、声のトーンで判断しながら、対応を続ける私(笑)

「なんでもええよ」
「なんでもええじゃ、困んねんけど…」

いやん、関西弁だわ!
私の大好きな彼らと一緒!!
それもカップルかと思ったら
男同士のドライブか何かなのね。

「いっそ、ビックマックぐらいいっとくか?」
「…ビックマック食べよ、思うほど腹は空いてへん。」
「―じゃ、てきやき?」
「う~ん…」
「それともいっそあっさりとフィッシュバーガーとか。」
「・・・お前と一緒でええわ」
「いろいろ言わせといて、一緒かいなっ!」
「ふふふ(笑)」
「ダブルチーズバーガーセットてええの?」
「うん」
「すみません、ダブルチーズバーガーセット二つで。」
『はい、ダブルチーズバーガーセット二つですね!』

さすが関西人、会話も漫才のようね…(笑)
それにしても―
この人たち、なんとなく、声の感じが二人に似ててドキドキするわ!

そうねぇ~声の感じからして、私と直接対応してるのが、剛くんっぽくて、
隣で彼と話してるのが光一くんっぽい(笑)
関西弁と声の雰囲気だけで、そんな変換してしまう私も、相当イタイファンだけど(笑)
二人を連想するものには、ついつい反応してしまうっていうのが、ファンの性よね~
赤の他人であろうとも、似てる声を聞いてるだけでも幸せ感じちゃうから、
この際、お客も他にいないことだしもっと会話をふっちゃえ私っ!
売り上げ貢献、楽しみ倍増!!


『その他にご注文はございませんか?』
「他に…なんにしよ。…あ、バニラシェイクも頼んどこかな」
「他になにがあんねん」
「メニューみてみ。いろいろあるやろ」

そう言われて、助手席から身を乗り出してるのかしら?
少し間があって、やっと声が聞こえた。

「久々来たら、なんや種類増えてるな…」
「そりゃ~企業努力でしょう。」
「・・・あれ?このマックポークってなんや?」
「ん?あぁ、これな。牛肉のハンバーグやなくて、豚肉使用してるみたいやな。」
「へぇ~。食べたことあんの?」
「うん、何回か食ったことあるよ。」
「どんな味?」
「なんかな、ソースがええ感じで酸味あって、ポークにマッチしてて
 低価格の割に、結構うまかったで。」
「ふ~ん」
「そういえば、おまえ、豚しゃぶや豚の生姜焼きとか、豚肉使った料理、結構好みやん」
「うん」

えっ?なんですって?
豚しゃぶや豚の生姜焼きが好きだったりするんですか?
その光一君の声に似たあなたがっ!?
それって光一君もよく食べてるって聞いてるんだけどっ!!
なんていう、リアル単語が会話に含まれたりするのよ…


「案外、お前の好きな味かもしれんな。注文するか?」
「いや、いらん。」
「いらんのかいっ(笑) 興味ありそうにフッといて・・・」
「そんな腹空いてへんってゆったやん。バーガー2個もいらんわ~」
「んふふ(笑)」

笑い方も剛くんそっくり・・・

耳元で、二人の会話を聞けば聞くほど彼らを想像し、
どんどんと、もしや本物なのでは!?なんて、期待感が増しちゃうっ。
思わず違う角度からのモニターでチェックいれてみたら、
運転席から注文していると思っていた彼は、実は助手席から話しかけてたようで、
左ハンドルの車だったことが判明(汗)
車種には全く以て疎い私なので、何の車なのかはわからないながらも、
とりあえず、帽子を被ったその人だけはどうにか確認できたの。

で、どうだったか?というと―

なんとなく~剛くんのような、いやいや私の勝手な思い込みのような・・・
まぁ、商品の手渡しの時に、しっかり顔を合すわけだから、
顔見て、ごめんなさい―ってなるのがオチだろうけどね…(笑)

―と、いつしか自分の世界に入ってると。

「あの―」

その声に、すっかり仕事を忘れていた自分に気がついた(笑)

『あ、はいっ! お決まりですか?』
「何度もすみません、バニラシェイクと、マックポークも単品でひとつお願いします。」
『バニラシェイクとマックポーク単品でおひとつですね。』

あら?マックポークはいらないんじゃ…?

「なんでやねん、いらんゆうてるやん。」
「いや、俺が食べるからええねん。」
「お前どんだけ食うねん。」
「その時に、一口でも味見したらええやん?―で、気に入ったら次から
 買ぉって思うかもしれんしな。」
「・・・・・」


や、優しい・・・
ってか、なんだか友情を超えるような甘い会話なんだけど―
いっそこれがコン会場でのKinKiの会話だったら、
キャ~!! なんて言って、黄色い悲鳴あげてるかもね、私(笑)

ほら、また自分の世界に入りそうになった(爆)
お仕事、お仕事!


『ご注文は以上でよろしいでしょうか?』
「はい。」
『あの、ダブルチーズバーガーセットなんですが、
 サイドメニューは、ポテトになさいますか?サラダになさいますか?』
「俺はポテトでええけど。。。どうする?」
「俺もポテトでええよ。」
『両方ともポテトで。―で、お飲みのもなんですが・・・』

そうよ、飲みものよ・・・
ここで、コーラとオレンジなんて言われたら・・・

「コーラやんな?」
「もちろん」
「コーラとオレンジで」

・・・・うそっ・・・
こんなに彼らを連想するキーワードが揃うものなの!?

『ご注文…以上でお受けいたしました。
 お車、前の方へ移動、お願いいたします・・・』


ど、どうしよう…
違う、違うと自分に言い聞かせながらも、どこかで期待に胸膨らませてる私がいるの。
でも、東京からかなり離れたこんな片田舎に、あの二人が来るはずがないものね。

そうよ、結局顔見て幻滅するだけよ…
一時の淡い妄想よ、ありがとう- と思うだけよ…
ね。そうよね。
そうなのよ。
そうあるべきなのよっ。

―ブツブツと自分の中で呟きながらも、でも気になって気になって・・・
窓口から思わず身をのりだした私は―



  Σ(───┬───▽───┬───;)マジ?



卒倒しそうになった。

いやっ! 卒倒してる場合じゃないっ!!
慌てて、厨房に入って、揚げたてのポテトを入れてる山下君の手をひっつかんで、

「かして!私がやるわっ!!」
「あ、安藤さん?」

めいっぱい入るだけポテトつめた後、
今度は飲みものを注ごうとしてる佐々木さんの押しのけて、

「私が入れるわっ!」
「あ、安藤さん!?」

あっけに取られた皆の視線もなんのそのっ!
手当たり次第、詰めれるものを袋に詰めると、
窓口横で会計と商品の受け取りを待つ彼らの元へ戻り、
そして、これ以上ない自慢のスマイルで、


『ご注文いただきましたご会計は○○○○円になります』

努めて冷静に言ってみせた。


「はい。」―と言って、財布からお金を支払う彼は…


・・・つ、剛くんじゃない…どうみても剛くん以外何者でもないじゃない(T_T)

半分泣きそうになりながら、商品を手渡ししたら、

「ありがとう。」

そう言って、ニコリと微笑んでくれた。

・・・感動ヽ(///>_<;////)ノ

この際だからと、首を傾け、運転席を覗きこむと、
剛くん以上に目深にかぶった帽子のせいで、素顔はかなり見えにくかったけど、
それでも―

・・・こ、光一くんじゃない…どうみても光一君以外何者でもないじゃない(T^T)


いっそ思いきって、大胆にも

「お買い上げありがとうございました。 またのご来店、お待ちしております!!」と、

声をかけると、「どうも」と言って返してくれた。


まるで、夢のような一瞬・・・


そのまま、ゆっくりとアクセルをふかし走りさるのかと思いきや―
突然、道路へ出る手前で停車したため、私は仕事もそっちのけで車を凝視した。

すると、運転席と助手席のドアがそれぞれ開いたかと思うと、
二人が外へと歩み出て、立ち話しを始めた。
何を話しているんだろうと、すごく気になりつつも、それはほんのわずかな時間であって、
さっきと逆に、剛くんが運転席へ、光一君が助手席へと変わって乗り込むと、
今度こそ本当に、エンジン音を響かせて私の目の前から去ってしまった。

あぁ・・・いってしまった・・・ほんとうに―



「・・・安藤さん?」

「・・・・・」

「安藤さんったら。お札握りしめて、なに遠くを見つめてるんですか?」

「・・・お願い」

「はい?」

「私を現実へと戻さないで・・・」

「は?」

「もう少しこの幸せに浸らせて・・・」

「・・・山下くん、安藤さんがおかしいんだけど…」

「仕事のしすぎで充電切れじゃないんですか?」


ふふ。なんとでも言ってて。
今の私は、現実逃避のまっただ中なのよ。
できるなら、もう一度あの二人の会話を再生したい…(涙)






            -END(笑)-







―おまけ―


「なぁ、つよし~」
「ん?」
「お前が頼んでたのって、ダブルチーズバーガーセットにシェイクにポークだけやったよな?」
「うん。なんで?…入ってへんの?」
「その逆・・・チキンナゲットや、アップルパイやら入ってんで?」
「は?なんで?」
「だから、俺もなんで?って聞いてんねん。」
「誰かの注文と間違ってもらってきてもうたんかな~」
「でも、俺らのほかに客一人もおらへんっぽかったけどな。」
「じゃ、なんでやろ。」
「・・・・・あれ?これなに?」
「まだなんか入ってたんか?」
「これ・・・」

ちょうど赤信号にひっかかったので、ハンドルを握ってた剛はパーキングに入れて、
光一から、マックのクーポン券を受け取った。

「何個か切り取られてる…」
「うん。」
「この切り取られた部分が、アップルパイとかナゲットの無料券やったんかな?」
「意味わからん・・・」
「そういえば―」
「剛、青になったで。」
「あ、はいはい。」
「ま、ええんちゃうか?それより、シェイク溶けんで。」
「あ~!あかんあかんっ!飲ませてっ!」
「え~(笑)」
「冷たいうちに飲まな意味ないやん…」
「しゃ~ないな~(笑)―ほれっ」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・ふふ(笑)」
「あの、微妙にストローずらして遊ぶのやめてもらえません?光一さん…」
「うひゃひゃ(笑)ごめんごめん(笑)」
「あ、マックポーク食ってみ?ほんま。一口でもええし。」
「あぁ~うん。」
「絶対、お前の好みにジャストヒットやと思うで。」
「味覚も似てきたもんなぁ~」
「うん。」
「じゃ~頂きます。」
「あ、シェイク飲ませて!」
「っ!! 忙しいんですけどっ!!」
「んふふふ(笑)」





 そういえば―
 
 潤む目と震える手で渡してくれた彼女は・・・ファンのこやったんかもしれへんな―
     





     



―END―

 

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