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「テツヤッ!」

手にした料理皿を客のテーブルに運ぼうとしてた僕は、店長の呼ぶ声にハッとなる。

今、何時!?

オーダーを受けてたテーブルへ料理皿を並べながら、
たまたま置きっぱなして話し込んでる客の携帯をちらりと確認して、
もうそんな時間だった!と慌てて、呼ばれた方へと駆けだした。
そして―

「よぉっテッちゃん!来たでっ」

僕を見るなり、笑みを浮かべて挨拶してきたのは、
本日この店に予約を入れていた堂本剛君、その人で。



「いらっしゃいませっ!」



僕もつられる様に頬が緩んだ。



 

 

 

 

 



 

 

居酒屋店員の呟き

 

  






僕の名前は新城哲也。
居酒屋でバイトをしてる大学生。

居酒屋と言っても、結構洒落てて隠れた名店と噂されてる自慢の店だ。
なので、お忍びでやってくる芸能人も少なくはなく、
おかげ様で日々繁盛して忙しい毎日を送っている。
そんな芸能人の中に、この店を贔屓にしてくれる某大御所ミュージシャンがいて、
ちょくちょくその業界の知り合いの方を連れて来店してくれるありがたい常連様なんだけど、
その方が剛君を連れてやってきたのはもう~1年ほど前になるんだろうか。
それから、剛くんも常連となってこの店に友達を連れて来店してくれるようになったけど、
そのキッカケというのが言葉のイントネーションで、
ほんの僅かな僕の話し方を、敏感に察知した剛君。

「あれ?自分、もしかして関西出身?」
「あ、はい!僕、奈良出身で東京の大学受けるためにこっちに上京してきたんですよ。」
「おぉ~奈良かぁ~!」
「堂本さんも、確か奈良でしたよね♪」
「ぉん、奈良人なんか嬉しいなぁ~えっ?どこ?」

そんな会話から急激に親しくなって以来、「剛君」と馴れ馴れしくも呼ばせてもらい
店員と客という立場ではあるけれども、素敵な関係が続いている。

今日は、大学も休校だったので昼から店に入って夕方からの準備を手伝っていると、
突然「2名で個室を予約したい」と剛君から電話があった。
ちょうど、キャンセルの電話があったところだったので
タイミングよく予約を承諾できてなりよりだったんだけど、
普段、剛君は個室を使わないで普通にフロアのテーブルでみんなとワイワイ騒いでいる人だったから、
これは、ちょっといつものお友達関連ではない人と来るのかな?と、興味津々になりつつ(笑)
それでも、久々に剛君に会えることが何よりも楽しみだった。





「突然の予約で悪かったな…」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ、逆にグットタイミングッ!!」
「んふふ(笑)」
「一度だけ使われたことのある…あの部屋でよかったんですよね?」
「うん、急やったからほんま無理かな、思ったけどよかったわほんま」
「ですね!じゃ~すぐご案内・・・あれ?お連れ様はまだ?」
「え?…いるやん。」
「・・・あっ!失礼しましたっ!」
「んふふふふっ、お前オーラ消しすぎや」
「・・・ん?」

いや、ほんまびっくりした!って、関西弁飛び出るほどっ。
その剛君のお連れさん、ニット帽を目元までかぶり、
入口付近の死角になる壁にひっそりと凭れていたのもあるんだけど、
ちょうど自分の立つ位置から、剛君とぴったり重なりあってたのでさらに気がつかなかったっ!!
申し訳ないと思いつつも、ほんとに剛君の知り合い?なんてちょっぴり勘ぐってみたり。
でも、オーラ消しすぎってツッコむ剛君の言葉に、その彼も芸能人らしいのがみてとれて。
とにかく慌てて予約された部屋に案内した。

 


淡いブルーの照明のその部屋に入ると、剛君は小さな息をはき、

「そうそうこの部屋。なんか落ち着くわ」

そう言いながらお連れの方と向かい合わせに座る。


「一応、メニューとかもある程度頼んでるけど、他に食べたいのとかあるか?」
「・・・」
「お前の食べたい奴は大抵、頼んでおいたけど」
「やったら、別にええわ。」
「飲みもんは?」
「剛は?」
「とりあえずビールにしとこかな」
「じゃ、俺も」
「ん。テッちゃん、ビール2つ頼むわ。
 あとは、電話で頼んだメニュー適当に見計らって持ってきてくれたらええし。」
「あ、はいっ」

普段から、人にはマメに気遣う剛君ではあるけれども、
今日はいつもよりも相手に甲斐甲斐しく接してるように思えるのは気のせいか?
そんな二人の様子に若干気になりながらも、とりあえず仕事へと戻ろうとしたその時。
剛君の真向かいに座る彼が、帽子をとり上着を脱いだのをちらりと伺って初めて、


「あっ!!堂本光一っ!」


お連れさんが剛君の仕事のパートナーだと知り、思わず大声で呼び捨てにしてしまう。
今ごろ気づいた自分にもびっくりだが、その声に反応して驚いてる二人もなんだか可笑しくて。

「あ、テッちゃんに紹介してへんかったな、相方の光一や」
「…初めまして」

小さく頭をさげる彼に、こちらも慌てて頭を下げつつも、
「相方」といって紹介する剛君に「芸人かいっ!」ってツッコミそうになる(笑)
いや、こんなカッコイイ芸人はなかなかお目にかかれないってか、いるはずないんだけど。
でも、なんかこじんまりとしてて芸能人オーラバリバリでない二人の雰囲気が、
緊張感なく接っすることのできる理由かなと思うと納得いって。
それよりも、仮にもKinKi Kidsの堂本光一が、
剛君よりも遥かに目立たない事にかなり驚きつつ(テレビで見る分には、存在感ありまくりなもので笑)
でも、自然体で剛君の傍にいる彼に、逆に今までより親近感をもってしまった自分だった。


「テッちゃんにも以前ゆったと思うけどさ、この店な、一度お前連れてきたかってん」
「あ、そうなん?」

そんな剛君の言葉に、自分の方が反応してしまう
―え?言ったっけ?覚えてない、すみません(汗)―

「この店の名前みた?」

―でもって店の名前?―

「さっきちらってみたらローマ字で“yoiyami(ヨイヤミ)”って」
「うん、そう」
「それがなんやねん」


―たしかに、なんやねん(笑)―

「今は、この店の雰囲気にあうようにローマ字で表してるけど、
 もともとは違ってんやんな?テッちゃん。」
「あ、はい。もともとは和のイメージの店構えだったんで、店名も「宵夜海」と漢字でしたね。
 この部屋とかは、以前のままのイメージが残ってるんで、あ、これなんかにも店の名前がそのままにー」

「・・・宵夜海・・・宵の夜の海。」

店名をゆっくりと呟いていた彼、光一君がふと何かを感じたのか目の前の剛君へと視線を向け、
二人にしかわからないアイコンタクトで語る。
剛君が何を伝えたくて、それを彼がどう捉えたのかは僕には全くわからなかったけれど、
そんな彼の視線を受け止めた剛君のその時の表情が、今まで見たこともないような優しい笑みに変わり、
思わずその顔に見とれてしまったのは内緒です(笑)

しかし、光一君はというと…

「だからなんやっちゅ~ねん~」

そんな剛君につっかかるように素気無く答えてみせるんだけど、でも。
言葉こそそっけなく聞こえるが目元は何故か柔らかく湛えてて、いっそその呟きも甘く感じたのも、
突然の二人だけの世界を目の当たりにし、それに感化されたからなのか…

ふと、二人の間に生まれた微妙な“マ”に敏感に察っした途端、急に居心地悪く内心戸惑ってると、

そんな空気を一層するかのように突然剛君がクツクツと笑いだし。

「ようは、海の幸が美味いっちゅ~ことですよ。」

あ、なんかうまいこと話をまとめてしまったような…

でも、そうなんです!
うち漁場直送の新鮮魚介料理が売りの居酒屋なんで、常連客も多いんですよね♪
って、そんな店の宣伝はどうでもいいとして…
結局、僕自身はこの店の名前が、二人にどう関係しているのかもわからないままではあったけれど、
なんだか二人の中では分かり合えたようなので、そこは素直に喜んでおこう。
この店の何かのきっかけがあって、剛君が彼を連れてきてくれたのだったら…


「テッちゃん、ここの料理で光一の舌唸らせてやってや」
「は、はいっ!とりあえず先にビールお持ちしますね!!」
「頼むわ~」

いつもながら、気さくに話しかけてくれる剛君なんで、ついつい仕事が疎かになりがちで(汗)
気がついたらまだ注文のビールも、付け出しでさえ出していなかったことに、
慌てて僕は厨房にかけこんだ。

その後、彼らの部屋に何度か足を運ぶんだけど―
それからの二人の少しづつ変化していく姿を、僕はさらに目の当たりすることになる(笑)









「おまたせしましたっ」

オーダーのビールと、付け出しの皿をそれぞれの前に置くと、
とりあえずビール片手に「なんに乾杯しよか?」と言いながらも小さくジョッキを鳴らした二人。
すでにお昼の電話の時点で、セットメニューといくつかの単品料理の予約は聞いてたので、
ビールのアテになるものを2,3品選んで、テーブルに並べると―

「おぉ…これなに?酢の物?」
「まぁ食べてみ~や」
「…あ、うま~い…」
「こっちのもお前好きやろ?」
「・・・ん~歯ごたえがたまらんね♪」
「んふふ(笑)」

さっそく興味津々で皿に箸を伸ばした光一君。
あぁよかった。
どうやら彼の味覚にヒットしたようだ。

しかし・・・
他愛のない会話なのに…ってか、ただ食べてるだけの図に、
なんとなく見てて気恥かしい気持ちになるのは何故だろう?
光一君は無心に食べてるし(でも、食べ方に豪快さがなくちまちまとつつく姿が小動物のよう笑)
それを嬉しそうに見守りながら、ひとつひとつ料理の説明してる剛君がいつもの彼の雰囲気と違う事に
僕は、少なからずの疑問をもった。

―今、目の前にいるのは、ダレですか?―

そういや、オーダーのメニューからすでにいつもと違ったもんな。
普段は結構腹にくるような肉や魚を主にしたメニューのオンパレードだったりするのに、
今回は、いやにあっさりとした…例えれば高年齢のサラリーマン男性が好むような一品の数々?に
“剛君、ダイエット?それとも胃の調子悪いんですか?”なんて、
一瞬電話口で聞き返そうと思ったくらいだったんだけど…

―でも・・・なるほど、そういうことか。―

彼の食の好みに合わせたのかな?
そ、それにしても…華やかさが…
アイドルというKinKi Kidsのイメージが少し変わったかも?(笑)

それより何より、やっぱり普段よりも甲斐甲斐しく世話をやく剛君に、
彼(光一)の存在が、仕事仲間?という言葉だけでは片付けられない雰囲気を感じとれて、
ここにきてますます二人に興味をもってしまっ僕だった。

そんな事を考えながら物思いに耽ってたら、

「テッちゃん?…悪いけどビールもう一杯追加」

と、目の前にジョッキを差し出されて、一気に現実に戻る。

「あぁ、はいっ!…って、はやっ!もう飲んだんですか?」
「喉渇いててん…うまかったわ~」
「お前、腹にもの入れんと飲んだらすぐ酔いまわるで?」
「大丈夫大丈夫やって。時間はたっぷりあるから、ゆっくり頂きますよ。」

すでに心地よさそうな声で呟く剛君と
こちらもさっきまでとはどこか雰囲気が違って、ほわんとした表情で剛君を見つめる光一君…
飲み始めて、まだ5分も経ってないのに、すでに中盤のような雰囲気を醸し出す二人に、
え?今からこの調子じゃこの後どうなるの?なんて、すでに心配してる自分って一体何者だろう?(笑)

―いやいや、いつもの剛君は豪快に飲んでても
 絶えず最後まで周りを仕切ってるタイプの人だったじゃないか!心配する必要なんかないはずや!―


と、何故か必死に自分に言い聞かせながら、次なる料理と追加のビールを運ぶために
僕は、今一度二人のいる部屋を後にした。





セットメニューの海鮮鍋の用意と、2杯目のビールもしっかり手にして再び彼らのいる部屋へとやってくると、
少し揉めてる様な?声が襖の向こうから聞こえてきた。

慌てて「失礼します」と部屋へと入ると―


「―だから?なんで!?」
「なんで?って…お前のもその機能ついてるやろ?見せてみぃ」
「知らんもん、そんなん使ったことないもん」
「知らんて…ええのん持ってても使いこなせてなかったら意味ないやん…」
「別に、それでもいっこも生活に支障はないからええねん。」
「・・・やったら聞くなや。」
「でも気になんねん、どうしたらそうなんの?」
「なんやねんっ!めんどくさいわ~」


声のトーンから一瞬まさか!?とも思ったけど、
二人してテーブル越しに身を乗り出して顔を突き合わせ、
何故か一つの携帯を覗き込むように話し込んでるだけで、意外に笑顔で楽しそう?
会話と二人の表情の違いに、聞いた印象と見た目とのギャップを感じて、
僕の方が「なんだかめんどくさい二人だ」とツッコミたくなった。

「剛君、ビール置いときますね。」
「おぉ~サンキュ。…だからな?」
「うん…」

何について語ってるのか…携帯画面に食いついたままの二人なので、僕はさっさと鍋の用意をしていく。
片づけた皿をさげ、先に聞いていた残りの一品皿も一緒に並べると、そのままそっと部屋を出た。
その後も何度か飲み物などの追加で剛君たちのところに顔を出したりを繰り返し、
二人がやってきてから一時間半ほどを経過した頃だろうか?
再度、追加オーダーのあったお酒を持って二人の元に伺ったら、
剛君はいつの間にか光一君の横へと移動して、
今度は二人して部屋の片隅の壁際に寄り添うようにして話し込んでいたのだ…

―それなりに広い部屋に、なんで二人してそんな隅っこやねん・・・―

本日、何度めになる心のツッコミだっただろう?(笑)

そんな部屋前で棒立ちの僕を見るなり剛君が、

「ちょっ、テッっちゃんテッちゃん!こいつの相手したってっ!」

と、何故か助けを求めるかのように手招きをするので近寄ると―

「え?なに?聞いてくれんの?」と、初めて?と言っていいほどまっすぐな瞳を向けて、
嬉しそうに光一君が話かけてきたもんだから、なんとなく僕もつられてつい、
「何をですか?僕でわかる話なら。」と答えると、
「あ~あ、知らんでぇ~」と助けを求めたはずの剛君が、笑いを堪えるようにポソリと呟いた。

―え?何?なんで!?―と、一瞬ドキっとしつつも、
どっちに対して「知らんでぇ~」と剛君が呟いたのかはこのすぐ後にわかったけど(笑)



「あんな?ほ~んま真剣に話したいねんけど、誰も相手してくれへんねん…」
「あぁそうですか…」
「めっちゃタメになる話やねんで?語りあいたいねんっ」

お酒も入って饒舌になってきたのかな、光一君(笑)
なんか、関西弁のせいもあるかもしれないけど、妙に舌ったらずな喋りかたする人だなぁ。

「で、何の話について語りあいたいんですか?光一君は」
「あのさ、相対性理論とか、興味ある?」
「…んふふ(笑)」
「あ~、いいですよ?語りあいましょうか?」
「・・・え?」
「ゆっとくけどテッちゃん、現役大学生やからな」
「ちなみに、物理学科専攻なんで結構語れると思います」
「・・・うそぉ~!?」
「よかったなぁ~光一、今までになく熱く語りあえそうやぞ?」
「・・・・・」
「光一君がそういう物理学的な話に興味があるだなんて逆に嬉しいですよ♪
 よかったらいろいろ僕に教えて下さい!」
「なんでやねんっ!(笑)」
「アハハッ(笑)」
「あのですね、アインシュタインの相対性理論には、
 「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」とがあるじゃないですか。」
「う、うん…」
「その特殊相対性理論も2つの大きな原理に分かれますよね。
「特殊相対性原理」と「光速度不変の原理」ですが。
 もちろん「一般相対性理論」にも二つの原理があって、「一般相対性原理」と「等価原理」ですが―」
「わかった!十分!(笑) それ以上難しい単語並べられても、俺、絶対ついていかれへんわ…」
「いやいや、難しい単語って…序ノ口ですよ?ここからですよ?相対性理論を語るなら」
「んふふふ(笑)」
「わかったっ!相対性理論はまたいずれゆっくり語りあうとして、水の不思議について話しよか?」
「水ですか?」
「水って不思議やと思わん?」
「…不思議ですよね~。こぉ~ものに入れると形も変わりますしね。」
「そうそうっ!個体や、気体にも変わっちゃう物質ってなかなか存在しないでしょ!」
「なにより、人間の体内の半分はその水でできてるんですからねぇ~」
「そうやねん~ほんま不思議やんなぁ~」
「あのさ・・・」
「ん?」
「俺を挟んで両方から不思議やなぁ~連呼せんといてくれる?」
「やって、不思議やから不思議やなぁ~って話しをしてるんやないかっ!
 いや~自分とはめっちゃ話合うわ~嬉しいわ~」
「よかったなぁ~テッちゃん、光一に懐かれてもうたで?(笑)」
「いや、嬉しいです♪なんなら、いつでも剛君と一緒に来店してくだされば、
 喜んでお話に入らせてもらいますよ!」
「んふふ(笑)俺を混ぜるな、俺をっ!」
「あはははっ」

そんな楽しい一時を、突然「テツヤッ」と呼ぶスタッフの声に遮られた。
どうやら、店内が満員御礼状態でスタッフの手が足りないようだ…
しょうがないから「ガンバレや~!」と二人に手を振られながら渋々フロアーへと駆けつける。

あ~あ、せっかく二人と一緒に話せて楽しかったのに…まぁ仕事中ではあったけども(笑)
それにしても光一君って、見た目から接しにくい雰囲気の人だったから、
まさかあんな風に気さくに楽しく話せる人だとは思いもよらなくてちょっとびっくり。
まぁ、剛君の時もそうだったように、ちょっとしたキッカケやお酒が入ると

結構オープンになる人もいるんだろうけれど。

・・・でも、あれは―剛君が隣にいるからこそ、僕にも心を開いてくれたんじゃないかな?
なんてね。
ふと、そう思った。
剛君と光一君。
いい人達だな、彼らはほんとに。


それからは、ますます混雑してきたフロアーでの仕事に僕も忙しく、
なかなか彼らの部屋に伺うこともできずにいた。
そして、さらに小一時間ほどたってやっと少し手が空いたので、
改めて二人の様子を見る為に、そっと開いた襖の間から中の様子を窺うと―


会話のない空間。
光一君は、剛君の肩に凭れて…寝てるのだろうか?
剛君は、その肩をかすように二人寄り添い、左手に持ったコップをチビチビ呷りながら
右手ではそっと携帯を弄ってる。
静かな…でも、優しい空気が漂っている。

すると・・・


「こういち、寝るんならもぉ~帰るかぁ?」
「・・・ちゃう…目、閉じてるだけ…」
「そっか」
「うん…」


なんだろう…すごく甘い空気に触れたようで、
僕は声をかけることもできずそっと襖の前から離れる。

いつも友達を連れてやってくる剛君は、始終テンションが高くて、
よく飲んでよく食べて、そして話しに盛り上がって賑やかに大笑いしてて。
たまに、友達の愚痴や悩みを聞いてあげてるのかな?というような、
静かな会話をしている時もあるけれど、でも最後まで存在感のある頼もしい人。

でも、今日の彼は、いつになく静かで控えめで優しげで、何よりも自然体に見える。


もしかしたら彼こそが・・・ほんとの堂本剛なのかもしれない。

それか――

堂本光一の前でだけでみせる堂本剛…なのかもしれない。




それからは、二人に呼ばれることもなく自ら行くこともなく、
気がつけばラストオーダーの時間になった。

もしかしたらあのまま光一君は寝てしまったんじゃ?と、少し気になりながらも、
一応熱めのお茶を二つ持って、ラストオーダーを聞きに二人のいる店の奥の部屋へと直行すると、
丁度、襖が開いて出てきた人物と出会いがしらでぶつかりそうになった。

「おぁっ!びっくりしたっ!!」
「あ、すみませんっ…って、光一くん!?」
「ん?」

寝てるのかもと思い込んでいた彼の出現に思わず驚いたと素直に伝えると。

「あ~、寝てもうたのは剛やから」
「えっ?えぇ!?剛君が?」
「悪いけど、タクシー呼んでもらってもええかな?そろそろあいつ連れて帰るわ。」
「あ、…はいっわかりました!」
「ごめん、清算も一緒にお願いするわ」
「はいっ!」

急いで電話を入れて、言われた時に渡されたお金で清算して、
お釣りを持って光一君のところに戻ると、確かに部屋の隅で丸まるように眠る剛君がいた。
その体には、光一君の羽織っていた上着がかけられており、
光一君はというと、テーブルで酔いを醒ますようにお茶を啜っていて、
僕は、そっと彼の傍にいってお金を手渡した。

「これ、お釣りです。あと、5分ほどでタクシーくるそうなんで…」
「ごめんな、ありがとう」
「いえいえとんでもないです、こちらこそ・・・・・あの。」
「ん?」
「こんな眠り込んだ剛君…初めてなんで、ちょっとびっくりしました。」
「そうなん?いつもハメはずしてへん?」
「いつも友達やミュージシャンの方とかと来られた時でも、結構飲んではって
 顔も真っ赤になってますけど―」
「ふふ(笑)」
「でも、どっちかというと酔っぱらってる方を介抱してる方だったんで…」
「今日は、剛、寝てへんっていってたしな…
 でも、二人のスケジュール合うの今日しかないわって言って無理押してきたようなもんやし、
 その割には俺よりも飲んでたからな。」
「確かに…いつもより飲んでた…かも。」
「料理も美味しかったから酒もすすんでもうたんかもな。」


と…光一君はいうけれど、
ほんとはきっと、心許せる彼が傍にいたから
剛くんは酔いつぶれるほどお酒もすすんだんじゃないかな?
安心しきってるからこそ…そんな気がする。

今日の彼を見てたら、そんな瞳の色をずっと向けてたから・・・



「そろそろ…かな。」とポツンと呟いて、光一君は腰をあげると、
「つよし、起きろっ!もう帰んぞっいくぞっ!」と言って剛君の体を揺すぶった。

「ん~・・・」
「とりあえず目覚ませっ!ほらっ」
「…俺。。。寝てた?」
「思いっきり寝てたわっ!頑張って連れて帰ったるから、とにかく自力で歩いてくれ。」
「。。。ん~」

眠そうに目をこすりながらも、それでも光一君の声に反応して目覚めた剛君。
言われてゆっくりと体を起こし、光一君に支えられながら立ち上がるが、
決してしっかりとした足取りではなくふらふらとやたら危なっかしい。
見かねて反対側から剛君を支えて歩いたら、光一君が苦笑してもう一度「ごめんな」と呟いた。

店の外にでると、すでにタクシーは止まってて、
僕たちを確認するとその後部座席のドアが開く。

「ほら、剛、最後にテッちゃんになんも言わんでええんか?」
「あ~・・・テッちゃん、今日はほんま無理ゆってごめんらぁ~」

酔って呂律が回らないながらも、一生懸命言葉にしてくれる剛君。

「とんでもないです!本日は来店してくださってありがとうございました!」
「また来るわ~」
「はい!」
「光ちゃんと~光ちゃん誘ってぇ~また飲んで~♪」
「ふふっ(笑)わかったから、さっさと乗れ、お前はっ!」

―あ、無理やりタクシーに押し込まれた(笑)―

「最後まで手間かけさせてごめんね。ありがとう」
「こちらこそっ!よかったら…また剛君と一緒に来店してください。」
「…料理も美味しかったし。ぜひまた。」
「ありがとうございした!」

最後まで、僕に気遣ってそしてタクシーに乗り込んだ光一君。
「光ちゃん~」「剛、もっとそっち寄れっ!」なんて、最後の最後まで賑やかな声を聞かせながら、
二人を乗せたタクシーは、暗闇の街の向こうへと消えていった。


     「光ちゃんと~光ちゃんを誘ってぇ~」


剛君の子供のような声が、また頭の中で繰り返される。
ほんとに、めっちゃ男前だったりそうかと思ったらやたら幼かったり…相変わらず楽しい人だな。

と、思ったその時にふと。



     「いつか…あいつを誘って連れてくるわ。きっと・・・」


昔、僕にそっと呟いたあの日の剛君の言葉が蘇る。

 

そうだ。すっかり今の今まで忘れていたけれど・・・
初めて常連の方に連れられた日。
あの部屋で僕は剛君と知り合って奈良人同士、急激に親しくなった。
その帰り際に、言った言葉。


「えぇ店やなぁ~雰囲気もいいし料理もめっちゃ新鮮で美味いし。」
「ありがとうございます!」
「また来るわ。・・・あの部屋もすごい居心地よかったから…」
「じゃあぜひ、また予約をいれて下さい。」
「うん。いつか…」
「え?」
「今度来る時は、あいつ誘って連れてくるわ」
「?…ぜひまた来て下さい。」
「いつか…あいつを誘って連れてくるわ。きっと・・・」



もうずっと…一年以上の前のことで、すっかり忘れてしまってたけど、

―テッちゃんにも以前ゆったと思うけどさ、この店な、一度お前連れてきたかってん―

ほんまやん…ちゃんと言ってくれてたのに、忘れててごめん、剛君。

それと、その時に話してた「あいつ」って―



   光一君のことだったんだな。




今までは正直、貴方達に関心があった…と言えばウソになるけど、

これからは、もっともっと貴方達を知っていきたいな~と思った今日の出来事だった…

またぜひ二人で来店してほしいなぁ。
そして、もっともっと二人の素顔をみてみたい…素敵な二人の笑顔を。



   剛君の気に入ってた「宵夜海」の部屋。
   いつでも予約できるようにしておくので。

   また光一君と一緒に、呑みに来て下さいねっ!

 

 

 

 

 

 

 

―fin―
 

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