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「ふたりの休日」

 

 

 

 

 

 

 

 

剛は避暑地に別荘を持つ知り合いから、
「いつでも使っていいから」と鍵を預かっていた。

この日、それまでずっと曲作りで家に籠りっきりだった剛は、
ふいに思い立って気分転換にと、急きょ車を飛ばしてその別荘に向かった。

もちろん、相方を誘って。


近頃の光一も、それまでの長期の舞台活動も一旦幕を閉じ、
今は比較的緩やかなスケジュールの日々を送っている。
こういう機会でないと、なかなか誘い出せすことも難しい彼だから、
かなり強引に、それも朝の早い時間に叩き起こして、
まだ眠気を引きづるなか有無を言わせず、早々と助手席へと押し込んだのだ。


『なんやねん…突然…』
「まぁまぁ。ちょっと付き合ってや。そんな遠ないし。」
『…どこいくん?』
「○○さんの別荘。好きに使ってくれていいって鍵預かってんねん」
『ふ~ん』
「お前も、仕事以外はほとんど家に篭りっきりやろ?」
『ふふ。ほっといてくれる?』
「二人でリフレッシュしようぜっ!」

そう言って、スピードを上げて朝一の空いた道路を飛ばす剛。
開け放った窓から流れ込む冷たい空気を感じながら、
いつしか光一も頬を緩ませて他愛のない二人の会話を楽しんだ。



程なくしてやって来たその場所には、
自然に囲まれた居心地よさ気な別荘がひっそりと佇んでいた。
想像以上に落ち着いた雰囲気に、二人はとても気に入って、
早速とばかりに、部屋に落ち着く。

すると-

『腹減った…』

着いた早々に零れた光一の台詞に、

「珍しい…でも何も食わんと飛び出してきたしな。」
『俺、この時間はまだ布団に包まって熟睡中やもんっ』
「あぁはいはい。無理矢理連れてきてもうてすみませんでしたねぇ。
 …なんか食おっか!」

剛は、持ってきた荷物の中からいろいろな食材を取り出した。

「朝早いし店も開いてへん思ったから、家にある食材、適当に詰め込んできたわ。」

その中にはタッパに詰められたおにぎりもある。

『これ、お前が作ったん?』
「昨日炊いたご飯残ってたし、パパッと握って持ってきた」
『ほんまマメやなぁ』
「朝食っぽくみそ汁やタマゴ焼きなんかも作る?材料あるし。」

葱、ワカメ、味噌、卵と、食材や調味料までズラリと並べて作る気満々の
剛を見て、光一は突然楽しげに笑いだした。

『ええよ。俺が作ったるわ。葱たっぷりのみそ汁と目玉焼きぐらいでええ?』
「えっ?」
『ここまで剛に運転してもらったし、いろいろ用意してくれたからな。
 朝食くらいは俺が準備するわ』
「いや、でも…」
『ええから、出来たら呼んだるし、そこらへんぶらっと散歩でもしてこいや。
 気分転換したいんやろ。』

ほらほらっと背中を押され、まさかの光一から笑顔で見送られた剛は、
戸惑いつつも素直に甘え、広い敷地ないの庭をゆっくりと歩いた。



朝の日差しは柔らかく、
風は程よい冷たさで心地いい。
まさに、一年の中で一番気候のいい季節だ。

ふと目についた立派に木々を見てると、子供の頃を思いだす。
それなりにやんちゃだった自分は、友達とよくいろんなところに登って遊んだりした。
そうすると、少しでも近くに空を感じて嬉しかった記憶が蘇る。

剛は、ぐるりと周りを見渡して足のかけ易い木を見つけると、
器用に登りだし、あっという間に太い幹の腰を落ち着ける。
そして懐かしげに見上げた空はさらに近く感じ、
5月の澄み切った青空に吸い込まれそうになる。

すると。
自然とメロディーが溢れだしてくる。

剛は改めて来てよかったと、瞳を閉じて幸せに浸った。



その頃の光一は光一で、思いの他楽しげに朝食作りに没頭していた。
お湯を沸かして、葱を片手にみそ汁作り。
目玉焼きに添えるウインナーも焼いてみようかと頭で考えてみたり。

一人っきりの食事を思うと、正直食べれたらなんでもいいわ主義な上、
フライパンで作ったら、皿にも盛らずに
そのまま食べた方が効率的とさえ思ってしまう自分だから、
朝からみそ汁を作ってみたり、目玉焼きを焼いてみたりしてる自分が
いっそ珍し過ぎて笑えてしまうが…

剛が喜んで食べてくれるならと思うと、なぜだか料理も楽しくなる。
久々なのであまり手際はよろしくないが、それでもどうにか朝食らいしメニューが揃う。

すると、見計らったかのように剛が帰ってきて、

「うわぁ~めっちゃ美味そうっ!!」と、

テーブルに並んだ朝食に嬉しそうにはしゃぐから、光一も満足そうに微笑んだ。


それから二人はゆっくりと朝食を楽しんで、昼過ぎまではそれぞれの時間を過ごした。
剛は持参したギター片手にテラスで曲作りに時間を費やしていたが、
少し小腹が空いて来たので、一旦中断して光一の居る部屋へと移動した。

光一もまた持参したパソコンに夢中になって、剛が来るまでは
時間が経つのも忘れていた。
そんな彼にゆっくりと近づくと、肩をポンと叩いて。

「なぁ、光一。もし付き合ってくれるんやったら、
 夕飯の買い出しついでに車でちょっと街の方まで下りひん?」
『あ~』
「やる事あるんやったらええけどな。」
『いや、別にええで。今度は俺が運転するわ。』
「おぉ~助かるわ」


そうして二人は車に乗り込んで早速街を目指した。

窓を放っての快的なドライブ。
最近は、自分の車さえなかなか乗れずでハンドルを握りたくて仕方なかった光一は、
ご機嫌でアクセルをふかす。
こちらも、景色を見ながらも機嫌良さ気に鼻歌を口づさんでいる隣の剛へと、
光一がふと視線を移すと…

『剛…なんでカメラなんか持ってきてんの?』
「ん?!…なんかさ、こういう時間をキミとゆっくり過ごす事ってなかなかないしね。想い出作りでもと。」
『ふふふ。そういえば想い出作りに凝ってた時もあったなぁ。まだ続いてたん?』
「失礼やなっ(笑) なんでもすぐに飽きるような言い方せんといてくれる?」
『うひゃひゃっ』

楽しげに笑う光一をみて、剛は今だとばかりにシャッターを押す。

『どんな間近で撮ってんねん』
「思いきりドアップなお顔が撮れました。」
『んははは』
「んふふふ」


そんな風に二人会話を楽しみつつ、道を下っていくと、
剛がふいに「あっ、ここっ!」と声を上げた。
光一は慌ててウィンカーを出して道路脇に車を寄せる。

どうやらそこは結構名のある神社のようで、
そういう関連にメッキリ興味を抱いてる剛は、
ちょっと寄っていこうやと、光一を誘った。

二人、石畳の階段を上り、鳥居を潜って境内へと入っていく。
神聖な雰囲気に圧倒されて、最初こそ無言で砂利道を踏み占めていた二人も、
やがて、並んでおさい銭をあげてお祈りしたり、
なんとなしにおみくじを引いて、互いの結果にツッコんでみたり、
しまいには、敷地ないにある茶店で、団子を頬張ったりと、
気がつけば結構な時間をここで費やした。

それからまた、車に乗り込んだ2人は、
やっと目的の店へと辿りつきさっさと買い物を済ますと、
剛がまた、「あっち」と指をさす。

光一は朝一に剛に叩き起こされた時点で、
どこまでも付き合う気でやってきたのだからと、素直に彼の後に従った。


ひとしきり歩いて、人気のない河川敷までやってくると、
程良い高さの石壁に剛はよっこらしょと腰かける。
すると、光一も続くようにその隣に腰を下ろした。

「ほんまいい天気やな~」
『こういうのを五月晴れっていうん?』
「あ~どうやろ? 梅雨時の雨が続いた合間に覗いた晴れ間の事やったような気もするけど…」
『あ、そうなん?』
「いや、どっちもいうんかな。五月晴れなんは確かやし!」
『…こうやってブラブラ散歩すんのって撮影とか仕事以外ないなぁ~俺…』
「そうやろうなぁ」
『うん。』
「気持ちええやろ?もっと外でたらええのに」
『えぇ~一人でどこウロウロすんねんっ』
「んふふ。ウロウロちゃうって。ブラブラやっ。」
『うひゃひゃっ。よう似たもんやん。
 俺の場合は、そこらへんブラブラしてたら絶対道わからんようなってウロウロになりそうやん。』
「・・・ありえるな。」
『やろ?』
「また、時間できたら―」
『ん?』
「一緒に歩こ。」
『・・・』
「ちょっと東京離れて、知らん街歩くのも意外にええもんやろ?」
『まぁな。』
「そうやなぁ~また全国ツアー練って、
 もっともっと行った事ない地域でLIVEできたらええよな。」
『そうやな。』
「うん。」
『全国いうからには、47都道府県?』
「おっ!全国制覇しちゃう?」
『うひゃひゃひゃっ』
「一年くらいかけて(笑)」
『ぜ~ったい無理やっ』
「んふふふ(笑)」
『でも―できたらええな。』
「…うん。ほんでな、いろんな地方の特産物毎回楽しんで、その街の名所巡りすんねん。」
『お前が言うと、メインがどっちかわからんわっ』
「あはははっ」
『美味しいもん食って、次どこ行く~?』
「よし、満喫したしちょっと歌おかぁ~」
『LIVEが旅のオマケになってる』
「んっふふふ」
『おもろすぎ(笑)』
「メインはLIVEですよ~もちろん!」
『わかってるっちゅ~ねんっ』


どんな場所でも気がつけば漫才のような会話になってしまうふたり。
そんな時間がでも、二人には当たり前のようでとても貴重だったり…

それでも楽しそうに笑うから。
もっともっと有意義な時間を過ごそう。

素敵なステキなふたりの休日を。






  ーfinー

 


 

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