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「パンの呟き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んやねんっ(笑)」

「・・・・・」

「うひゃひゃひゃ(笑)」

「・・・・・」

「おまえ、ナメすぎっw もう終わりっ」

「・・・・・」

「もうあかんっゆうてんのに~(笑)」

「・・・・・光一さん…」

「んふふふ(笑) 唇ふやけるわっ!」

「光一…」

「わかった、わかった!お前の愛情は十分伝わったで!」

「光一って!さっきから呼んでんのが聞こえてへんのか!?」

「・・・ん?」


やっと、光一と目があった事で、ひとまず冷静さを取り戻した剛である。


「なにしとんねん、さっきから…」

「パンと一緒にじゃれてるんやないか、見てわからんのか。」

「わかりますよ。そんなもん」

「じゃあ聞くなや。なぁ~パン♪」

「いや、だから。わざわざ俺んち来といて、存在忘れられてる俺の身になってみ?」

「忘れてるわけちゃう。お前の方がピアノに夢中やったんやろが。」

「んなもんとっくの前にやめてるやん。」

「あれ?そうだった?」

「そうです。」


突然ですが2人、何を言いあっているのかというと・・・
先ほどふいに、「ケンシロウとパンを遊ばせたい」とメールを送りつけて、
剛の部屋を訪れた光一だったが、
いざ来てみると、剛は「ちょっと、えぇ感じのメロディーが浮かんだから」と
ピアノに没頭していたので、仕方なく、一人、パンとケンシロウの相手をすることに。
しかし、そのケンシロウも、すぐにパンの相手に飽きたのかあっという間に眠ってしまい、
結局、わざわざ剛の家に遊びにきておいて、
自分の家に居る時と全く同じ状況になってしまった二人だったのだ。
そして、冒頭の会話になったというわけである。

「もうピアノはええんか?いいんやで、もっと弾いてても。」
「もうええよ、悪かったな、来てもらったのにほったらかしにしてもうて。」

ちょっと皮肉めいて言ったものの、剛があまりに素直に謝ってくるものだから、

「いや・・・突然来てもうたのはこっちやし…」

何だか拍子抜けしたので光一も素直になってみた。

「…んふふ。急に謙虚にならはったわ(笑)」

そんな彼が可笑しくて、思わず笑みをこぼした剛。
とにもかくにも、やっといつもの穏やかな雰囲気に戻ったようだ。

光一の腕の中では、今も、もっと遊んで?というようにパンが訴えている。
剛は、手を伸ばして光一からパンを抱き上げると、自分の方へと引き寄せた。

「久しぶりやなパン♪ 光一に変なことされてへんかったか?」
「なんちゅ~こというとんねん、お前はっ」
「んふふ。女の子やから心配で(笑)」
「女ゆうても、俺にとったら娘やからっ!」
「わかっとるわ、そんなん(笑) ・・・んふふふ、こらこらっ」
「パン、それ食べもんちゃうでぇ~(笑)」
「おてんばさんやねぇ~」
「元気元気っ!ずっと相手してたら、こっちが疲れてくんで?
 ケンシロウもすぐにギブアップしたもん。」
「ケンちゃん、もういい年やからなぁ~そりゃ~生まれたてのパンにはついてかれへんわ」
「そっか~もうそんな年か?・・・あ、パン!何なめとんねんっ!」
「んふふふふっ。積極的やね♪」

寝ころんでパンの相手をしていた剛の口元を、何度も何度も嬉しそうになめ続けるパン。

「つよし。。。相手してたら、唇ふやけるほど舐められんで?」

「かわい~やん」と言って、お返しとばかりにパンにキスする剛を、

「かわい~けどさ」と言いながら、愛しそうに2人を見つめる光一…

なんやかんやで、暫くの間、パンの相手をしていた剛だったが
やっと満足いったのか、パンの動きが少し落ち着いたのをみて、
「来て貰ってから結構経ってもうたけど、飲みもんでも持ってくるわ」と声をかけ、
そのまま部屋を出て行った。

光一は、もう一度パンを抱き上げると

「お前は誰にでも懐くけど、唇なめるのは、俺と剛だけにしとくんやで?」と、

優しく言い聞かせ、パンにそっとキスをした。



程なくして、氷たっぷりのコーラ二つと、パンのおやつを持って、部屋に戻ってきた剛。

「パンも遊び疲れて、おなか空いたんちゃう?おやつ食べさせてええか?」
「おぉ~ありがと。パンよかったな。」

剛がパンの目の前におやつの入った容器をおくと、
すぐさま嬉しそうに飛びついて食べだした。
光一も剛も、それは優しい親の目で、パンの様子を見守った。


「そういえばさ、前に相談してたやん、パンの去勢の事。」
「あぁうん。」
「結局、手術してん。いろいろ考えたけど、やっぱその方がいいかな思って。」
「そうやな。女の子やし、子供産ましてあげたい気持ちもあるけどな。」
「まぁな。」
「でも、正解ちゃうか?病気の面や、自分らの仕事とかのこと思ったら、
 なかなかちゃんと面倒みれへんところはあるしな…」
「うん・・・それにな?もしもやで?パンが子供産んだとして、じゃ~どうするってなったら 
 俺頑張って育てるってなりそうやし(笑)」
「んふふふ。余所にやりたないねんな(笑)」
「そう! 絶対可愛いでぇ~。母親からも引き離したら可哀そうとかも思ってまうやんっ」
「・・・ほんま、先の先まで想像するねぇ(笑) 仕事や自分に関しては今を生きる人やのに」
「これが考えてまうねんて。だからそれ思ったらやっぱり無理かなって思ってみたり…」
「ほんま親の心境やな」
「そうなんかな」

普段になく饒舌な光一を、楽しそうに見つめながら彼の一つ一つに受け答えする剛。
犬を飼ってからというもの、こういう光一との会話も増えて、嬉しさも隠せない。
楽しいだけではなく、悩みもいろいろあるようだが、
その時々を、最近の光一はこうやって話してくれたりするので、
剛も、できる限り相談に乗ってやりたいと思うし、解決してやりたい。
今日も、こうやってパンを連れてケンシロウに会いにやってきてくれた気持ちが嬉しくて、
思わず、歌のフレーズが浮かんだほどなのだ(笑)
そのせいで少し拗ねられてしまったが、パンのおかげですぐにいつもの二人に戻れて、
今は、とても穏やかな時間が流れている。


「その去勢云々の話をやな、コンサートのMCでもしてんけど…」
「どんな話をMCでしとんねん(笑)」
「ふふ(笑)話すことなかってんもん。でな、子供産む以前に、相手が必要なわけやん。」
「そりゃそうやな。」
「パンの結婚相手誰や?って話したら、ファンのコからケンシロウは?って声が飛んできて」
「んふふふふっ。」
「ケンシロウか~う~ん…」
「いや、悩む以前にケンちゃんも手術受けてるからね(笑)」
「そうやったっけ。」
「仮にお相手に選んでくれたとしても、
 人間でいったらおじいちゃんと子供くらいの年の差があるからっ」
「うひゃひゃ(笑)」

お互いに、ちょっとだけ想像してみる。
それぞれの息子と娘が一緒になった姿を・・・
もともと家族以上の二人の関係ではあるけれど、飼い犬同士が結ばれれば、
2人の間も、もっと深い繋がりを感じられそうで。
そういうのもいいな…と互いに思った事は、それぞれの胸の内に秘められたままだった。

しかし、やっぱり天然な光一さん・・・
唐突に、思わぬことを口にしだした。

「なぁ剛~子供産む話の続きやけど。」
「うん?」
「例えば、オスとメスから生まれた子供はどっちの方の血をよりひくんかな?」
「んん?」
「ダックスとチワワやったら、うまい具合に交わるんやろか?
 それとも、どっちかに偏って生まれるんやろか?」
「ん~どうやろな。」
「人間やったら、男の子はお母さんに似て、
 女の子はお父さんに似るなんてよう言われるやん。」
「確かにな、俺、お母さん似やって昔から言われてたしな。」
「俺も、どっちかっていうとオカン似やと思う。」
「お姉ちゃんは、小さい時はお父さんに似てたけど、
 でも、どんどんお母さんそっくりになってきたけどな。」
「・・・・・たとえばやで?」
「例えば?」
「俺と剛の間に生まれた子供やったら、どっちに似んねやろ?」
「・・・とんでもない例えがでたでっ(笑)」
「例えばやで?(笑)」
「わかっとるわ(笑) ほんま、ありえへん話を突然フル人やね、君は(笑)」
「もしも女の子やったら、剛に似たら、目もクリクリの可愛い子やと思うけどな。」
「確かに、俺に似たら可愛い子や思うよ♪」
「うひゃひゃひゃっ」
「でも、光一に似た方が、美人で頭のええ子になると思うなぁ」
「剛に似た方が、手先が器用で料理好きな子になるんちゃうん?」
「どっちにしろ、ええ子が生まれるよ、きっと。」
「ふふふ(笑)」

2人が話すと普通にあり得そうな話になっている。
光一のこういう、素っ頓狂な例え話に、呆れるどころか、真剣に返しているのが
また剛らしい。
どこまで、冗談でどこまでが真剣なのか?
それは二人にしかわからない内容だが、どちらも楽しそうなので問題はないらしい(笑)

そして気がつくと・・・


「あ、パンも寝てもうた」
「お腹いっぱいになって、満足したんかな(笑)」
「やっぱりまだ赤ちゃんやな。」
「そうやな。・・・光一、まだおるやろ?」
「え?」
「夕飯くっていけや。大したもんないけど、ちょっとしたもんなら作るし。」
「別に、気にしてくれんでええで。まだ腹空いてないし」
「ええねん、俺が腹減った(笑)」
「お前かっ(笑)」
「一緒に食べてってええから、ちょっとだけ手伝ってや。」
「わかった。じゃ~御馳走になるわ。」
「“ごちそう”ではないけどな?」
「あれ?(笑) ちゃうん?」
「んふふ、ちゃうでぇ~」

そう笑い合いながら、二人して腰をあげてキッチンの方へと消えていった、その姿を、
そっと見ていたまぁるい瞳が・・・



 寝たふりするのも大変っ。
 でも、たっぷり相手もしてもらったから2人の時間も作ってあげないとね!
 ほんと、気の利く素敵な娘でしょ、私って♪



そんな声が聞こえてくるかのように、

ケンシロウの横で添い寝していたパンが

小さく一声鳴きましたとさ。



      



      fin
 

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