コンビニ店員の呟き(バレンタイン編)
ふあぁ~と大きな欠伸を一つ・・・
時間は、深夜1時を回っている。
客もほどんど来ないこの時間帯は店番といっていいようなコンビニの仕事。
今日も眠い目を擦りつつ、朝が来るのをただひたすらに願ってる俺。
その横で、仕入伝票にチェックを入れていたバイト仲間も、
その手をとめて「よぉ」と、声をかけてきた。
「俺、休憩入ってくるから、なんかあったら声かけてよ」
「おぉ。」
この時間はあまりにも暇すぎてちょうど眠気のピークを迎える頃なので、
いつも交替で休憩をとることにしている。
本当なら、正直店番は一人でもいいと思うのだが、なんせ物騒な世の中。
やっぱり一人だと心もとないので、相棒がいてくれるのは素直に嬉しい。
でも、そんな相棒もとっとと店の奥へと引っ込んで一人になってしまうと、
今まで以上の静けさが店内を漂う・・・
やばい、ほんとに眠りこけてしまいそうだ・・・
頑張って見開いていた瞼も重力に従うかのように、徐々に落ちていこうとしたその時。
ブォンブォンブォン~
遥か彼方からでも目立つエンジン音を響かせ、深夜街の静寂な闇を切り裂いて
程なくして一台の派手なスポーツカーが一台、店の駐車場へと滑りこんできた。
遠目からでも際立つシルエットと、あの独特なエンジン音で眠気も一気に吹っ飛ぶ。
!!!・・・彼が来た!!
いやいや(汗)彼氏の登場を喜ぶ女では決してない。
俺のお目当てはあのっ!真っ赤なフェラーリの方であり
自称カーマニアである俺は目を輝かせカウンターから身を乗り出して、駐車場を凝視する。
あぁ~一度でいいから、ジックリ眺めさせてもらいたい・・・
と、指をくわえるようにガラス越しから外を眺めていると、音をたてて店内のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」と、慌てて深夜の来店客へ視線を映すとそこには―
あれ?彼じゃない・・・
てっきり、いつもの彼だと思い込んでいた俺は、その彼のパートナーの出現に面を食らう。
めずらしい~最近めっきりみてなかったけど。
パートナーの彼・・・堂本剛は、店内に入るなり一直線へと店の奥へと歩いていく。
そんな彼の背中をつい目で追っていると、またしても入口のドアが開き、
今度こそ、フェラーリの持ち主が姿を現したのだ。
堂本光一だ。
たぶん、ほど近いところに住んでるのかどうなのか、
大概、こういった時間にフラリとやってきては、意外なものを買い込む芸能人(笑)
こちらも最近めっきり見かけなかったけど、やっと現れたと思ったら二人揃っての登場に
「おぉ~KinKi Kidsじゃん♪」
と、つい一般人的な反応をしそうになる(笑)
だが。
どうみても一緒にやってきたはずなのに、光一君は店に入るなり、
剛君とは違う、全く別の雑誌コーナーに引きよせられてそこで立ち止まってしまった。
これは、彼のいつもの行動パターンなのでいっそ安心する。
あまりに変わらなくて(笑)
すると、奥へと消えていったパートナーが、スタスタと光一君へと歩みよると、
無言で彼の首根っこを引っ掴んで、元いた場所へと戻ろうとした。
いやっ!猫じゃないんだからっ(笑)…首根っこて(爆)
するとさすがに焦った光一君。
『ちょ、つよし、雑誌、雑誌!!』
雑誌を手にしたまま連れていかれそうになったので、慌てて声をあげると。
「お前は何しにきてん。」
『いや、ついいつもの行動で・・・』
「あほかっ! ええから買いもんに付き合え」
『ええけど、何買うん?』
「とりあえず飲みもんと…腹減ったし、なんか食いもん。」
『剛、こんな時間に食うんか?…太んで。』
「・・・・・」
『―好きなもん買ってください…』
光一君の諦めのその一言で、思いきりスマイルしちゃう堂本剛・・・
なんなんだ?この二人。
以前二人で来た時は、もう少しコソコソと行動してちゃっちゃと買い物して
あっと言う間に店を出て行ったはずなんだけど。
あの時は時間がなかったのか、それとも今は店の中に俺とあの二人だけ―という状況で、
まったく自分の存在を消されてしまってるのか…(汗)
そして二人仲良く再び店内奥へと移動し、商品の陳列棚に隠れてしまった。
どうやら飲料水コーナーで飲み物を選んでいるらしい―が、
この静けさの中であっても、二人の声は聞き取れない。
まぁ、別にいいのだが。
気にすることないのだが・・・でも、なぜか気になる。
暇だから?
それともあの二人だから?
そうやって自分に問いかけるうちに、無意識に足は、彼らへと近付いていってるんですが(笑)
それも、ごく自然を装って、朝方に陳列しようと思ってた新商品の箱を持ってる自分は
思った以上にあの二人組に興味を持ってしまったようだ(爆)
しっかりと行動に移してる割に、なんとなく己の存在は気づかれたくなくて、
彼らからは一番遠い端の商品棚の陰に抜き足差し足忍び足で近づくと、
やっと二人の会話が聞き取れた。
「あとは・・・定番のコーラとオレンジジュース」
『…オレンジジュース、まだ冷蔵庫にあったんちゃうか?』
「それ、いつのやつ?」
『え~…前来た時に置いていったまんまのがあったような。』
「前っていつやねん…めっちゃ賞味期限切れとるんちゃうん。」
『そんなに来てへんかな?お前・・・』
「…とりあえず買っとこ。ヘンに飲まされて腹壊したないし―」
『なんやねん、人を悪人みたいに』
「んふふ(笑) 天然の悪人さんやで(笑) あ、そや。酒どうする?買う?」
『飲んでもいいけど、すぐ寝てまうで、たぶん…』
「そうやろな…すでに寝むそうやし」
『…わかる?』
「わかる。やめとこか、うん。」
『なぁ、どうでもええけど、剛…重たい…』
何を選んでいるのかと思ったら、いろんな種類の何本かのペットボトルを冷蔵庫から取り出して
光一君に渡しているようだ。
その渡されたペットボトルを4本ほど抱きかかえたところで、
どうにも厳しい状況を、彼へと申告したらしい…何をしてるんだか。
「悪い悪いっ! カゴどこや!?」
そう言って店内を見回すと同時に、俺の方が焦った!
こっちに来られると、なんとなく気まずいんじゃないの!?
だが心配も一瞬で、こちらと反対側のコーナーに置かれていたカゴを取りに行くと、
さっそく光一君の持ってたものを入れて、今度は剛君がカゴを持つ。
「これも買っとこかな…」
『あ!!』
何かを思いついたのか、光一君が生活用品コーナーへと小走りに寄って、
商品を引っ掴むとそのまま剛君の元へと戻り、ドカリとカゴに放り込む。
「うわっ! なんやこれ…」
『洗濯用の洗剤切れとってん。思い出してよかった。』
「お前なぁ~コンビニで生活用品買うと高いやろ?」
『そうか?』
「まだスーパーとかホームセンターの方がなんぼか安いっちゅうねん」
『そんなとこいかんもん…』
「これ、なんぼすんねん」
『知らん』
「安いやつやったら200円台で売ってたりすんで。」
『そうなん? 値段見て買ったことないからなぁ~こういうものは…』
「ネットで、500円のもんを送料払ってまで買う人やしね…」
『ほんま、コンビニかネットでしか買いもんしてへんからな』
・・・なんだか、すごい会話を聞いてしまったような…
この二人、ほんとに同じグループの人達?
方やセレブのような買い物する人と、方や主婦もまっつぁおな買い物上手な人(笑)
ある意味、いいコンビだね(笑)
「まぁ、スーパーで買い物してるお前も想像できんけどな…。
今度、欲しいもんまとめてメモってくれてたら、一緒に買っといたんで。」
『そう言われてもな…なくなって初めて気がついたりするし…
やから、ついいつでも買いに走れるコンビニに行ってまうねん。』
「たしかに、光一は買い置きするタイプちゃうからな…」
『うん。余計なものは買わん主義。』
「でも、買うときは思い切りがよすぎるいうのも―
わかった。とりあえず今のうちに思いつくの全部カゴに入れとき。」
『え~、ほかに何あったかなぁ~』
言うだけいったら、考えこむ光一君を残して剛君は食品コーナーへと移動した。
この先は、二人バラバラで行動しそうな勢いなので、
俺は慌ててカウンターに戻りそっと様子を窺うことにした。
まずは剛君。
さっそく目についたインスタントやお菓子やらを、次々かごの中へと入れていく。
しかし、しっかり棚の奥の方から選び、賞味期限とかを何気にチェックしてるっぽいのが、
いかにも買い物し慣れてる感じ…いや、お見逸れしました。
大概の芸能人は、光一君タイプだからね~
それも、売れない芸人でもあるまいにこのしっかりした金銭感覚。
男にしておくのはもったいない感じの人だね~
で、次は光一君はと思ったら・・・あれ?どこ行った?
あっ!!
雑誌コーナーに戻ってる!!(爆)
さっき読みかけで剛君に遮られちゃってたから気になってたのか(笑)
しかも車の雑誌・・・あぁ~光一君らしい。
でも、程なくして店内を見回し、また何か思いついたのか商品を探し始めた。
―と言っても相変わらず生活品コーナー(笑)
彼のファンの人ってきっと、ゴージャスで煌びやかな彼の私生活をイメージしてるんだろうけど、
以外に自分たちと変わりない買い物するので、彼らが芸能人ということをふと、忘れそうになる。
それでも、あんなお高い車を乗り回してコンビニに来るんだから、
やっぱりすごい人達には変わりないけどね。
あ、そうこうしてるうちに、いくつか商品引っ掴んで剛君のところへやってきた。
剛君はカウンターの眼と鼻の先にあるパンコーナーにいる。
『思いつくもん、全部もってきたで。』
「おぉ~…って見事に生活用品ばっかやな(笑) 歯磨き粉もなかったん?」
『・・・買い置き。』
「んふふ(笑) そうですか。」
『お前はほんま食いもんばっかりやな~』
「明日…ちゃうか、もう今日や!パンがええ?それともご飯にする?」
『なにが?』
「朝食。」
『俺、朝は食わんもん。普段から』
「朝に寝るような人やからね。でも何時だろうと起きたらちゃんと食っときや。」
『う~ん…ところで、なんで長ネギ入ってんの?』
「ほんま、何でも置いてんなぁ~コンビニって。値段はバカ高いけどな。」
『そうやな。肉とか野菜や果物もあるからなぁ~で、なんでネギ?』
「いや、ネギたっぷりの味噌汁つくろかなぁ~って…」
『おぉ~美味そう!』
「じゃぁ~、パンやなくてご飯とみそ汁でええか?」
『…作ってくれるならなんでもええ。』
「そっか。じゃぁ~パンは買わんでええな。…あ!でもこれだけっ!!」
『・・・なんでメロンパン』
「光一さんのお腹を満たしてくれる必需品(笑)」
『うひゃひゃ(笑)満たすわけじゃなくて、それしかなかってんてっ(笑)』
「んふふ(笑) でも、買っとこ。」
『なんでやねん(笑)』
え~っと。。。今、目の前にいるのは付き合いたてのカップルか、
はたまた新婚ホヤホヤのご夫婦の方たちですか?ってほどの甘~い会話なんですけど。
あれ?この二人ってこんなに仲よかったの?
えっ!?一緒に住んでたっけ?
最近テレビ見てないから、めっきり芸能関係に疎くなってるんだけど、
この二人のこんな関係は普通にオープンでOKなんですか?
・・・違うよね?
たまたまのことだよね?
男同士なんだから。
そんな、気にする自分がおかしいんだよね。
俺だって、友達んちに泊まることもしょっちゅうだし、
料理好きな奴は、ご飯作ってくれたりもするし。
うん、それと一緒だ!
なに、ドキドキしてんだよ、俺っ!
そんなわけで、やっと買い物も無事終わった二人が、
どっさり詰め込まれたカゴをもってカウンターへとやってきた。
「いやっしゃいませ。」
「これで。」
「はい、ありがとうございます!」
早速、カゴの中の商品をどんどんスキャンしていく。
・・・結構買ったな、KinKi Kids(笑)
そして、今更にふと思う。
またしても、聞き惚れるエンジン音を靡かせて、真っ赤なフェラーリは去っていく。
結局、意味不明な会話を残して、二人は店内を後にした。
『ふふふ(笑)』
「素直やないね(笑)」
『食べれんことはない。』
「まぁそう言わんと、ホワイトはまだいけるでしょ。」
『俺、チョコはそんな食べへんで?』
「んふふ(笑)」
『ほんま考えること一緒やな』
それがどうやらこのDARSチョコだったようだ。
光一くんはもともと手に持ってたらしく、剛君は会計の途中に何かを取りに戻ったんだけど、
すると、二人も同様にびっくりして互いの顔を見合わせている。
なぜに二人してDARSチョコ!?
―赤いパッケージのDARSミルクに、白いパッケージの白のDARS―
何故だか二人同時に、カウンターに差し出したそれは・・・
「『あ、これも一緒にお願いします!』」
「え~以上で―」
そして、最後の一つをレジに通したところで。
そういえば、今日って2月14日?
・・・・・二つのチョコ。
まさかね?
―fin―