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「ーvoiceー」

 

 

 

 





 


 





久しぶりとも言える二人の唯一の番組収録も無事に終了した。

いつものようにこの後、一部の番組関係者はこぞって打ち上げと称して飲み明かすのだろう。
比較的、時間にゆとりのある時は、俺達もそれに参加したりもするが、
今回俺は、明日に京都でのLIVEを控えているので
さすがに少しでも早く岐路について仮眠を取らないとやばい。

あいつも―
週末にソロコンを控えているから、きっと打ち上げには参加しないだろう。

そう思ってチラリと、一緒に楽屋に戻ってきた彼へと視線を向けると
案の定、支度らしい支度もせずに携帯へと意識を注いでいる光一がいた。

・・・携帯?

そう言えば、少し前にテーブルに置きっぱなしにしていた光一の携帯が鳴ってたな。

画面を開いて凝視しているということは、メールでも届いたんだろう。
だが読み終えるとそのまま返信することなく終いこんでしまった。

俺は結構マメなほうやから、時間がない時以外は比較的すぐに返信するほうだ。
―と言っても、メールをやり合う友達っちゅ~友達もそんなにおらへんから
出来る事だったりするんやけど。

光一は。
あいつが携帯でメールを打ってる姿はほんま見た事がない。

それこそ俺以上にそういうやりとりする友達も少ないんやと思うけど。
それにしても、今のようにメールきて返せる時間があっても、
目だけ通してさっさと携帯と閉じてしまう事がほとんどだ。
自分でも認めていたが、内容を確認できたことでそれで満足するのだと言う。

ようは、心ん中で「あぁ~はいはい、わかった」と納得して、そこで完結してしまうらしい(笑)

光一からメール返信を貰おう思ったら、
疑問文にして彼からの答えを必要とする文章を送る他はない(笑)
そこまでしても、返ってくるのは「了解」といった
ほんまに簡潔かつ素っ気ない言葉だったりする事が多いんやけど

それでも。
それがあいつらしいなぁ思て、気にもしていなかった。



少なくとも・・・

今日の収録でのあいつの言葉を聞くまでは―  







それは一問一答でのゲストの回答を聞いての一幕。

「メールを途中まで書くけど、結局最後まで書ききれずそのままにしちゃうんです。」

よくありがちなパターンやな~てな感じでふんふんと聞いてると、

『あ~分かるっ‼ 俺もそうやわっ!』

と、まさかの光一が乗っかってきたから驚いた。
よりにもよってお前か!? 
メール自体返さんお前がいうんか?って思ったら、ちゃっかりツッコんでもうた俺。

「いやいや…お前は途中までも書かんやろ。」
『ちゃうって書いてんねんってっ!この文章でええかな?ってそれなりに…』
「ほんまかいな…」

少々疑いつつも、妙に真剣に言い返すのを見ていたら、あながち嘘でもないらしい。

じゃあ、普段俺が送ってるメールに対して、
少しは返信しようという意思を持って文字にしてくれてたんやろか?と
ちょっとだけ期待してみて、
でも、少なくともゲストの言う

「何日か経って、放置してたの思い出して慌てて送ったり」

と、いうような事はさすがにないな、と想像してまた肩を落とす。


案の定…

「光一のメールってほんと来ないよねぇ」

俺と同様な扱いをうけてるらしい高見沢さんからも声があがって苦笑する。
「来ないですねぇ」と同調しながら、
軽く諌めるような視線を送ったら、光一は少しだけ申し訳なさげに首を竦めてみせた。

ほんまに困った人やね(笑)

そんな収録時のトークをふと思い出した俺は思わず思い出し笑いをして、
慌てて誤魔化す様に咳払いを一つ。

…そういえば、この文章でええんかな?って
悩むほどに一生懸命メールを打つ相手って・・・誰やろ?

少なくとも俺や高見沢さんに至っては、放置されてるくらいやから論外として、
家族とかあいつの親しい友人なんかは、光一の性格知ってるだろうから、
ほんとに必要な時意外、メールなんかしなさそう。
マネージャーとか仕事関係者…とかも、必要事項を伝えることはあっても
長文返信を必要とする内容を送る事はないだろうし…
となると、もしかして―同じ事務所の先輩、後輩辺りか?
あ、大好きなF1関連の繋がりのある人だったら、一生懸命メール打ちそうやな…

・・・って何、真剣にあいつのメール相手を気にしとんねんっ
あほか、俺…

と、自分ツッコミいれたところで。


『剛、なに眉間にしわ寄せて考え事してんねん?』

気がつけば、いつのまにか真正面にいた光一が、顔を覗きこむように問いかけてきた。

「ん?…あ。いや別に」
『なんやいつも以上に険しい顔して、明日のLIVEの事で心配ごととかあるんか?』

・・・なんか思った以上に心配気に聞いてくる光一をみて、
俺はそんなに悩める雰囲気を醸し出していたんかと、ちょっぴり反省した。

「あ~全然ちゃう。すまんすまん、大した事ちゃうから」
『ほんまか?さっき、マネ呼びに来てたのも気付いてへんかったやろ。』
「うそっ!?」
『下で待ってるって…やっぱ聞いてへんかったか。』
「・・・」

なんとなく気まずくなったので、俺はそれ以上口にせず、とっとと帰り支度を始めると、
まだ何か言いたげに視線を向けていた光一も、トコトコと
自分の楽屋(と言っても仕切りを取っ払っているので同じ部屋に変わりなし)へと戻っていく。

やがて用意もできた事だしと、今一度、光一へと目を向けると…
しっかりと用意を整えた彼もまた視線に気付いてその顔をあげた。

「お前も下に降りるんか?」
『・・・うん。』
「じゃ、一緒にいこか。」

返事はないが、小走りに寄ってきて背後にピタっとつくからほんま可愛ええ。
きっと、俺が機嫌悪いんちゃうかとか気にかけてんねん。
それでも余計な事は聞かず、でも付かず離れずな距離を保ってくれる光一。

・・・

あほやな。ほんまアホやで、俺。

光一が誰にメール返信しようとそんなん関係ない事や。
例え、返信なくてもそれが光一やんって納得して送ってるのは俺やし。
それでも伝えたい事とか聞いてほしいと思うからメールしてるのは俺やねんから…

そんな事を思いながらエレベーターに二人並んで乗り込むと、
突然、光一が遠慮がちに声をかけてきた。

『なぁ?』
「…ん?」
『明日は朝一で京都向うんやろ?』
「うん、ほんま大変やわぁ」
『気ぃ~つけて行ってこいよっ』
「おぉ」

正直、今、俺の中では二の次になっていたLIVEだったが、
光一の中では彼なりに気にかけていてくれていたのを改めて気付かされる。
だから―

「・・・LIVE終わったらさぁ」
『なに?』
「またメールでもするわ」
『なんでぇ(笑) いらんわっ!』
「なんでやねん(笑)」
『お前の文章はまとまりない上に長ったらしいねんっ(笑)』
「んふふっひどい言われようですねw」
『うひゃひゃひゃっ』
「め~っちゃ長文メール送ったろっ!楽しみに待っててな?」
『催促してるんちゃうわっ(笑) 送ってきても返信せ~へんぞっ』
「そんなんいつものことやん(笑)」
『っ!!…それはっ』

と、光一が何か言いかけた時に、到着したエレベーターのドアが開く。
すると隣にいた光一はすり抜けるように先に廊下へと飛び出すと、

『とりあえずっ余計な事考えんと(笑) お前らしくな。』

そう捨て台詞残して、あいつはさっさと走り去ってしまった。


んふふふっ余計なことってなんやねんっ余計なことってっ(笑)
あ~そう言えばそんなフレーズの歌もあったなぁ~

「余計な~ものなど~ないよね~♪…あ、ものか、こっちは(笑)」
「あぁ~すべてがキミとボクとの~愛のかまえ~さぁ♪」

「・・・Chage & Askaの"SEY YES"ですよね。」

つい、車に乗り込んでから何気に歌っていたら、運転しながらマネが懐かしそうに呟いた。
それにうなづきながらさらに歌い続ける。

「このまま二人で~夢をそろえて、なにげなく暮さないか~♪」
「ふふふ(笑) 調子よさそうですね、剛君」
「え?ふふっ、調子ええよ。」
「LIVE前日が収録で慌ただしいと思ったけど、やっぱり二人番組は別格ですね(笑)」
「なにが言いたいん?(笑)」
「わかってるくせにっ(笑)」
「んふふふ」

さすがに付き合いの長い彼は、俺の心情などすっかりお見通し。
そう、光一に会うとなんとなく心落ち着く。
そしてあいつの一声でパワーが漲り、頑張ろうって気持ちになる。

マネージャーはそんな俺を楽しげに見つめながらも、
明日の事を思って、さらにアクセルを吹かせた。

さっきまでモヤモヤと心を占めていたメールのあれやこれも、
今はもうどうでもよくて。
俺は、窓の向こうに流れる街のネオンを見つめながら、
ずっと頭の中を巡るメロディーを素直に声にする。


 何度もいうよ
 残さずいうよ
 キミが溢れてる♪


そうやって気分良く口ずさんでいるうちに、
俺を乗せた車はいつしか、マンションのエントランス前へと横付けされた。

「剛君、着きましたよ。今日もお疲れ様。」
「うん。ありがとう。
 じゃあ、明日っ…て、もう今日やな。またヨロシクな。」
「はい、もちろん。では、おやすみなさい。」

テールランプを光らせて去っていく車を見送った後、俺はふと夜空を見上げた。
数時間後にはこの空から繋がる西の都にいるだろう自分を想像して。

俺"らしく"唄を…愛を放とう。

光一の言葉を思い出し、
今日のLIVEステージを思って今一度気持ちを引き締めた。



そして―――














「ふぅ~疲れた…」

少しだけほろ酔い気分で辿りついたホテルの一室。
さっきまで、バンドメンバーや一部のスタッフ達と共に
軽く食事をとりながらちょっぴりお酒も堪能した。

2日間あるうちの初日のLIVEも無事に終了して、至福の一時をステージ上で過ごす事ができた。

京都での仕事は本当に久しぶりでプライベートではよく立ち寄ったりもするけれど
まさか、平安神宮でLIVEをする事になろうとは、つい最近まで予想もつかなかったのに。
でも、奈良とはまた違った古都の情緒溢れる風景が素晴らしくて、
どこにいても神聖な空気を体中で感じれた。

だから、大きな鳥居をくぐったド真ん中にステージを作って立っている自分に、
突然通りかかった神様から邪魔だっなんて怒られないかと
ちょっぴり不安になったりもしたけれど(笑)

それでも。

東京にも、奈良にも、どこにいても繋がっている空を見上げたら自然と気持ちは落ち着いて
自分の中にある想いが早く音にして表現してほしいと騒ぎたてる。

歌いたい。
伝えたい。
想いは尽きなくて―

肌に感じる風も、途切れることなく鳴き続ける虫の声さえも、
全てがこのステージに必要不可欠なものとして、自分と一体化し壮大な音楽に変わっていく。

そして、見上げればどこまでも―
宇宙までも突き抜けていくような星空に、
心ごと吸い込まれるように、俺は。


  光となって
  一直線に
  すなおなまま
  きみの元へ…



その後、なだれ込むように軽い打ち上げをして、
でも明日もLIVEを控えているから、ほどほどで切り上げたけれど、
なんとなくまだ飲みたらない気分だったから
時間のある時にちゃっかり買い込んでいた京都の地酒を出して、早速コップへと注ぎこんだ。

「・・・うん、ウマイッ!!」

思わず何かつまみが欲しくなるほどの、口当たりのいい味わいに、
これは、光一も好みそうな酒やろな♪と、思いつく。
お土産に買って帰ろかな?なんて思いを巡らしている内にふと、
昨日、光一と交わした会話を思い出す。

「そういえば、メール送るってあいつに宣言してもうたな。」

いらんってハッキリ断れたけれど(笑)
でも、寝るにはまだもったいない気もするし、
だからといって、何かしたいというような事もない。
う~ん…とちょっとだけ考えてみて、
とりあえずずっと仕舞いこんでいた携帯を取り出してみて、驚いたっ。

何件か届いていたメールの中に、ありえない名前をみつける・・・

うそっ!?何事や!?

慌てて、彼からのメールを開いてみたら。

―感想は帰ってきたら聞くので、メールは結構です(笑)
 だから、思い切りあなたの愛を放ってきてください。―

んふふふ。
なんだかあまりにも以心伝心でまいってまうな。
先に先手打たれてもうた。
でも、俺の場合はメール貰った以上、光一と違ってきっちり返信するタイプだという事を
あいつにも身を持って知って貰わんとな。

そう自分に言い聞かせ一人納得すると、さっそく彼への返信欄を開いて文字を打ち始めた。
すると、不思議なほどにスラスラと文章が溢れだす。

京の空。
LIVEの感想。
打ち上げ席での他愛無い話。
etc.

話たいことは尽きなくて、俺は黙々と文字を打ち続けた。

きっと、これを受け取った光一は、
開いて三行ほど読み終わった時点で付き合いきれんと携帯を閉じてしまうかもしれない(笑)
そんな彼の行動まで容易に想像できて、ますます楽しくなり
どうでもいい話が広がっていく。

気が付けば30分近くもメールを打ち続けていたようで、さすがに指が痛くなってきた。
これも確実に、スル―されそうやな(苦笑)と送る前から確信しつつ、
最後に、返信は不要です。と、しっかりと添えてそのまま勢いよく送信ボタンを押した。

アッという間に光一の元へと飛んでいく、俺の想い。
一行でも、心に止めてくれたら…嬉しいな。

「・・・さっ。シャワーでも浴びてこよかな。」

さすがに一点に集中しすぎて、どっと疲れを感じた俺。
携帯をベットへと放りなげると、着替え片手にシャワールームへと移動した。



汗を綺麗にながし、サッパリとした気持ちで部屋へと戻る。
そして、ガシガシとタオルで頭を拭きながらベットに腰掛けると、
さっき投げ出した携帯に目がいく。

すると、着信をしらせるランプに気が付いて、慌てて携帯をあけたが。
残念ながら、それは明日の予定を知らせるマネージャーからのもので、
一瞬の期待はアッサリと崩れ去ってしまう。

「まぁ、ありえへんわな」

あいつの性格を思えば、期待する方が無理だとわかってるくせに。
そう、自分に言い聞かせて、そのまま俺はゴロンとベットへ横になる。
途端に襲われる睡魔。
程良い疲れと、ほろ酔い気分が抜けきらず、次第に瞼が重くなっていく。

あ、携帯にタイマーかけとかな。
ちょっと早めに起きて、そこらへん散歩しよっかな。

そんな事を思い浮かべながら、それさえもやがて靄がかかりはじめ、
そのままいつしか夢の中へ――

と、その時にっ!!


耳元で突然、聞きなれないメロディー音が流れだす。

それは、特定の相手に設定してある着メロだった。
それなのに、その音色で一気に眠りから引き戻されながらも、一瞬それが理解できず
着信が途絶える直前で、やっと誰からなのかと思い至って俺は必死で呼びかけた!!

「もしもしっ!?」
『・・・・・』
「光一? 光一やろ!?」
『…お前なぁ~』
「なんや? いきなりどうしてん、なんかあったんか?」

めったいに携帯なんかかけてこない光一だから、逆になんかあったんちゃうかって不安になる。
でも、あいつが発した言葉というと―

『感想は帰ってから聞くってメールしたやろ?なんやねん、あの長文メールはっ!!』
「・・・はぁ?」
『あんな膨大な文字打ってる暇あったら、とっとと寝ろっ!』
「いやいや(笑) 寝ようとしたところに、貴方に呼び起こされたんですけど(笑)」
『あ、ごめん(笑)』
「んふふ。突然なんやねん。メール貰ったから返信したまでの事やで?」
『嘘や(笑) 俺がメールせんでも絶対送ってきてたやろ?』
「んっふふふふ。さぁどうやろ?(笑)」
『読むだけで一苦労やったのに、あれにどう返せってゆうねん…』
「いやいや、あの…返信はいらんって書いてたやろ?
 あ、最後まで読む気にならんかった?(笑)」
『なんでや。一応ちゃんと最後まで目は通したで?
 ただ、読み始めて3行ほどで、一度携帯は放り投げたけれども…』
「あ、やっぱり(笑)」

不器用なモノ言いは相変わらずやけど、でもそこから光一なりの優しさが伝わってくる。


「ごめんな、迷惑やろなぁ~と思いつつも、
 でも、なんか話たいこといっぱいあったから全部文字にしてもうた。」

ほんまは会ってから話てもいいような事なんやろうけれど、
でも、時間がたてば忘れてしまうちょっとした事なんかも今日感じた全てを、
無性に光一に伝えたくて―

いつでもいい。
俺が感じたこと。
俺が受け止めたこと。
そんな何気ない感情をつらつらと書きとめておくから。


「時間のある時にでも、メール開いて、チラッと心の片隅にでも留めてくれたらなって。」
『だから、読んでそれ感じたからスル―できんかったんやろ』

・・・え?

『返信しよ思て、途中まで悩みながら文章にしててんけど』

・・・・えぇ?

『お前のメール内容はいっつも濃すぎて、なんて言葉にしてええんかめっちゃ迷うねん。』

ちょ、ちょっと待てっ。

『―で、結局、途中まで文章にしながらも、
 こりゃ話した方が早いなって結局なってまうねんけど(笑)』

まさかそれって―

「なぁ、聞いてもええ?」
『ん?』
「以前言ってた
 "メールを途中まで書くけど、結局最後まで書ききれずそのままにしちゃう″って話、
 もしかして俺宛ての…メール?」
『お前以外に誰がおんねん。
 ここまで俺を悩ませる長文メールを毎回送ってくるのはお前くらいや(笑)』
「・・・・・」
『やからいちいち文字うつの面倒やし、今すぐ返信するわ、よう聞いとけ。』
「ぉん。」
『お疲れさん、つよし。ゆっくり休んで明日も頑張れよ。』
「・・・」
『以上っ!』
「―え?」
『返信完了!!』
「・・・それだけ?」
『うん(笑)』
「それ打つのに、ずっと悩んでたん?」
『なんでやねん(笑) 途中まで打ってた文章はもっとこぉ~なんていうか…忘れたっ!』
「えぇ~」
『だけど、結局最終的に言いたかった言葉は“お疲れさん”』
「うん、ありがと。
 ただ…たったそれだけの返信でも、俺は全然嬉しいで?」
『でも―』
「ん?」
『文字にしたら素っ気ないやろ? 俺、絵文字使わんし余計…』

・・・・・光一?

『たった6文字でも、声にしたらもっと気持ちって伝わらへん?』

こぉいち・・・

『あぁ~あかん…俺も、ちょっと酔っぱらってるわ(笑)
 ほんま偶然やけど、今日知り合いから京都行ったお土産にってお酒…』
「お酒?」
『写メで剛が送ってきてくれたのと同じやつ貰って今、呑んでた(笑)』
「ほんま?すごいな…」
『びっくりやわw』
「なぁ、お前好きやろ?このお酒。」
『うん。好きな味。』
「じゃあ、俺また買って帰るし」
『うん』
「今度は一緒にのも」
『そやな。』

お互いにほろ酔い気分だから、思いのほか本音が語りあえたのかもしれない。

光一の言葉が、
光一の想いが、
心の奥底にまで浸透する。

文字よりも声・・・

ほんまにその通りやな。

決して、光一の素っ気ないメールも嫌いじゃないけれど、
それよりも、甘い響きで
柔らかなトーンで囁いてくれるこの声がたまらなく心地いい。

ありがとう・・・

心から伝えたくて、俺もその5文字を言葉で伝える。

「光ちゃん。ありがとう…」
『ふふ(笑) つよし~声がもう寝むそうやでw』
「んふふ。お前の声が子守唄みたいに聞こえんねん。」
『あ、そう(笑)』
「明日も歌うから…心こめて歌うから」
『うん。じゃぁもう寝ぇ。ちょっと冷え込んできたから、しっかり布団かけて』
「んふふ。ぉん。」
『起こしてもうて悪かったな。』
「ううん…」

このまま切ってしまうのが切なくなるくらい、この時間が幸せだから、
なんとか話を振りたいとも思うのに。

光一の声があまりに優しくて。
まるで隣にいるかのように感じれて―
そのまま眠りにつくのもいいかもって思う。

だから最後に伝えよう。
君へと繋がる夜空をみあげながら。


すると―


 「『おやすみ』」


と・・・


二人同時に放った言の葉は、

 泣き笑いしたくなるほどに、

  優しく"ひとつ゛に融けあった。


 


     

―fin―

 

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