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は、初めましての登場です、皆様。

私、某事務所で一スタッフとして働いております、藤川と申します。
今回ですね。
ホントに唐突ではあるのですが、社長直々にお声がかかり慌てて赴いてみれば、
とある重要な仕事を任されてしまった訳なんですが
それが、どう聞いても不可解な内容・・・

一瞬、どう返事していいのやら言葉に窮した上、
なんでまた急に僕なんかに声がかかったのか。

簡単な説明だけでは、はっきりと把握できずに悩みましたが、
社長からの命令にはもちろん逆らえずはずもなく。

数日後、しぶしぶではありましたが、任務に就くべくやってきたこの場所から
僕の長~い一日が始まろうとしたのです。






 

              ふたり旅

 






ただ今、僕のいる場所は、社長から指定されてやってきた空港のターミナルロビー。
少し先では、今回、僕が任命された仕事の重要人物でもあるわが事務所、
期待のホープの若き二人が、出発待ちでこじんまりと立ち尽くしています。

それを少し離れた場所から伺いつつ、
僕も今から彼らと同じ飛行機に乗って、同じ所へと旅立つわけなのですが、
今回、社長から言い渡された任務、それは―


「KinKi Kidsのプライベート旅行の尾行」なんです。


 


ある日、社長室に呼び出された僕を見るなりこの一言。

「youに頼みがあるんだよ。」

 

思わず何事だ!?と、驚きましたよ。

すると、


「今月末に、ハワイにある僕のマンションにKinKiの二人を招待したんだけど、
 二人には気づかれないように監視を頼むよ。」だなんて・・・

相変わらずの適当すぎる内容に、僕は意味がわからずうろたえまくり。

「え?どういうことですか?なんでまた、僕なんかが二人の監視を!?
 付添ならマネージャーがいるんじゃ・・・」

「彼は、二人に顔を知られてるからまずいんだよっ。
 その点、君は光一や剛とはそれほど接点もないじゃない?」

「そりゃ~まぁ、僕は知ってても、
 向こうは一スタッフの顔をいちいち覚えてるわけないと思いますけど」

「でしょ?そんなわけだからよろしく頼むよっ」

「いや、あの~全然、意味がわからないんですが…」

「可愛い子には旅をさせろ!だよ。」

「・・・は?」

「獅子の子落としだよっ!はっはっはっ!!」


何故にことわざ(汗)

どうやら、無理やりに社長の言わんとすることを察すると、
二人だけで旅をさせて力を合わせて絆を深めてもらおうということらしい。
でも、やっぱり二人だけでは不安だから、そっと彼らの後をつけて、
その道中をフォローしつつ見守ってやってほしいという事なんでしょうが・・・

ちゃんと説明してくれたら、納得のできる内容ではあるのだけれど、
こういう時の社長は、お気楽で遊び心が入ってるから、意図するものを見出すのは大変です。

そんなわけで、親心で与えたらしい今回のこの旅行企画。

いっそ、何も知らないであろう本人(光一&剛)よりも、ドキドキしつつ、
僕は彼らから目を離すことなく、陰ながら見守り続けなければいけないという。

あぁどうか、無事に二人が社長の待つマンションまでたどり着けますように(泣)

そんなわけでやってきました、今日という日。

 




「つよし、ちょっと待っててっ!!」

突然聞こえてきた声に、僕は慌てて現実へと返る。
気付かれないように、さり気なく首を捻って確認すると、
光一くんがバタバタと駆けだしていく姿が映った。

何事かと思ったが、その先にあるトイレへと向かったのだとわかって一安心。
しかし。
何故だか剛君は一歩たりともその場を動かず、視線はずっと彼の消え去った先を見据えたままだ。

何をそんなに穴があくほどみつめているのだろう?と、
彼の横顔をそっと気にかけながら、光一君を待つ事3分ほど。

すると。

「光ちゃんっ!?光一っ!!!」

不意に剛君が焦ったように駆けだしたからびっくり!!
見失わない程度に追いかけてみると、
剛君に背を向ける感じで歩いていく光一君の腕を必死に掴む剛君。

後ろから伸びてきた手に突然腕を掴まれて、
声も出ないほど驚いたらしい光一君だが、それが剛君だと気がついて
また別の意味で驚いたようだった。

僕は一瞬、何がどうしたのか全く理解できなかったんですが。

「あれ?つよし?」
「あれ?ちゃうわっ!! ほんまどっち向かって行ってんねんっ!!」
「…え?」
「はぁ~気にしてて正解やったわ…ほってたら確実に迷子やったな。」

・・・あぁ、俗にいう方向オンチというやつ?

どうやら光一君は、トイレを出るなり逆方向へと歩きだしていたらしい。
方向音痴の人は一度建物内に入ると、出た途端に自分がどっちからやってきて
どっちへと向かおうとしたのか全くわからなくなるようだが、
光一君もそのパターンに当てはまるようだ(笑)

今も笑って誤魔化そうとする光一君に、少々呆れ顔で溜息を付きつつも、
内心、迷子になる前に捕まえれた事でかなりホッとしているらしい剛君。

「国内ですでにこんなんやし、この先が果てしなく心配やわ…」と、

愚痴りつつも、ぎゅっととその手を掴んだまま二人並んで歩き出す。
今年で互いに15歳を迎えた二人。
学年的には剛君の方が一つ下だとは聞いているけれど、
これを見る限り、逆の間違いでは?と聞いてみたくなるほど(笑)

しっかりしてるように見える光一君だけど、意外な一面も持っていたのかと驚きつつ
そんな彼の性格なんか知り尽くしているような剛君の大人びた一面も感じれて、
なんとも素敵なコンビだと微笑ましく思いました。

とりあえず、剛君の機転のおかげで、まだ日本を発たない内から、
光一君探しに奔走しなくてすんだと胸をなでおろし、
ますますこの先、二人から目が離せないぞ!と、さらに気を引き締め。
その後どうにか無事に、僕たちは搭乗を終えたのです。




・・・と、いうわけでハワイオアフ島へと到着(笑)

さすがに機内ではこれといった出来事もなく、
彼らのほど近い席で、共に空の旅を楽しんではいましたが、
途中、剛君が少し不調を訴えたようで、
隣に座る光一君がCAを呼んで薬を貰ったり、飲み物を頼んだりと、
空港での件を挽回するかのように、いいお兄さんっぷりを発揮していた(笑)
つくづくよくできた二人組だと感心しましたよ。

そして空港を出て、改めて気付いた事。

剛君は長期滞在するの?というほどの、
大きなキャリーバックとボストンバックを引っ提げていて、
光一君は日帰り?というくらい、小さな手下げバック一つを持ってるだけ。
この二人、ほんとに同じ旅行を目的としてるのか?と疑いたくなるほどのギャップに、
知れば知るほどに楽しいコンビだと、ほんとに笑いが止まりません。

それは本人たちも今更に思った事らしく。

「重い~」
「お前、何をそんなに持ってきてん…」
「え~?服に下着にゲームにおやつ?生活用品にドライヤーも持ってきたかな?」
「どんだけいろいろ持ってきてんねん…そりゃ重いはずや。
 ってかドライヤーとか、ジャニーさんに借りたらええやんっ。」
「やって自分が使ってる奴の方が使い勝手がええもん。」
「まぁわからんでもないけど~」

複雑そうに首を傾げる光一君に、ここぞとばかりに剛君もツッコム。

「そんなんゆうんやったら、光ちゃんはなんでこんなに荷物少ないねんっ」
「やって最低限度の着替えだけで十分ちゃうん?
 急に入り用なもんできても買ったら済む事やし」
「…まぁわからんでもないけど・・・んふw」
「ふはははっw」
「んふふふっw」

なんだかんだでお互いの意思を尊重し合い、笑顔に変える彼ら。
 
社長はこの旅行を機に、お互いへの信頼を深めて貰おうと実行にうつしたのだろうが、
そんな事をするまでもなく、すでにこの二人はもう
周りが思う以上に深い深い絆で結ばれているんではないかと、
この短時間で気がついてしまった。

だからこの後に待つ試練にも、
二人だったらきっと乗り越えてくれるだろうと僕は信じてるよっ(汗)


 


 

・・・・・・・



 


それから30分ほど経ったでしょうか…

さすがに自分達の置かれた状況が気になりだしたのか
キョロキョロと辺りを見回し始めたのは・・・

何だかこんな所まできて何も知らされずにいる二人が、
ここにきてさすがに可哀想に思えてきて…
それは一体どういうことなのかというと話は最初の社長との会話まで遡るわけで。

僕がこの任務を任されたあのときすでに、
社長はこんな事もこっそり企てていたのです。


「実はね、彼らには空港に着いたら迎えのリムジンを回してあるから
 それに乗っておいでと言ってあるんだが」
「あ、そうなんですか」
「まぁ、嘘なんだけどね」
「…はぁ!?」
「くるはずの迎えが来ない!?じゃ~どうしようかってなるだろう。
 ここで、直面した困難を乗り越えようと2人力合わせようとするじゃない。
 日本じゃないから余計にねっ。
 それが僕のまさに今回の狙いどころなんだよね」

社長なりの愛情をたっぷりと詰め込んた計画なんでしょうが、
どこか観点のずれてるそれに、しかし立場上指摘することも出来ない僕は
彼らに対して心の奥底で可哀想に…と呟くほかない。

だって、まだ学生の彼らにそんな試練をわざわざ与えなくても、
多分始めてのプライべート旅行なんだろうし素直に楽しませてあげたらって思よね?

でも、遊び心の尽きないちょっぴりお茶目な我が社長は、
自分で仕掛けたドッキリを彼らがどうやって乗りきるか?という興味を
今から期待して瞳を輝かせているという…

僕はコッソリとため息をつくと。

「何事もなかったらいいんですけどね」
「何言ってんの。だからその為にキミに頼んでいるんじゃないっ」
「はぁ…」
「彼らからは常に目を離してはいけないよっ!!
 そして、もしも2人して迷子になってしまった時は、
 ちゃんと君が責任を持って2人を僕の元に連れてきちゃってよ!」
「はい、わかりました」

そんな経緯の果てに、
僕は思っていた以上の責任重大な監視役を請け負ってしまったというわけなんです。


そんなこんなで、今も目を離すことなく
彼らの側をつかず離れずな距離を保ちつつ観察してたんですが、
くるはずのないリムジンを、それでも言われたままに健気に待ち続けていた二人。
しかし、全くそれらしい車が現れる様子のない状況に、
先に顔色を曇らせたのは、剛くんの方でした。

「なぁ光ちゃん、ほんまに迎えの車ってくるんかな?」
「ん~?…そういえば遅いなぁ」
「ちゃんと連絡いってんのかな?それとも僕らのおる場所が間違ってるとか!?」

一人ウ~ンと腕を組んでなやみだした剛くんへとチラリと視線を向けて、
やっと自分達の置かれた状況に気付いたらしい光一くん。
どうして、この二人には微妙な温度差があるのかというと、
実は今の今まで光一くんは、剛くんが持って来ていたゲームに夢中で、
さほど時間が気になっていなかったようで(笑)
荷物の中身を確認した時には、何を持ってきてんねんとつっこんでいたわりに、
気がつけば光一くんの方がそのゲームにハマってしまっているという、
そんな所はほんとにどこにでもいる普通の子供ですよね(笑)
だけど、そんな光一くんの楽しそうな姿に一緒になって
楽しそうに見つめていた剛君もいたりしたから、
この二人、日が暮れるまでこのままなんじゃ…という心配もしたけれど(汗)

とにかく、30分ほどで自分たちの今ある立場に気づいてくれた事に
ホッと胸を撫で下ろし、
彼らに悟られないように気にかけながら、さらにその様子を伺い続けました。


「どうしよっか。」
「こうなったら自分らで探して直接向う?」
「・・・剛、ジャニーさんのマンションの住所知ってんの?」
「詳しくは聞いてへんけど、なんか38階建ての真っ白のマンションっていうのは
 以前聞いた事ある。あと、ショッピングモールから近いって事も。」
「そうなんや。」
「こんな事ならちゃんと住所も聞いといたらよかったな。」
「まぁでも、そんなけわかってたら近くまで行けばすぐに見つかるんちゃう?」
「じゃ~行ってみる?」
「ここでジッとしてても、しゃーないしな。」
「よっしゃっ!!じゃ、とりあえずアラモウアナ・ショッピングセンター目指そうか!!」
「・・・それってどこにあんの?」
「…確か、オアフ島のガイドブックも持ってきてたはず。」
「用意周到やな…」
「・・・あったこれこれっ!!ん~と。」
「これ、マップでみたらこっからその何とかモールまで結構距離ありそうやな。」
「ほんまやな…タクシー使う?」
「…ここ日本ちゃうで?」
「そんなん知ってるっちゅ~ねん。」
「I can't speak English!!」
「んふふ(笑) そんなん英語で喋れへん言われてもっ」
「ひゃははっ(笑)」
「大丈夫っ!! こんな時の為に用意していた・・・じゃじゃ~ん!!携帯電子手帳っ!!」
「お前のバックは、ドラえもんの四次元ポケットかっ!!」
「これがあれば怖いもんなしやでっ!じゃ~早速タクシー乗り場までレッツゴー!!!」


なんだか話もまとまったようなので、
やっと場所移動するみたいですが、軽快に走り出した光一君の後を剛君が―
つ、ついていけてない・・・(汗)
どうやら、荷物が多すぎて足を取られているみたい。
すると光一君が慌てて戻ってきて、あえて大きいほうのバックを
剛君の手から奪いとり、そのまま剛君を促して歩き出しました。
剛君は申し訳なさげに、何度もそのバックに手を伸ばすけれど、
その度に、言葉を伝えて譲りません。
ちゃんと相手を気遣って行動できるいい子達ですよ、ほんとに。

そして二人並んで今度こそ、ゴールへと向かって動き出したその先は、
どうやらタクシー乗り場のようです。
なんだ、ちゃんと自分たちでしっかりと行動に移せるじゃない。
どうしたらいいのかと立ち往生するのかと思いきや、
社長が気にかける必要のない、アイドルらしからぬしっかりとした二人だ。

遠目から確認していたけど、ちゃんと問題なく乗り込めたようで、
僕も慌てて待たせていた車に乗り込んで、彼らの後を追いました。


着いた先は、オアフ島最大級のショッピングモール、アラモアナモール。

・・・直接、マンションまで向うと思ってたんだけど、
せっかくなのでショッピングでも楽しむんだろうか…
いまいち、彼らのこの先の行動が把握しきれていないので、
僕もまだまだ気は許せない状態です。
とりあえず、車の中でちょっとした変装もしてみました(笑)
たぶん、気付かれてはいないとはおもうけれど、用心に越したことはないしね。
せっかくのハワイという事で、アロハシャツ着替えて帽子とつけ髭もしてみたり(笑)
い、いやっ楽しんでいるわけではないですよっ!!
最後まで任務を全うするための細心の準備ですったら。

と、いうわけでこの先も、ひっそりと尾行開始します。



「すごいなぁ…人、人、人、やな。」
「でっかいとは聞いてたけど、めっちゃいろんな店あってワクワクすんな~w」
「・・・なんか欲しいもんあるんやったら買ったら?
 俺はお前の後、ちゃんと付いて回るし。」
「んふふふ。なんでそんな背後にピッタリくっついてんねん。」
「ちょっとでも距離あけたらはぐれそうやん」
「そんな心配やったら手繋いだろか?」
「にゃははっ嫌じゃボケッ」
「んっふふふ。なんか光ちゃん、こっち来てからずっと不安そうな目を向けてるから
 僕すっごい保護者な気分やわw」
「それは認める…俺、剛おらんかったら今どうしてたか想像もできんもん。」
「うん。僕も今まで以上に光ちゃん一人では行動させられへんって感じた。」
「・・・」
「あっ!ちょっと待ってって!! 嘘うそごめんっほんままた迷子になるで~」


なにをしてるんだろう…あの二人(笑)
くっついたり離れたり、笑ってたりふくれっ面してみたり。
そんな屈託ない可愛い少年二人だから、
さっきからかなりの人に注目されているんだけど、
どうやら全然気付いてないようだ…
なんにしろ、将来有望なアイドル君だ、君たちはっ!!

・・・で、この後どうするのかと思ったら、
そのままファーストフード店へと入っていった。
そう言えば、もう昼を回ってかなり経ってる。お腹もすくはずだね。
そう思って僕は、車の中でしっかり胃を満たしたからいいけれど。
彼らがでてくるまで少し時間もかかるだろうが、辛抱強く待つ事にした。

それからさらに30分後。

満足気な笑みを浮かべて、楽しそうに会話しながら店からでてきた二人。
そのまままだショッピングモール内をうろつくのかと思ったけれど、
足を止めることなくモール内を通過して、そのままビーチ沿いへと向かっていく。

まさにそのビーチ沿いの先には、高層リゾートマンションが立ち並び、
その一角に、社長が今回二人を招いたマンションが存在する。
あまりにも順調にゴールへと向かう二人に、
結局、僕の出る幕はなさそうだと思うと、嬉しいような切ないような…
それでも、無事に辿りついてくれる事が何よりだから
最後の最後まで、気を抜く事なくそっと二人の後を追ったのです。



「・・・結構歩いたな…」
「モールのテラスから見たら比較的近くに感じてんけど、
 やっぱり歩いたら相当距離あるなぁ…」
「お前のカバンがやたら重いねんけど。」
「ごめん…。まさかカバン持ってこんなに歩く羽目になるとは思わんかった。」
「冗談やって。ドラえもんの四次元ポケットのような
 剛のカバンから出てきたもんにはいっぱい助けられてるし。」
「いや、用意したのは剛君ですけど?」
「ドラえもんつよしw」
「ボクドラえもん~(笑)」
「ひゃひゃっ似てね~(笑)」
「んふふふっ」
「あぁ、やっと見えてきたわ~!!」
「よかったよかった!!」
「・・・でも。」
「・・・うん。」

「「・・・・・」」

「こんなにたくさんリゾートマンション建ってるなんて―」
「それも同じような外観…」

「一難去ってまた一難やな…」


どうしたことか、突然立ち止った二人に、
僕も一緒に止まるわけにはいかずに、さり気に横を通り過ぎ、
そのままどうにか二人が確認できる距離まで遠ざかって、壁に張り付いてみる。
ここまでくると、完璧に彼らのストーカーのようだと、
そんな自分の姿に情けなく感じてもしまうが、
ふと、全然関係のないマンションへと近づいていく彼らに気がついて、
そんな泣き言もあっという間に吹き飛んだっ。

何かがあって寄り道するのかと思いきや、
マンションを見上げながら暫く佇んでいたかと思うと道沿いを歩きだす。
そしてまた、違ったマンションの近くまで寄ると、
同じように見上げながら暫く佇むを繰り返すふたり。

よくよくみてると、どれも高さや外観などが社長のマンションと似ている事から、
二人は、実はマンションの場所を把握していなくて
必死で探しているんだと今更ながらにやっと気づいた僕だった。

なんてこった・・・


「ツヨシ~これも、真っ白でそれなりに高さのあるマンションやで。」
「じゃ~下から数えてみよか…1.2.3.4.5・・・」
「これ、今日中に辿りつけるんかなぁ。」
「17.18.19.20・・・」
「あっちにもそれらしいマンション見えてんねんけど…」
「31・32.33.34・・・35。」
「あ、35階だてやった?」
「多分…はぁ…疲れた。」
「大丈夫か?」
「俺より光一こそっ!荷物俺が持つからそこに置いてや。」
「なにゆってんねん、かなりフラフラやぞ、剛。」
「んふふ、かなり堪えてきたなぁ」
「・・・ちょっとここで待っとき。俺、あっちの数えてくるから。」
「えっ!光ちゃん!?光一っ!!」
「大丈夫っそこ動くなよ!!」



どうしようどうしよう。
なんでちゃんと住所教えてあげなかったんだ、うちの社長…
もう、目と鼻の先までは来てるんだけど。
…なんて思ってたら、僕のいる方へと光一君が一人駆けてきたから、
さらにどうしようと気ばかり焦る。

・・・これはもうバレるのを覚悟で、ちょっと観光客を装ってみるか。


「あの…すみません。日本人の方ですよ…ね?」
「・・・え?あ、はい。」

僕は、地図を片手にまさしく迷ってます、といった仕草で辺りを見回しながらも、
こちらへと走り寄って来た光一君へと思いきって話かけてみた。
すると、ちょっと警戒しながらも、それでも律儀に返事をして
足を止めてくれた彼。


「ちょっと、知り合いの住むマンションを探しているんですけど。
 38階だての○○○っていうリゾートマンション、知ってます?」
「・・・え?それって真っ白な建物のやつですか?」
「そうそう!!それです!! ここらあたりだと聞いてたんですが、
 似たようなマンションがありすぎて(汗)ご存知ですか?」
「いえ…すみません、僕たちもきっと同じマンション探している所なんです。」
「あぁ…そうでしたか。きっとね、このへんだとは思うんです。
 ・・・あぁっ?…あれかな~?それっぽい気がするなぁ~」

ちょっとわざとらしすぎるかな…(汗)

「…そういえば・・・」
「でしょ?高さといい外観といい。あれかもしれないっ!
 いや、わざわざ足止めさせてしまってすみませんでした。
 先に行ってちょっと確認してみますわ。ありがとうございました。
「あ、いえ、こちらこそ。」


なんだか光一君の探るような視線がかなり気になりつつも、
どうにか、伝えるべき事は伝えられたと思うんだけど・・・
信じて貰えたかな(汗)

チラリと後方を振り返ると、光一君はどうやら剛君の元へと戻っていったようで
すでに姿は見えず…
どうか、僕の言葉を信じて、無事にここまで辿りついて欲しいと
たただた神に縋る想いで祈り続けました。

そして、待つ事20分ほど。


「なぁ剛、これかもしれへんわ。」
「…確かにそれっぽいよな。」
「さっきの人が探してた…○○○マンションやし。」
「名前まで聞いてへんかったけど。よしっもう一度数えてみよかっ!!」
「せ~のっ!!」

「「1.2.3…25.26.27…35.36.37.38っ!!」」

「38階建て!!」
「ここや~!!!」


手に手を取って喜び合う二人を物陰から見つめながら、
なんか想像以上に感動してしまったボク。
まだ結婚もしていないのに、子供を持った親の心境に浸って、
よく頑張ったなぁと胸が熱くなる。

二人が漸くマンションのロビーへと入っていったのを確認して、
僕は、社長に持たされていた携帯を取り出し、連絡をとった。
それなのに、こんなにも僕たちを振り回した張本人は、
のんびりとハワイ観光を楽しんでいるらしい…
社長じゃなかったら、一言モノ申すって気持ちだけど。

とにかく無事に彼らが目的の場所にゴール出来た事が何よりですよね。
そう思ってやっと肩の力を抜いて周りを見渡せば、
陽はかなり傾き地平線はキラキラと眩しく、オレンジ色の空がやけにジンときた。


改めて―
彼らのふたり旅を振り返って。

最初に社長から聞かされた時は、無謀とも思える不安材料たっぷりの任務に、
正直、最後の最後まで胃の痛くなるような思いが付き纏ったけれど、
結局、気がつけば本当になんの心配のいらない、
素直で明るくしっかりとした、何よりも互いをとても想い合った素晴らしい絆の二人に、
逆に僕のほうが教えらた事がたくさんあったような気がする。

迷いが生じた時も、お互いに話あって解決策を見出して
不安に駆られた時も、落ち着いて行動と共にして
どちらかが弱音を吐いても、手を取り合って支え合う。
そして。
何よりも、ずっとずっと笑顔の絶えなかった二人。

この二人なら、この先どんな困難な出来事が立ちはだかろうとも、
これだけのしっかりとした意思疎通ができる二人なら
きっと何があっても乗り越えていくだろう。
握り合ったその手を離すことなく地面を踏みしめて歩んでいくのだろう。
彼らだったら、きっと・・・

そこで、僕はふと気がついた。
あぁ。そういう事だったんだって。

社長は「この旅をきっかけに二人の絆を深めてほしい」
そう、僕は勝手に解釈していたけれど。

そうじゃなかったんだ。

社長はそんな事など当にお見通しで、
すでに、固い深い絆でもって繋がれている彼らだと知ってるからこそ
あえて今回のような試練を与えたんだろう。
この先の、更なる過酷な世界へと立ち向かわなければならない境遇を思って…

何故なら、彼らだから社長も安心してボク一人に二人の事を任せて
待つ身の人でおれたのだ。
彼らの揺るぎない絆を信じていたからこそ…


なんだかんだ言ってもタレントの一人一人を
自分の子供のように可愛がる方だから。
光一君と剛君の事も、可愛くて。可愛くて。
そして、人一倍ピュアなハートを持っている二人だから余計に
心配で、気にかけて、何かをしてあげたくて―

社長なりの優しさと思いやりの込められた、今回の企画だったのかもしれない。

僕は、大きく息をつくと、
どこか晴れ晴れとした気持ちで、もう一度ハワイの空を見上げた。

もうすぐ社長が到着するだろう、その時には、

「ありがとうございました」と伝えよう。

そして、心から君たちへ。

「君たちなら何があってもきっと大丈夫! だからその笑顔を忘れないで!!」



   ―fin―




おまけ…


ロビーで鍵を貰って、
やっとの思いでジャニーさんのマンションの一室に辿りついた二人。

「はぁ~やっと着いた~!!!」
「疲れたなぁ…」
「めっちゃ足痛い。でも・・・すげぇ~!!見晴らし最高やっ!!!」

剛は見晴らしのいいベランダへと駆け寄ると、
香る潮風を胸いっぱいに吸い込んで思い切り顔を綻ばせた。

「気が付いたらもう夕方やん。
 ほんま、陽がくれる前に辿りつけてよかったなぁ…」
「・・・・・」
「ところで…ジャニーさんはなんでおらんの?」
「・・・・・」
「…光一?」

妙に静かな相方に、ふと気になった剛は慌てて振り返ると、
ソファーへと大きく体を預けて、思い切り寛いでいるその姿を目にして。

「光ちゃん、寝てもた?」
「つよし、こっちきてみ?めっちゃ座り心地ええで、このソファー。」
「あ、起きとったか、びっくりした。
 ・・・おぉっほんまや、めっちゃ大きくてふわふわで座り心地最高!!」
「さすがジャニーさんのマンションやな~」
「一つ一つがめっちゃゴージャスやっ。」
「うん。」
「それにしても疲れたな…」
「・・・ほれほれっw」
「いたたっ!! 触らんとってっめっちゃジンジンしてんねん。」
「明日辺り、futariとも筋肉痛になってたりして?」
「えぇ~せっかくのハワイに来て、そんなん最悪やw」
「ひゃひゃひゃっ」
「んふふw」
「それにしても気持ちええわ…」
「ほんまやな。」
「うん…」
「ジャニーさんいつ帰ってくるんかな…」
「・・・」
「…光ちゃん?」
「・・・」

気がつけば、剛の肩へと頭を寄せて一瞬にして深い眠りへと落ちていた光一。
そんな彼の穏やかな寝顔に誘われるように、
剛もまた欠伸を一つ。

「いろいろあったけど…でも、楽しかったなぁ。光ちゃん。」

そして、寄り添うように剛もまた深い眠りへと落ちていった。

それから15分後に、

「剛っ光一っ!! Welcome to Hawaii」

声高く、上機嫌で登場したジャニーだったが・・・

「な~んで、futariとも寝ちゃってるのかな~!!」

寄り添いあってソファーで眠りこむ二人の姿をみてこう一言。


 
「ハワイまできて寝てるのYOUたちが初めてだよ~!!!」



 
   おわりw
 


 

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