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コンサートツアー地方公演最終日・・・

慌ただしい中、用意の出来たものから順にどんどんとバスへ飛び乗っていく。

そして時間ギリギリで乗り込んできた剛がみたのは、
一番奥の座席の窓側にひっそりと座る光一の姿と、それをどこか気に掛けながらも、
そっと気遣うように距離をあけ席についたメンバー達。

いつもなら、彼を囲むように座っているだろう仲間の心情を読み取って、
剛は一つため息をつくとバスの一番奥へと足を進め、
そして…
迷うことなく光一の隣へと腰を下ろした。

そんな剛の姿を確認し、再度人数チェックを済ませると、急ぎバスは出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣にいるのは。



 

 

 





走りだして5分。

隣にいる自分へと一度も顔を向けることなく、ただ窓の外を見つづけている光一。
暗闇の中を凝視して何をみているんだか。
いや、何かを見ているわけではなく、今日の事をいろいろ思って
そこに意識を飛ばしているのだろうというのは容易に想像がついて。

剛はもう一度小さくため息をつくと少し思案したのち
ずっと握りしめていたその手の中にあるものを、光一の頬へとおもむろに近づけた。

「っ!? 冷たっ!」

突然の頬への刺激に驚いて、光一は慌てて体ごと仰け反ると、

バスが動き出してから初めて真横へと視線を向ける。

するとそこには冷えたコーラを掲げ、薄く笑みを浮かべた剛の顔があった。

「なんや、ゆっくり飲みもん飲む間もなかったから。のど渇いたやろ?」

そう言って、飲めとばかりに光一の手の中へとコーラの缶を握らせる。

「えっ…あぁ。ありがと・・・」
「いえいえ、どういたしまして」

剛は、もうひとつ手にしていた自分の分の缶を、プシュッと音をたててあけると、
さっそく乾いた喉を潤した。
そして、未だ自分を見つめる光一へ
「冷たいうちに飲まなっ。ぬるいコーラは不味いっていつもぼやくキミでしょ?」
そう言ってやると、やっと。
「うん・・・」
ゆるゆるとした手つきで、それでもしっかり缶をあけコーラを口に運ぶ光一の姿に、
剛は内心ほっとした。

今、光一の意識は自分に向いている…そう感じた剛は、

まるで独り言をいうかのように、ゆっくりと話だした。



「あんなぁ~」
「・・・ん?」
「今日のお前の姿見たとき、ふと昔の光一の姿と重なって見えて

 なんかステージ上で無意味に懐かしさが込み上げてきたわ」
「・・・・・」
「お前、覚えてるかなぁ~あれ、いつの話やろ? 俺がまだ学校通ってた時やったかなぁ~」

剛は、昔を思い返すようにその瞼を閉じ、過去の自分たちの姿を瞳の奥へと求めた。

「同期のやつが隠れてタバコ吸ってたの、お前が見つけて注意したことあったよな。
 そういうのは当時結構厳しかったから、罰せられるのを心配して声かけて、
 で、タバコとりあげたところを、運悪く通りかかったお偉いさんに見つかってもうてー」
「。。。そんなことあったな」
「なんか大事になってるって聞いて飛んでったら、中心にお前がいて。
 頑なに“自分が吸ってた”しか言わんから周りもすったもんだになっててー」

あの時、何人もの大人に囲まれて、それでも、重く口を閉ざしていた光一。
駆け付けた剛は、一目みて誰かを庇っているとわかったが、
割って入って、「光一はそんなことせ~へんっ!」ってどれほど叫んでも、
肝心の光一が何も言わないものだから、結局、3日間の謹慎が言い渡されたんだった。

それでもほんとのところ、大人たちはわかってくれていて、
だから、そんな軽い処分だったのだと今にしてみたら思えるけれど。

仲間を心配して取り上げたタバコが不運にも見つかって、
でも「自分が吸ってたんではない」とは、彼の性格上言えるはずもなく。
かといって、庇ってもらった少年も怯えてしまい「自分が吸ってた」と白状することもなく、
結局、真面目で頑張りやの印象だった光一が、
とたんに周りから批判を浴びせられたのを記憶している。
それでも、周りにどんな風に思われようと、最後まで頑なに自分を貫いたあの時の光一を
ふと思い起こさせた今日の光一。

一瞬の判断であろうとも、こうと決めたらその姿勢を貫く彼は、
やっぱりあの頃とは変わらなくて。

ヘタをしたらまた、その性格が誤解を招くことだってあるかもと心配もしたけれど
いつまでたっても変わらないそんな不器用な彼の性格が、

それでも剛は好きだった。

 


   こいつの本心も良さも、わからんやつは一生わからんでええ。



そんな光一に、それでも数えきれないほどに支えてもらってきた剛だから。
どんなに暴走しようと、素っ頓狂なキャラに変身しようとも、
彼の描くその時の彼を受け止めていたいと思う。


「俺・・・迷惑かけたな・・・」

突然、ポツリと呟いた彼の言葉が
昔の事を言ってるのか、今日の事を言ってるのか。
そんなことは剛にはどうでもよくて。

「お互い様やん」
「そっか。」
「休む間もなく次は東京やで」
「そやな」

それまで、じっと視線を落としてただ剛の話を聞いていただけの光一だったが、
何か思う事があったのか、次に迫る公演へと気持ちを飛ばすように、
一つ呼吸をつき、そして今だ手の中にあったコーラを一気に呷った。

すると。


「うわっ!ぬっる! まっずっ!!」

顔を顰めて文句を垂れる光一に、

「んふふ(笑) だから冷たいうちに飲めいうたやろ」
「剛、氷・・・」
「んなもんあるかっ!(笑)」
「ふふ(笑)」


気遣って遠慮してくれた仲間と、隣にいてくれる剛。
光一は、横で優しく笑う彼に今また“出会えたのが本当に彼でよかった”と思わずにはおれない。

互いを一番に理解しあえる二人。
そして一番に傍にいてほしい人。

いろんな思いが交差しながらも、それでも互いを信じて明日へと向かう。
これからも、ずっと二人で。

 



       そして何より、隣にいるのは君・・・










              Fin

 

 

 

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