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「想い」


 

 

 




「あぁなんでこんなに忙しいんだろう…」

山ほどある資料や書類の整理に奮闘しながらバタバタと事務所内を走り回っていると、

「あのさ、事務所宛てに頼んだものあってんけど、届いてるかな?」

と言って、光一君がふらりとやってきた。

「ごめん、人手が足りたくてまだちゃんとふり分けてないんだ。
 今日届いたのもそこにまとめて積んでるから、探してくれる!?」
「わかったぁ~。…なんやこれ、めっちゃあるやん?片付くんか?」

山積みの荷物を前にしながら呆れたような声を発しつつ、
それでも 黙々とお目当てのものを探し始めた光一君。
僕も、申し訳ないと思いながらも自分の仕事に取りかかる。
それから10分ほどして、やっと探していたものが見つかったのか、
「あったあった!!」と満足そうな声で、小さな荷物を手にして近寄ってきた。

「あった?」
「うん、あった、よかったわ。」
「事前に連絡くれてたら、先に避けておいてあげたのに。」
「あぁ、うんええよ。俺もすっかり忘れてたものやったから。
 それにしても、ほんまひどいなぁ~もう少し人雇ったらええのに。」
「でしょ?社長に言ってよ!もうほんとパンク状態だってっ。」

周りの状況を見渡しながら、光一君も「ほんまそうやな~」と苦笑した。
その時…

「ん?これ―」

別のデスクの上にズラリと並べていたプリントアウトされたコピー用紙に
ふと目がいった光一君をみて、 僕はすかさず「しまったっ!!」と顔をしかめたが、
止めるよりも先に、彼はその一枚を手に取ってしまった。
そこには各所属グループ宛てに送られてきた、
ファミリークラブに送られるファンレターとは また別の
ファンからの質問や問い合わせ、要望書などをまとめた書類が束になって置かれていたのだ。

目を通していた彼の顔つきがみるみる変わっていくのがわかる。
それはそうだろう。
彼らのグループの自称ファンからの「解散嘆願書」が連ねられていたからだ。

「相変わらずやな…」

手元に冷めた視線を向けながら彼はそうポツリと呟いた。

「ある意味熱心すぎるファンだね…」
「ファンっていうんか?KinKiの解散望んでんのに?」
「確かにね・・・」
「何が気に入らんのか…もうついて行かれへんわ。」

光一君は大きなため息を吐くと、憔悴しきったように開いた席に座りこんだ。
長年、ここで勤めてきた僕には彼らの苦悩が手に取るようにわかる。
ずっとずっと頑張ってきた後ろ姿をずっとずっと見てきたから―

「剛がさ、いつかゆってた。
 解散を望むそれもまた悲しいくらいに嫉妬で歪んだ果ての“愛”やねって。」
「愛を唱える剛君らしい言葉だね。」
「そうやろ。あいつはそうやって受け止めんねん。
 でも、俺は絶対にそんな愛認めへん。」
「・・・」
「ツヨシのこと好き勝手いえるのは俺だけや。
 そして俺の隣にいてほしいのも剛だけ。
 これまでもこれからも…

   それだけは絶対に変わらへん」


光一君は普段からもいつもこう言っていた。
KinKiとしてのプラスになる仕事はこれからもやり続けるんだど。
それがソロであっても、自分達の成長に繋がると信じてるから。
だからどんな時でも、自分はKinKiの堂本光一でいたい、と熱く語っていた。
KinKiを愛していたからこそ、母体とソロを分けてしまった剛君の分も、
そうさせてしまった責任もある自分だからこそどんな時も「KinKiを掲げていたい」と。
それほどに光一君も剛君も、深い愛情と共に「KinKi Kids」を大切にしているのだ。

そんな彼らの一途な想いが
歪んでねじ曲がってしまった人達の心にも少しでも届けばいいのに…


ひとしきり呟いた後、ふと我に返った光一君。

「あっ・・・忙しい時に邪魔してもうてごめん。」
「いや、いいよ。それより―」
「ん?」

僕はツカツカと、先ほどのデスクの前まで歩いて行くと、
分けていた彼らへの嘆願書の束を両手に持って


「これは、今の君たちには必要ないね。」


そう言って光一君にあえて手渡した。
それがどういう意味なのか、彼は瞬時に理解して、そして―


  ビリビリビリッ!!!


と、僕の目の前でそれを力強く破いたのだ。

その時に見せた瞳の色が一瞬、
いまだ言い表せない深い痛みを湛えているような気がしたが

それでも僕は、それには気付かないフリをして。


「どう?少しは気分晴れた?」
「ふふっ、スッキリした!」

そういって、ほんとに晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
それが僕には何より嬉しい笑顔だった。

すると。


「こういち?まだここおったん?」
「おぉ~ごめんごめんっ。ちょっと長居してもうてたっ!!」
「見つかったか?」
「あったあった!!」


どうやら共に用事で事務所に寄ったらしい2人だったが、
荷物を取りにきた光一君がいつまでも帰ってこないから、剛君が呼びにきたようだった。
入口で顔を覗かせている剛君の方へと慌ててかけようとした光一君だったが、
不意にこちらへと振り向くと。

「ゴミ増やしてもうて悪かったけど、今の俺達には無縁のもんやから。
 ほんま、ありがとう。
 人手の件は何気に伝えとくからそれまで頑張ってな!」

しっかりと最初に愚痴っていた事を覚えてくれていたらしく、
彼らしい想いやりの言葉が胸をうつ。


「…なになに?なんの話や?」
「なんもな~い。」
「ちょっ尻を触んなっ掴むなっ!!」
「だって触りたかってんも~んw」
「んふふふ。…で中みた?」
「お前なんでわざわざ送り先事務所にしてんっ」
「いや、ちょっと堂本光一宛てはアレかな?と…」
「な~にを注文してんっなにをっ!?」
「んふふふw まぁ車乗って開けてみ?なっ?」
「めっちゃ気になるっ今ここで開けるっ!」
「ええって!! 車すぐそこやんっ!!ほらいこって!!」
「めっちゃ気になるっちゅ~ねん~!!!」

そんな仲睦まじい賑やかな会話を残し2人は行ってしまった。


互いを思いやってずっとずっと共にしてきた2人。
きっと本当のファンならば、彼らの真の姿はちゃんと見えているはずだ。
彼らの頑張りを、ファンを大切に思っている想いを―



  「これからのKinKiの活躍を、期待しているよ。」



   

 

 

 

fin

 

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