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君想ひし

 

 










それは深夜のこと。

カチャリと開けたドア向こうに立ち尽くす剛を、
招き入れるでもなく、かといって追い返すでもなく…
光一はわかっていたかように一瞥すると
小さなため息を一つだけ吐いた。

剛はそんな光一を見据えながらも、断りなく玄関へと足をふみいれると、
無言で部屋へと戻ろうとした光一を追ってその腕を掴む。
それでもそれを振り切って歩き出す彼に焦れて、
自分へと振り向かぬその背目掛けて、声を荒げたのだ。

「光一っ待てや」
「……」
「おいっ!待てって言ってるやろ」

今度こそ、逃れられないほどの力強さでガシリと腕を掴まれた光一は
観念したようにその歩みを止める。
しかし、視線は上げることなく俯いたままにポツリと呟いた。

「なんかようか」
「返事したんか」
「……」
「聞いてんねん、答えろやっ」
「当たり前やろ」
「光一」
「こんな願ってもない話断るはずがー」
「光一っ!!」
「…っ!!」

一度も自分を見ようとはせず、ただ淡々と答える光一のその態度に苛立った剛は、
力任せにその薄い体を廊下横の壁へと縫い付ける。
光一は驚きと衝撃で、一瞬声を詰らせるが、
今度こそ、その瞳はまっすぐに剛へと向けられた。

その大きな決意を秘めた双瞳に、剛は思わず魅入りながらも、
それでも湧きおこる感情そのままに問いかけたのだ。

「ほんきなんか」
「……」
「本気で来年のあのスケジュールに納得したんか」
「剛…」
「なに考えとんねんっ!!四ヶ月やなんて、むちゃ通り越して死ぬ気なんか!?」
「剛…おまえ、なにを心配してるんや」
「誰やて心配するやろ?あのハンパない舞台知ってたら」
「大丈夫や、心配ない」
「大丈夫ちゃう」
「大丈夫やて」
「大丈夫ちゃうやろっ!!」
「剛―」
「今年の舞台中誤って奈落に落ちて、
 肋骨にヒビ入って呼吸もままならん状態でもやり続けてー」
「・・・・・」
「それでも大丈夫いうんか!?」
「…大丈夫、なにがあろうと責任もってやり遂げてみせる」

「ッ!! なんでやねんっ!!」

思わず張りあげた声と共に振りあげた拳は、光一の真横の壁を殴りつけた。

しかし、大きく響いた振動にそれにも微動だにする事もなく、
光一は静かにその瞳を閉じた。


この話を受けた時点で、一番に過ったのは誰よりも剛の姿だった。
いつだって心配げに見守ってくれていたその想いも、2人して描いていたグループ活動も
自分の一言で、容易に壊してしまうであろう事実を判っていながら…
光一はそれでも断る術は考えつかなかった。

だから、剛に何を言われたとしても言い訳をするつもりも毛頭なく。
彼の溢れる感情のまま全てを受け止めるつもりでいた。
いっそ自分勝手やと、裏切られたと、思い切り責め立ててくれた方が
光一はいっそ楽だったのかもしれない。
しかし、剛は…

「なんでや、光一…」

力なくそう呟いて、そのままズルズルと崩れていくその体を
光一は追うように抱きとめる。
すると、すがるように見上げた剛は、伸ばした両手で光一の頬を包み込むと
悲しみを湛えた瞳を向けながらも、それ以上言葉をぶつけることはしなかった。

光一にとって、与えられた仕事を全力でやり切る事こそが信念だと、
決められた事に従うのみなんだとこれまでも貫いてはきたけれど…
それでもその決心が揺らぐのは・・・

「一年の三分の一を舞台に費やす事を…」
「・・・」
「お前に断りなく勝手に承諾した事、ほんま悪かったと思ってる。」
「俺はっ!」
「つよし…ごめんな。」

そんな予想外の光一の言葉に、思わず息を呑む。
心の底からしぼりだしたような辛く、悲しげな彼の謝罪の声が、
剛の本心を感じ取って、自身を責めての事を言ってるのだと気付いた時に、
それは一気に果てしない後悔の念へと変わったのだ。



―僕の言葉はきみを傷つける為にあるわけじゃない―
 


「俺は…謝ってほしいわけちゃう…」
「うん、俺のわがままや。 お前の気持ち知っててそれでも俺は迷いなく受け入れた」

―僕の心はきみを傷つける為にあるわけじゃない―

 

「わるかった」
「…謝んな」
「剛…。」
「謝らんといて―」
「ごめん。」

何度も何度も耳元で「ごめん」と繰り返す光一の声に、なんだか泣きたくなって。
光一の性格も、仕事への熱い思いも何もかもわかっているはずだったのに
それでも伝えずにはおれなかった自分を―

許してほしい。

せめてこの抱き合った体から、言葉にできぬ数多な想いを全て
一滴たりとも零れ落ちることなく彼へと注ぎ込まれる事を
剛は、強く強く願った。

それは。

 きみへ愛を伝える為に
 きみへ愛を捧げる為に


きみが望むならぼくは祈り続けよう
きみが輝き続ける事こそがぼくの希望でもあるのだから。 


 僕はただ。

  君を想ひ。

   想ひ馳せる。




 

fin
 

 

 

 

 

 

 

5/20のLFを読んだ時に、
思わず頭の中で描いてしまった二人のシーン(汗)
どうしても、きみ=彼に思えて仕方無かった私です…
でも、今年の皆さんが落されるSHOCKレポを読んでると、
光ちゃんの不調というか、
今までにない辛そうな姿を感じ取って、
ファン同様にきっと、耳に入るだろう剛君も
同じ想いで不安に感じたのではと思っていたので、
こんな会話になってしまいました。
あくまで妄想です、お許しあれ…

 

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