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・・・ょし つよし ・・・
 
 
だれや よんでんのは―
ここはどこ?
おれはどうなったんやろう…
 
 


 

・・・だいじょうぶか?・・・
 
 
だいじょうぶなんかやない
なんかすごいかなしいねん
めっちゃつらいねん
もうなにもかんがえたくない…
 

 

 

 
 
・・・なぁ きこえるか?・・・
 
 
きこえんで
はっきりときこえるこのこえは…
もしかして―
 
 
 


 
 
 

missing you

-7-

 
 
 
          
 
 

 
「・・・ぅいち…」
 
固く閉じられていたはずの剛の口元が小さく動き、何かを言ったような気がした。
それに気づいた光一は、ハッとなってさらに声をあげて彼を呼ぶ。
 
 
『つよし? 剛!! 目を覚ませ!!つよしっ!!』
 
 
そして、その呼びかけに応えるかようについに剛の瞳が開かれる…かとおもいきや。
 
「・・・・・・!! 光一っ!!!」
『うわっ!!』
 
必死の形相で飛び起きた剛に
それまで懸命に呼びかけてた光一は、驚いて体を仰け反らせた。
しかし、上体こそ起こしたものの、未だ覚醒しきっていないのか、
そこから身動き一つしない剛がまたしても心配になり、今一度、顔を覗き込んで声をかけてみる。
 
『つよし?…おいっ大丈夫かっ!!』
 「・・・ん?」
 
 
至近距離からの呼び掛けに、ようやく反応を示した剛は、
それまで焦点の合わなかった視線を、光一へと向けた。
そして初めて相方の存在に気が付く。
 
 
「光一?」
『つよし…気がついたか?』
 
瞳を覗き込んでそう聞いてくる光一をしっかりと目に捕らえた途端、突然心臓が大きく跳ねた。
今しがた自分の身に起こったはずの出来事がフラッシュバックした瞬間だった。
それは、思い出したくもない身も凍るような記憶と、叫びだしそうな感情―

 
 
  これは・・・まぼろし?
 
 
まさか!?と思うよりも、先に体が動いて、
 
「~~~~~!!!!!」
『うわ~!? なんやなんやっ!?』
 
声にならない声を発しながらも両手を広げて目の前の光一を抱きしめようとしたが、
しかし、寸でのところで身をひるがえして交わされてしまい、
勢いづいた剛は悲しいかな、そのまま見事に畳へと突っ伏し強か胸を打ってしまった。
 
 
「いったぁ~・・・なんで避けんねん…」
『あ、ごめんごめん!あんま突然やったから、ひゃははっ』
 
 
少し涙目の剛を、だがあくびれもせずに大笑いするそんな彼を見つめながら―
 
 
 
「光一・・・ほんま、光一やんな?」
 
 
そう問わずにはいられなかった。
 
 
 
『ん?何が?』
「お前…舞台の稽古中に怪我したって…」
『は?なんの話や。お前“夢”でもみてたんか?』
「・・・夢?」
 
 
 
  夢ー
  夢だったんだろうか・・・
  今も鮮明に思い出せるやり場のない感情も胸の痛みも。
  すべてはリアルな夢にすぎなかったんやろうか
 
 
  そっか・・・
  そうやんな
 
  現に光一は、元気な姿で俺の目の前に存在してる
  夢と現実がごっちゃになるほどにリアルやったけど
  あれは、全部夢やったんや
 
  ははっ・・・・・
 
 
 
  よかった―
 
 
 
小さく胸をなでおろす剛には気づくことなく、光一も別の意味で大きく胸をなでおろす。
そして、とりあえず元気そうなその姿に安堵すると、すぐ隣にいたスタッフへと首を傾けた。
 
『悪いけど、マネ呼んできてくれる?剛が気がついたって。』
 
言われて頷いたスタッフが去っていく様子に、
この時になってようやく自分の周りにいるのが光一だけでなかったことに気が付き、
周りへと視線を巡らしてみると―
 
「な、なんや? 何が起こったん!?」
 
実は、自分が何人もの見知った人間に囲まれてることを知って、改めて素っ頓狂な声をあげる。
 
『何が起こったって俺らが聞きたいわ…』
 
そんな剛の驚きように、いっそ溜息をつきがらも、
どうやら心配する必要はなさそうな様子に、周りに集まっていたスタッフ達も一安心すると、
みんなそれぞれの持ち場へと散らばっていく。
 
そこへ、スタッフから聞いて飛んできた岸が慌てて楽屋に駆け込んできた。
 
「剛っ! 大丈夫なのか!?」
「あ、岸さん…なんかようわからんけど、大丈夫やで」
「よかった・・・何度呼んでも起きないから、具合が悪いのかと思ったよ。」
『ほんまやで。岸さんなんか救急車呼ぼうとするし』
「救急車ぁ!?」
「ほんとに、どこもなんともないのか?」
「うん、別に痛いところもなんもないで」
「そっか。じゃ~この後の仕事には影響ないね?
 だったら、焦って電話した仕事先にもう一度電話しなおしてくるよ。」
 
そう言って、岸も慌ただしく楽屋を出て行ってしまった。

 

 

だが、ここでふと、剛は奇妙な感覚にとらわれる。

 

  なんや、これ・・・
  夢の中でも光一らとこんな会話をしてへんかったか?
  ってか、こんなにも細かく夢の内容を覚えてんのかも不思議やけど
  でも、同じや・・・
  これって、俗にゆうデジャビュってやつか?
 

 

今のこの状況、そして会話。

どれもが、夢でみたまんまが再現されているような・・・

そう実感したとたん、剛はフル回転で記憶を手繰りよせる。
 
そんな中。

光一もまた、この後に長年続けている舞台の稽古があり、
収録を終えたらすぐに劇場へと移動するはずだったが
なぜか表情を硬くしてじっと何かを考え込んでいる剛が気になって、
この場に一人残していくことがどうしてもできずにいた。
 
『なんか…気になる事でもあるんか?』
「ん・・・・・」
『なんや?あるならいうてみろ』
「じゃあさ、聞いてもええかな」
『うん』
「お前、ほんまにどこもなんともないんか?」
『それは、まんま俺のセリフやけどな』
「俺、どうなったん?」
『・・・お前覚えてへんのか?
 俺より先に、スタジオから楽屋に戻っていって。
 で、俺が来た時には、もうしっかり着替えとって横になっとった。』
「・・・そんで?」
『俺が着替えてたら岸さんが、次の仕事へ移動するからってお前起こしにやってきたけど、
 何度呼びかけても揺さぶっても全く起きる素ぶりのないお前にびっくりして、
 救急車やなんやって騒ぎだすから、ほんまビビったで』
 
 
  やっぱり・・・
 
 
「そうやんな。覚えてるわ、お前にそう言われたんは」
『つよし?』
「・・・全く記憶にないねん。お前にそう言われても、その記憶が俺にはない・・・
 でも、そうやって光一が説明してくれた記憶は、しっかりと俺の中にある。

 これってどういうことやろう」
『お前、なんの話してんねん?』
「・・・ここ堂本兄弟の楽屋、やんな?』
『今さら何ゆうてんねん。さっき収録撮り終わったところやろ』
「今日って、ラジオ収録の日ちゃうかった?」
『え?』
「最初の仕事は確かー都内の公園で雑誌撮影してはず」
『今日は、朝からずっと堂本兄弟の収録やったで。
 お前も時間どおりに楽屋入りして、今の今まで予定の2本を一緒に撮り終えた。
 朝からお前とはずっと一緒やったぞ?」
「でも、天候がコロコロ変わって、
 やっと晴れ間が見えたからって急遽公園に移動して」
『・・・夢ちゃうか?』
「夢?」
『疲れたまって、夢の中でも仕事してたんちゃうか?』
 
「やったらっ!!!」
 
それまで、何かを思い出そうとでもするように会話していた剛だが、

突然、声をあらげて言い寄る。
 
「いったいどれが夢で、どれがホントやねんっ!!
 お前が怪我したのも夢、やったと思ってた仕事も夢、
 どこまでが夢でどこまでがホントなんや!なぁ、教えてや、光一!!」
 
 
切羽つまったように光一の両腕にすがりつき、必死で答えを求める剛に、
光一は、言葉を失う。
彼にいったい何が起こったのか。自分には皆目見当もつかず。
 
気づいた時には、眠っているかのように見えた剛が、

呼べども揺り起こせども目覚めることはなく。
ほんとにどうなることかと思えば、突然目を覚まし、今度は意味不明なことを言い出す剛に、
光一は、どうしていいのかわからなくなった。
とにかく、このままではいけないのかもしれない。
 
ひどく混乱している剛を「わかったから、剛。な?」と、いったん落ち着かせる。
 
『お前、ちょ、やっぱ病院行った方がいいわ。
 岸さん呼んできたるから、お前すぐ行ってこい』
「!!」
 
 
ここに来ても夢と同じ展開に剛はハッと我に返る。
もし、あの夢の続きのまま時間が流れ、このまま光一と別れれば、
取り返しのつかない結末が待っているんではないのか?
 
夢を夢で終わらせるには、あまりにも夢の展開と酷似していて、その時の恐怖が襲う。
 
ただの夢なのかも知れない。

でも、そうではないと、もう一人の自分がいう。
何がなんだか混乱する頭のなかで、それでもこれだけには思い至った。
あの夢と、同じ状況になるのだけはなんとしても避けなければいけないということに―
 
 
そのままそっと剛の腕を引き離し、岸を呼びにいこうと立ち上がった光一だったが
剛は再度、その腕をガシリと掴んで離さずに、少し冷静になった声で
 
 
「悪い。ちょ~頭ん中混乱してたみたいや。もう大丈夫。」
『ほんまか?』
「うん・・・」
『思ってた以上に、剛、疲れてるいたいやから。
 気になることあるなら、ほんま一度病院行った方がええと思うぞ、俺は』
「そうやな」
 
 
そこへようやっと、互いのマネージャーが姿を現す。
光一は、岸を見るなり一度ちらりと剛に視線を送りつつ、
 
『岸さん。剛、まだ本調子じゃないみたいだから、暫くは気にしてやってあげててな。』
 
さり気に注意を促した。
最後の最後まで、剛を気遣って。
その姿をみて、剛は何よりもまず優先すべきことを思い出す。
 
 
 
  今、誰よりも、俺が気づいてやらなければっ!!
  こいつをっ!何としても光一を救わなければ!!
 
 
 
「光一っ」
「ん?」
「人のことよりお前のほうがよっぽど体調悪いんちゃうか?
『なんや、突然。俺は大丈夫やで?』
「大丈夫やないっ!よく見たらほんま顔色悪いやん!」
 
剛は体ごと近づいて右手で体温に触れようとするも、
すっと顔色を変えた光一が、さり気なくその腕を拒んだ。
そのしぐさに、剛のほうも顔色を変える。
 
「・・・・・」
『だ、大丈夫やってゆうてるやろ。
 それよりも、お前やろ!原因わからんままやねんからっ」
 
自分への関心を逸らさせるように、話をおきかえる光一だが
しかし、その細かな表情まで読み取るかのようにじっと見据えたうえで、剛は言った。
 
「太田さん」
「あ、何だい?剛君」
「次の仕事連れてく前に。コイツ病院に連れてって、点滴でもなんでもいいからしてもらってや」
「えっ?」
『は!? 剛、何いってんねん』
「朝から貧血気味なんちゃうんか?みんなは誤魔化せても、俺は誤魔化されへんで」
『・・・・・』
「ほんとなの?光一君」
 
 
答えない光一に、マネージャーがそう問いかけると、言葉なく視線を逸らす。
認めた証だった。
 
 
「お前のその性格も努力も、わかってるつもりやけど。
 なんかあってからやったら、取り返しのつかんことになるし、
 周りにもめっちゃ迷惑かけることぐらい、お前やってわかるやろ。」
 
『剛・・・』
 
「光一が、俺をすごい心配してくれるように、俺もお前のことが心配やねん。
 自分の体のことは自分が一番わかってるはずや。
 無理ばっかせぇへんと、たまには自分の体も労わってやれや。
 おれも、お前も一人で仕事してるわけないんやから…」
 
 
自分がこんな性格だから、その分普段から何かと心配性な剛ではあったが、
ここまで真剣に説き伏せる姿も、とても珍しく―
暫く黙って聞いていた光一だったが、ひとつ大きくため息をつくと、
俯きがちだったその顔をあげて薄くほほ笑んだ。
 
 
『わかった。ほんま、お前だけには嘘はつかれへんなぁ』
「やっぱ、無理してたんやな」
『ん。ちょっとヤバいなぁ思ってた・・・
 オーさん悪いけど、いつもの先生のところにちょっと寄ってくれる?』
「あぁわかったよ。どっちにも連絡をいれておくよ」
『ごめん』
「光一・・・」
『俺も、お前のいうことちゃんと聞くから。だから剛も、無理だけはすんなよ』
「うん・・・」
『じゃ、そろそろ行くわ』
 
 
そう言って腰をあげた光一だったが、
よく見ると動きの一つ一つがいつもより鈍く、かなり無理をしていたのが今更に伝わった。
そんな彼の姿に、夢の中の光一の姿がオーバーラップして、剛は唇を噛みしめる。
いっそ、この先の仕事を全部投げ出して、
彼を今すぐに休ませてやりたいとさえ思うが、そんな自分の思いなど知るよしもない光一は、
最後に一度、ドア越しにこちらへ振り返ると、
 
『なんちゅう~顔しとんねん(笑) じゃぁ、またなっ』
 
最後に安心させるかのように小さくほほ笑むと、そのまま剛を残して部屋を出て行った。
 
 
この時になって、そういえばあの夢の中では
最後に何かを伝えようとした光一がいたことが思い出された。
それを聞かずにその後、後悔したことも。
それが今、夢とは違う展開になってるということが、やはりあれは夢でしかなくて、
これでよかったのだろうか。と自身に問いかける。
 
 
  もう…あんな想いは二度としたくない!
 
 
無事にこのまま過ぎ去ることを、願わずにはおられない剛であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あれから。


次の仕事場へと移動した剛は、その合間に急いで用意されていた弁当をかきこんだ。
腹はすいてはいなかったが、光一へと約束した手前、
自分が体調管理を怠ったら、人の事は言えないと感じたからだ。
 
 
  あいつはちゃんと食事とってんのやろか。
  それよりも―
  ちゃんと病院へいったんかな・・・
 
 
先ほどの会話では、ちゃんと病院に行くと言ってはいたけれども、
タイトなスケを組み込まれている今、そこに時間を費やしてる場合ではないと、
彼の性格から考えて、結局後回しにしてる可能性もなくもない。
 
そうなると、夢が正夢になりそうでどうにも不安が拭いきれなくて、
時間があるとついそうやって余計なことばかりを考えてしまう為、
剛は、あえて仕事に集中するよう気持ちを切り替えることにした。
 
そろそろ時間だと思い、食事の間テーブルに置いていた携帯を何気に確認する。
時間は9時を過ぎようとしていた。
 
  あと、もう少し頑張れば今日という一日は終わる。
 
そう心の中で呟いて携帯をマナーモードへと切り換えると、
持ってきた鞄の中へと放り込もうとした瞬間。

 

 

 ヴーッ ヴーッ ヴーッ

 


 
何かを知らせようとするかのように、

 

右手の中で携帯が小さく震えたのだった。

 
 

 


 
 
 
 
 
 
 
 

 

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