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 CDデビュー記念小話・・・

 





  

 

 

 

 

 

 地上を統べる星














本日も無事に舞台の幕は下りた。

いつものように、楽屋へと戻った光一は、汗だくの体をシャワーで流し終え
いまだ濡れた髪を乱雑に拭きながら再度楽屋へと戻ってくると、
突然、後ろから大きな声を張り上げて誰かが駈け込んできた。

「光一くんっ!!」

その声にビックリして振り返ると、

「早く早く!!用意して!!行きますよっ!!」

慌てたような口調で、そう捲し立てたのは彼のマネージャーだ。

『・・・え?用意って?どこ行くん?』
「いいからとにかく早く着替えて、ほらほらっ!!」

理由を聞いても、いいからいいからとはぐらかされるばかりで
光一は何がなんだかわからない。
それでも急かされながらもどうにかこうにか支度を終えると、
あっという間に、裏へとつけられた車へと乗せられた。

長丁場の舞台終了後にホッと一息つこうと思った矢先の唐突な出来事に、
光一は、ゆっくり理由を聞く間もなかったが、
車が発進しだして改めて、運転するマネへと問いかけてみる。

『なぁ。どこ行くん?』
「すぐそこのホテルですよ。帝国劇場に近いからたまに使っているでしょ。」
『え?なんで? 今日は俺、自分ちに帰るで?』
「パンちゃんは、実家のお母さんが預かってくれてるんじゃないんですか?」
『あ、まぁ。…ほとんど相手できんから、
 長期の舞台の時はいつも預けてるけれども…』
「じゃあ別に絶対にマンションに戻る必要もないじゃないですか。」
『いや、まぁそうやけど。』
「社長の命令なんで。」
『ジャニ―さんの?』
「はい。…あ、もう着きますよ。」
『えぇ~なになに!?なんかあったん?』
「とりあえず、はいこれ。」

手渡されたのは、部屋のカードキー。

「もう部屋は取ってあるんで、すぐに上がって下さいね。
 着替えなどは一式用意して、ベットの上に置いてありますから。」
『いや、あのさ…』
「明日は、ちゃんと携帯に連絡入れますんで、電源落さないで下さいよ」
『・・・』
「では、また明日!」

と、不気味な程の笑顔でそう言い残すと、光一を一人残したまま、
マネはあっさりと去ってしまった。

結局、どうして自分がここに連れてこられたのか
分からず仕舞いで光一は首を捻るばかり。
それも、この状況をセッティングしたのが社長のジャニーだという他は、
全くもって検討も付かない。

思い返してみればこの7月公演も急遽、彼からの一言で決まったようなもの。

今回も、また何か新しい事を思いついた彼が
自分とのミーティングにこの場所を選んだのかもしれないと思うと妙に納得できて、
とりあえず、渡されたカードキーに記された部屋へと行く事にした。


一人、エレベーターへと乗り込んで、自分の向かう階へのボタンを押した所で、
それが最上階だということに気が付く。

『うそっ! えらいゴージャスな部屋取ってくれてんのやな…
 ますます、意味わからんわ。』

そんな風に独りごちりながらも、素直にその部屋へと足を進める。

そして部屋の前へとやってきたものの、
意味がわからないままの緊張感に、一度小さく深呼吸をして、
光一はカードキーを差し込んで、やっと部屋へと一歩を踏み入れた。

部屋にはもちろん誰も居ないのか真っ暗だったが
センサーに反応して足もとだけ照られされる。
光一は、絨毯張りの廊下を奥へと突き進んだ所で、ふと足を止めた。

目の前に広がるのは、思った通りの如何にも高級感漂う作りの一室に
テーブルには雰囲気を彩るキャンドルが灯っている。
そして、東京の夜景が遠くまで見渡せそうな程の壁一面のガラス窓の前には

まさかの人影…


全く人の気配を感じなかったのもあるが、、
何より、想像だにしていなかったその後ろ姿に光一はひどく戸惑い、
より一層パニクった。


 え?…なんで?


テーブルには小さく灯るキャンドル。

そして窓越しに広がる見事なネオン。

そんな僅かばかりの灯りの中に浮かび上がるその背中は、
見間違えようもない、自分のよく知った人間のもので。

光一は喉まで出かかったその名をしかし、呼ぶよりも先に―


「お前も、ジャニーさんに呼び出されたんか?」
『・・・』
「理由もロクに聞かされんと何事や?って思うやんな。」


今だ背を向けたままだが、光一の心情も手に取るようにわかるのか、
優しい声音で語りかけたのは、剛だった。

『・・・剛も?』

「うん。仕事終って突然や。何の説明もなしにマネにここに連れて来られたから
 てっきりジャニーさんがおって、なんか言われるんかと思ったけど…
 そのテーブルにメッセージ置かれてるから、読んでみ」

そう言われて、じっくりテーブルへと視線をおとしてみると、
確かにキャンドルの横に、小さなメモ用紙らしきものが置かれていた。

あえて剛が説明をせずに、それを読めと促すのも、
光一の中では意味深に感じたが、
とにかく、この自分たちのおかれた状況を少しでも早くしりたくて。

光一は、足早に近づくと、その薄明かりの元、
ジャニーさんからだというメッセージへと目を通した。

程なくして・・・


『そういうことか・・・』
「んふふ。人騒がせなこっちゃやな。」
『そういえば、あの人サプライズとか好きやもんなぁ』
「ほんまそうやね(笑) なんで今年なん?って思うけど。」
『ほんまや、なんで“今”なんやろ?』
「あの人の場合、気まぐれがほとんどやったりするからね。
 ふと、思いついたからサプライズしたまで―なのかも。」
『喜んでええもんなんか、どうなんか…』
「でも、嬉しいやん。ちゃんと俺達のデビュー日覚えててくれてはってんから。」

そうなのだ。
今回のこの唐突な一連の出来事は、
彼らの社長直々のデビュー記念プレゼントだったのだ。

KinKiとしての活動の場のない今、
それぞれがソロの活動に余念がない今、
あえて、二人きりの時間をこの空間に用意してくれた社長は、
少しだけ、彼らに申し訳ない気持ちが過ったのかもしれない。

何故なら、誰よりも社長自身が一番、二人の事を理解してくれているのだから…




『まぁ、そうやけど・・・』

社長がデビュー日を覚えててくれたという剛の言葉に頷きつつも、
それよりもさっきからずっと感じでいた違和感に、光一はまた頭を巡らす。
そして、やっとそれがなんであるのかに気づくと。


『・・・なぁ、剛。』

「ん?」

『なんでずっと、そっち向いて話してんの?』

「・・・」

『なんかへんな感じや思ってたけど、ここで会ってから
 一度も俺の目を見んのはなんで?』


基本、人の目を見て話しをするのは苦手とする二人だ。
しかし仕事上、そういってばかりもおれないから、
なるべく意識して目を向けるようにはしているけれど、
人見知りの激しい二人はやっぱり、
人の目をジッとみて話す行為自体が苦手なのだ。

だけど、それが相方に限ってはずっと目をみて話せるんだから不思議。
目をみて話すというよりも、
目をみただけで、相手の考えてる事なんか容易に想像がつくし、
想いが通じ合ってるとさえ自負する二人だったりする。
それほどに、互いに話かける時は自然と目がいって、
その表情を瞳に映しながら、いつだって語りあってきたはずだったのに。

でも・・・
何故だか、今、目の前に立つ剛は、ずっと自分に背を向けたまま。
それがなんとなく気になって、光一はそう問いかけてみたのだが。

「あぁ…ちゃうねん。ほらっみてみぃ、夜景綺麗やろ。」

剛はそう言うと、さらにガラス窓に手を添えて覗きこむように顔を近づけた。

『あぁ…夜景ね。』

そう納得はしてみるものの、光一はもう一つの違和感に眉を顰める。
何かがおかしい。
いつもの剛じゃないような気がする…

そんな彼の背を見つめながら、ますますその違和感を突き止めようと
模索する中、

「あれやな…街のネオンもここから見下ろしたらこんなに綺麗に見えるんやな…」

話かけているのか、独り言なのかもわからない呟きを漏らす剛に、
あえて、返すように

『まぁな。こんなけ高いところから見下ろしたら―」

と、そこまで言いかけた時、
光一はやっと、もう一つの違和感にも気が付いたのだ。


どちらかというと高所恐怖症と言ってもいいほど高い所が嫌いな剛。

遥か下を見下ろせるような場所にはなるべく近づきたくもないし、
見たくもない、と普段から断言する彼が、
今、最上階の窓からずっと下を見下ろしているのだ・・・


『つよし…お前―』

光一が何かを言いかけた時、

「違う…ちゃうって。」

まるで、光一が言おうとしている言葉がわかるかのように否定する剛に、
光一は小さく息を吐くと、意を決したように剛との距離を縮める。

その気配を感じた剛は、ピクリと肩を震わすが、
それでも、決して振り向こうとはしない。
光一は、剛がこちらを見ない理由がすでにわかってはいたが、
でも、それを言葉にできなくて―

そして剛のすぐ後ろに辿りついても、すぐに声をかけられないのは、
確かめるのが少しだけ、切なかったからかもしれない。


でも・・・


光一の手が意思を持って前へと伸ばされると、迷うことなく剛の腕を捕まえる。

そして、少しだけ力を入れて引き寄せた時、
その体は思いもかけず抵抗もなくこちらへと向き、
気がつけば、そのまま光一の腕の中へと飛び込んできたのだ。

その時に、一瞬だけ交じあったその瞳は



涙でぬれていた・・・





「ごめん・・・」

何に対して剛が謝っているのかわからないままに、
光一は、それでも彼の背に腕を回して大きく包み込む。

すると。

剛は、涙にぬれたその顔をさらに光一の肩口に埋めて呟いた。

「…あかんわ、ほんま俺ダメやなあぁ」
『・・・なぁ何があった?』
「…涙もろくなった。」
『・・・えぇ!?』
「もう、ちょっとした事でもボロボロや。」
『・・・・・』
「夜景みて泣けるなんて…年のせいかなぁ…」

そんなセリフに、しばし無言になった光一ではあったが、
突然、肩を震わしながらクツクツと笑いだした。

「光一?」

剛は少しだけ顔をあげ、彼の横顔を覗きこもうとしたが、
光一はさらに強く腕を回すと、
楽しそうにその背をポンポンと叩いてこう言った。


『剛は前から泣き虫やん。
 嬉しくて泣いて、悔しくて泣いて、辛くて泣いて。
 そして、感動して泣いて、人の為に泣いて、
 …俺の変わりに泣いてくれたりもする。』

「・・・」

『年のせいちゃうで。お前はずっと変わってへん。
 でも、そんな風に素直に涙が流せる剛も、俺は好きやで。』


それはとても優しく心に響く、素直で真っ直ぐな想いだった。


「……光一、ゆうてる傍からそんなん―」
『うひゃひゃっ! 感動した?』
「アカンやろ…」

今度こそ、抑えられない涙を、堪えられない嗚咽を零しながら
剛は、全身で光一を抱き返した。
溢れる想いを、
変わらぬ同じ想いである事を、少しでも彼に伝わるようにと―

光一もまた剛をあやす様に抱きとめてやりながら、ふと記憶を探ってみる。


泣き虫剛。

「昨日ドラマみて思わず泣いてもうた」
「なんでこの気持ちが伝わらんのやろ」
「俺はこれからどうしたらええんやろ」

そうやって、たくさんの涙を流してきたけれど、
でも、そのどれも実のところ、本人談によるものばかりで、
光一自身が直接、彼が泣いているのをみたのはほんの数えるほど。

自分自身も、剛の前ではめったに泣いたりなんかしないが―
と、いうか泣く事自体ほとんどしない自分ではある故に
人の涙にはめっぽう弱かったりするから…

剛も、めったな事では光一の前で涙を見せる事はなかった。

それなのに、2度目は確実に自分が泣かせてしまったようだ、と
少しだけ反省して、光一はただ、剛が落ち着くまで傍にいた。

暫くそうしていると・・・



  コンコンコン



突然、部屋のドアがノックされ二人は慌てて飛び退いた。
そして思わず顔を見合わせると、二人はクスリと笑って、
剛が足早に移動し、そのドアをあける。

「ご注文のルームサービスをお持ちしました。
 部屋の中へ運んでもよろしいでしょうか?」

言うが早いか、ワゴンに乗ったいくつもの料理皿が、
あっという間に、テーブルに並べられ、
そしてあっという間に去って行ったホテルマンに、二人はもう一度笑いあった。

どうやら、ルームサービスを予め頼んでいたのも社長からのサプライズなようで、
その中に、フォアグラ料理を見つけた二人は、
「めっちゃ懐かしやん~!!」っと、昔話に花が咲いたのだった。


せっかくなので、食事も美味しく頂いたのち、
二人はまた、今度は並んで夜景を見下ろした。
小さな小さな街のネオンが、遥か地上に光の絨毯のように敷き詰められている。
その美しい光景に、二人は声もなく魅入っていたが。

「地上を統べる星…」
『うん。』
「星空って、見上げてみるもんやとばっかり思ってたけど―」
『・・・』
「地上にもこんなにも綺麗な小宇宙が存在したんやな」
『大都市ならではの光景やからな』
「うん。」
『東京も捨てたもんじゃないやろ?(笑)』
「んふふ、ほんまやね(笑)」

そうやって暫く、夜景を共に眺めていた二人だったが、
剛が急に光一へと向きなおると、それに気づいた光一もまた
正面から、しっかりとその瞳を見据える。



「光一。」

『ん?』

「俺たちはここに来るまで、ほんまに必死で山あり谷ありで、
 涙もいっぱい流してきたけれど」

『うん。』

「光一と一緒やったからここまでやってこれたんやって、
 それだけは胸張ってお前に言える」

『・・・』

「一緒になって笑ってくれるその笑顔が好きや。
 愚痴っぽくなっても最後まで聞いてくれて
 辛い時は、同じ苦しみを背負ってくれる、
 そんなお前と出逢えた事は、ほんまに運命やと思ってる。
 魂が求めてる。
 この先の未来もずっと、一緒にいられることを」

『つよし。』

「ジャニーさんには感謝してもしきれへんな。
 今日の事も、俺たちを出逢わせてくれた事も」

『そうやな。』


それからも二人は、珍しく語りあった。
これまでのこと、これからのこと。


時間の許す限り、心素直なままに・・・




そんな空間の中で、一つの灯が消えかけようとしていた。

それは炎の灯ったキャンドル。

最後の力を使い果たす様に、その炎は大きさをます。
すると、その近くにそっと置かれたメモの文字が浮き上がった。
それは、社長が二人へとあてたメッセージ。
そこには、こんな風に記されていた。










今日という日
二人きりの時間の中で、
明日のキミたちの未来について
心行くまで語り合いなさい。

そして、時には素直になりなさい。

数多の星が見おろす下に別々に生まれ落ちながらも
その魂は運命のもとに魅かれあって
地上を統べる星の上で出逢ったキミたちなのだから


僕は信じているよ。

キミたちの素晴らしい未来を。

伝説を。






デビューから13年後の光一と剛へ   


     Johnny






     -fin-

 

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