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「会って話したい」

 

 



そんなメールを珍しい相手から受けとったのは、仕事から帰路についた今し方。

それも、ほんのつい先程まで一緒に仕事をしていた相手だから余計に驚く。

仕事の合間に話せる内容ではなかったのか、
不意に、話したい出来事でもおこったのか。

どちらにしろ、断る理由もないから了解のメールを返したら、
十五分で、ここに来ると言ってきた。



あれはいつだっただろう。


今日と同じようなメールをおくってきたかと思ったら、
深刻な面持ちで、この部屋を訪ねてきたっけ。

 



そして開口一番に、

「お前のやりたい事を貫いて欲しい」って。
「それがお前に今、俺が一番望む事」って、

真顔で言われたのを思い出す。


きっと今日も。
「俺の望むような話」ではないんだんだろうと、
それだけはなんとなく予想がついた。

それでも。

君にまた会える事に小さく胸が打つ。


15分が
とても待ち遠しかった…  








 「君と僕のうた」










先日、突然呼び出された俺は、
来年の予定の詰まったスケジュール表を手渡された。

「ほぼ確定の内容だから、一応頭にいれておいて」

そこに刻まれたスケジュールはほぼ、ソロの仕事で埋まっていた。
ここ最近の周りの状況からも、そんな予感はヒシヒシと伝わってはきていたが、
あえて俺は聞いてみる。

「剛との、KinKiの仕事は一つもないん?」
「新曲は出すじゃないか」
「それ以外にやん。相変わらず白紙のまま?」
「・・・」

こういう話になると、黙りを決め込むのはいつものこと

そして、

「今は、他のGのスケジュール調整ですでにてんやわんやでさ。
 大きな会場が重ならないようにするだけでも大変なんだ。」

これも、耳にタコが出来る程聞いてきた上の言い分。

「それに、君たちは個々でも十分過ぎるほどの才能と、
 それに期待するファンもたくさんついているんだから、
 なにもKinKiに固執する必要はないじゃない。」


KinKiに固執しているつもりは毛頭ない。
でも、それぞれのファンに満遍なく
届けていきたいという思いはわがままでしかないのだろうか…


「もちろん、光一だけでなく、剛も着実にソロの話は進んでいってる。
 光一も、ずっと隣に居続ければわかるだろう?
 彼のあの類い稀な音楽感性をもっともっと世間に知らしめるべきだと、そう思うだろ?
 君には君の持つカラーがあって、剛も同じように彼独特のカラーを主張している。
 だからこそ、今、求められている現実を受け止めて、
 与えられた個々の仕事を、一つ一つ確実にやり遂げて欲しいんだ。」


あえて剛の話題を引き出す事で
俺を納得させようという算段がわかりすぎるくらいわかるから。

「そうやって、剛にも俺の事を持ち出して、同じように説得する気なんか」


反抗的そういい放ったら…


「剛は、何を言っても聞かないよ。
 例えば、君がソロを望んでると伝えてみても、
 僕たちの口からじゃ信じようともしない。
 だから、君のスケジュールを先に確定させてから、
 光一…君から上手く剛へと伝えてもらうしかないんだよ」


 ひどい仕打ちだ。そう思った。
 剛があんたたちの言う事を聞かなくなったのも自業自得の事なのに。

 それなのに、俺にどう伝えろと。
 
 なぁ、つよし…



それでも悩んだ末に、俺はあいつへと連絡を取る。

今は、ただお前に逢いたかった




・・・・・




インターフォンがなって、玄関に迎えにでると、
剛が思った通りの神妙な顔つきで、光一がそっと立ち尽くしていた。

「なんちゅう思いつめたような顔してんねん」
「え?」

いわれて自分では分かっていなかったのか、パッと顔つきがかわる。

「いや、なんもない。はよ入り。」


光一を促して、彼の定位置のソファへと座らせると、
先ほどから漂う微妙な空気に剛は小さく息を吐いて、問いかける。


「なんか飲みもんでもいれようか?
 それとも…すぐ本題に入りたい?」

俯いたままの光一へ、あえて優しく話かけた剛だったが。


「剛、ここ座って。」

言葉少なにそういわれて、素直に光一の隣へと腰掛ける。
そして、彼から紡がれる言葉をただジッと待った。



「少し前…」
「ん?」
「俺の来年のスケジュール聞かされた。」
「うん。」
「来年もソロ三昧や。」
「…そう。」
「暫くは力を入れたいグループにかかりきりになるらしい、だから―」
「ソロでもやっとけ、そういう事やろ。」
「・・・」
「KinKiならいろんな条件や制約が多すぎて予定も立てにくいが
 その点、規模の小さいソロ活動なら予定も調整もつきやすい」
「・・・」
「結局はそういう事やん」
「ああ。」
「あいつらの事やから、俺の話持ち出して光一に嫌な役回り押し付けたんやろ?
 俺は反発しかせぇへんからな」
「つよし・・・」
「・・・光一がええならそれでええよ。」
「…え?」
「KinKiでやりたい事はずっとこの胸に描いてはいるけど、
 今は、その時やないんやろな。」


そうやって、自分達の想い描く通りに行かない時にはいつも
「今はまだ、その時ではない」とそう言い聞かす。

1人では決して辿りつけなかったこの場所に
今も2人で立っていられるからこそ、そんな辛抱強さも生まれる。

そして諦める事なく、一つ一つを形にしていくことで
いつか必ず想いも現実になると、
身を以て教えてくれたのは誰よりも光一だったから…

するとー


「正直いうとさ。」
「うん?」
「俺には、ソロに対してもKinKiに対しても、
 こぉ先を見越しての自分が想い描くような形って持ってへんねん。」
「・・・」
「でも、お前は違うやろ?
 ソロにしてもしっかりとしたテーマを掲げてて、
 それに向かって確実に形として描いていくお前が、俺は時折羨ましくさえ感じる」
「…光一」
「彼らに言われたわけやないけど―
 ずっと一緒に頑張ってきたからこそ、今のお前のやろうとしている事を
 最後まで見届けたいって、思ってる自分もおる。」



  堂本剛の一ファンとして・・・



そんな予期せぬ光一からの言葉に、剛は戸惑いを隠せない。


「言い訳がましいセリフかもしれんけど…
 どういう理由であれ、与えられた以上、その仕事を全力でやり通したいと
 いう思いは変わらへん。
 だからお前も、堂本剛の作り上げる音楽をたくさんのファンへ届けて欲しい」


こんなにも、自分の気持ちをまっすぐに伝えた光一に、
剛は声もなく、聞き入るばかりだった。
そして初めて聞く正直すぎる彼の心の内を受けとめて、瞳の奥がジンと疼く。

 俺自身も、到底マネのできない堂本光一のステージに
 幾度も魅了されては、もう自分の元には帰ってこないのではという不安に襲われた。

 
グループとして申し分ない魅力を兼ね備えながらも、

十分すぎる程の個々の輝きを放つ2人…

そんな互いの才能を、誰よりも一番に近くで感じているからこそ、
不意に、それを自分の存在によって妨げはしないかと気弱になる…



「光一、それでも俺は、何よりも守りたいのはお前の隣やねん」
「つよし。」
「その為やったらなんでもする。」
「・・・あほやな」
「あほでもええよ」
「うん。おんなじ事思ってる俺もあほや」
「光一…」
「だから頑張れる。」
「うん。」



  君がいるだけなのに…

  そばにいるだけなのに

  なぜこんなに心支えられてるんだろう。

  同じように僕だって

  そう有りたいんだと心に誓う度に

  強くなれる気がする



簡単には想い描く通りにはいかない世界だからー
これからも、唇かみしめる出来事も山ほど振りかかってくるだろう。

それでも君と僕のうたがあるかぎり、
僕らは歌い続ける。

待って待って、待ちわびて、
それでも待っててくれる人達へ向けて。


  ほら。 



     僕たちはこんなにも、繋がっている。




           fin

 

 

 

 

 

 

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