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「僕たちの歩む道」












ここ最近、俺は新曲のプロモーションで
司会等を務める後輩たちの番組をいくつも回り歩いているが
今回は、久しぶりのKinKiの番組に出演することになった。

KinKiの二人と俺は仕事でも直接関わりがあるような間柄ではなかったが、
たくさんいる後輩の中では唯一、何かと気になる存在の二人だったりする。
光一は、車関連で時折飲みにいったりもするが、
話を聞けば聞くほど相変わらずの私生活に、
もうちょっとハメ外したら?と説教を垂れてしまう時もあるほど
クソがつく真面目人間だ。

そんな光一の相方の剛もまた、クソ真面目な上に俺には理解し難い世界観を持ってたりする。
だからなのか、山ほどいる後輩の派手な噂をしょっちゅう耳にする中で
こいつらだけはほんとに俺の耳にもなにも届いてこない。

そんな恋愛沙汰よりもある意味厄介な“ある事”が年々数を増してきて、
「どうしたものか」と扱いに頭を悩ませてるというスタッフの声を聞いて俺は眉を寄せた。
他の後輩に関しては、どんな話が舞い込もうと「俺には関係ないっ」で済ませる話だが、
あいつの…あの時の涙を見た時からー
KinKiに関してだけは何故だかほっておけない気持ちになる。

だからこそ、今回の出演はいっそいい機会だと思い、
少し荒療治ともいえるブッ込みコーナーを用意して貰い、俺は堂本兄弟へと乗り込んだんだ。

あいつらの本音を聞きたいがために…




・・・


そして。

番組収録も無事に終了し、スタジオを出ようと周りを見回した俺は
最後まで俺の事を待っていたらしい剛と目があった。
なにか言いたげなその目に引き寄せられて、
俺は剛の肩へと手を回すとそのままスタジオを後にした。

するとー


「すみませんでした…」

廊下に出た途端、雰囲気を一変させて剛が突然謝ってきた。

「なんであやまるの?」

俺はあえて、あっけらかんとそう言うと、
剛はホッとしたように、少しだけ緊張したその身を解いてゆっくりと話しだした。


「最初、先輩の言わんとする意図がわからなくて…
 とうとう先輩自らが俺らに烙印押しに来られたんかなとか、
 いろいろ頭ん中で考えてて…」
「うん」
「でも・・・最後の言葉で俺らにそう言わせたかったんかって、その時やっと気がついて…」
「…ほんとね。」
「はい」
「お前たちはめんどくさいっ!!」
「すみません…」
「“仲いいの?”“仲いいに決まってるじゃないですかっ!!
 “解散しないの?”“解散なんかしませんよっ!!
 そう笑って言い切っちゃえば済むことなのにさっ。お前ら真面目に捉えすぎ!!」

正直、自分が思い描いていた展開とは程遠い彼らとのトークに
想像以上に二人も重く捉えているんだと、話してて気づいた俺がいて。
自分からブッ込んでおいて、どうやって丸く収めようかほとほと悩んだ収録だったけど。

「でもさ、わからんでもないのよ。お前の気持ち。剛言ってたじゃん?」
「え?」
「もし上から解散しろって言われるなら、もうそうするしかないのかなぁって。
 光一はそんな話は一回も聞いた事がない!と断言してたけどさぁ」
「…はい。」
「知ってたんだ」
「はい。」
「だったら、その時がきたら光一の為に解散を選ぶんだ?」
「・・・」
「ほんとお前にだからはっきり言っちゃうけど、
 あんなの送りつけてくる奴らはファンじゃないね。
 俺だったら“文句言う奴はいますぐファンやめろっ”って投げつけてやるよ。」
「んふふ、マッチさんならほんとに言いそうですね(笑)」
「言うに決まってんじゃんっ俺のファンなら俺のやることにいちいち口出すんじゃねぇって!!」
「んふふふっ」
「お前らだって、ほんとははっきり言ってやりたいんだろ?
 光一なんか本気でキレたら俺より怖ぇ~かもしんねぇじゃん(笑)」
「あいつは、俺以上に争いごとが嫌いな平和主義者なんで」
「だったら仲良しこよしでいっそ見せつけてやったらいいじゃん。
 お前らのその微妙な態度が余計、そういう奴らを勢い突かせているかもしんないし」

そう言ったら、剛は少しだけ何事かを考えるように沈黙し、
そしてこう言った。

「マッチさんのいう通り、俺があいつの事が嫌いで、
 仕事上だけのバートナーだったとしたら、
 いっそ割り切ってこれ見よがしに仲良しアピールもありかなって思います。」
「・・・」
「でも。嫌いじゃないから・・・」
「嫌いじゃないから?」
「光一の傍ではいつでも自然体のままで寄り添っていたい。」


「ただ…それだけなんです」
 


気がつけば俺たちは俺の楽屋の前までやってきていて。
なんとなくこのまま別れがたかった俺は
「話し足りないなら寄ってくか?」って声をかけてみたが、剛は首を横に振り、

そして・・・


「今日はお疲れ様でした。
 正直、冷や汗かく場面もいくつもありましたがほんま楽しかったです。」
「いやいや、俺も楽しませてもらったよ。」
「ありがとうございます。ただ・・・」
「ん?」
「最後に一つだけ、生意気な発言しても、ええですか?」

恐縮しながらも律儀にそんなこと聞いてくるもんだから、ちょっと意地悪したくなる。

「ダメ、俺に生意気な口聞くのは百年早いっ」
「んふふっ。ダメですかぁ」
「ふふっウソウソ(笑) なんだよ、言ってみろよ。」

でも笑って促せば、剛は物怖じすることなく真っ直ぐな瞳を向けて
俺にこう告げたんだ。


いろんな考えを持った人間が
ひとつのグループでずっと活動していくのは思った以上に大変な事で、
長ければ長く続ける程、俺のいうズルさも生まれてくるんだろうって。
でも、様々な壁を一緒に乗り越えてきた仲間だからこそ
誰よりも分かり合える時もある。

剛は、光一がいたからこそ今の自分がいるのだと、

幸せそうな瞳を向けて微笑んだ。



「お前はやっぱり生意気すぎっ!!」
「んふふ、すみません」
「おれにそんな意見する奴はそうそういないぞ?」

そうは言うものの、弄られるのが嬉しいとでもいうような人懐っこい目で
見つめてくる剛に、俺は降参とでもいうように視線を逸したその時だった。

「…光一。」

いつの間にそこに立っていたのか。
もしかしたら廊下を曲がったすぐ傍で、じっと俺たちの会話を聞いていたのかもしれない。
俺のふいな呼びかけに、剛も驚いて後ろを振り向けば、
光一は俺へと、深く頭を下げた。

そして。


「今日はお疲れ様でした。そして楽しい時間をありがとうございます。
 またの機会がありましたら、またいつでも遊びにいらしてください。
 その時もKinK Kidsとして、マッチさんをお迎えできたらと思ってます。」

そう言ってもう一度俺へと頭を下げると光一はゆっくりと
自分たちの楽屋の方へと歩きだした。
すると剛もまた同じように頭を下げると、
小走りにかけよって光一と肩を並べて歩き出す。

その後ろ姿は、まさに2人のこれからの道のりと重なって。
こいつらは、この先もこんなふうに肩を寄せ合って歩んでいくんだろうなと
ふと感じた一瞬だった。


俺はずっとソロでやってきた人間だから、
あいつらの言わんとすることすべてを素直に受け止めるのは
もう少し時間がかかりそうだが、
あいつらを見ていたら、仲間がいるのっていいのかもな…という気にもなってくる。

なんにしても、俺が気に病まなくても
2人なら周りの言葉に惑わされる事なく、自分たちの想いを貫いていくんだろう。

今日は、意地悪を突き通した俺だったけれど、
いつだって真正直にぶつかってくるお前たちの事、嫌いじゃないぜ。


決して狭くはない廊下を、
そんなにくっついてたら歩きにくいだろうとツッコミたくなるくらい
肩寄せ合って歩く後ろ姿を、
俺はいつまでもクスクスと笑いながら眺めていた。


そして思う。


今度会ったら、すかさず言ってやろう。

俺が言った通り、



  ちゃんと「おやすみメール」送ったか?って。





       fin

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