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肌寒さが増す冬の空。


ここ最近、雑誌撮影のオンパレードで
今日も朝から指定された場所へとやってきた2人。

すると、その撮影現場で二人を待ち構えていたのは小さな子猫。

近頃、やたら動物絡みの撮影が多いのは偶然か?
いや、彼らに動物を宛がった方が大概いい表情が取れるとは周知の事実(笑)


そんなわけで、早速子猫にじゃれる彼らを期待したのだが・・・
何故か、その子猫をマジマジと見つめる二人。


そしてー


「このこ、えらいちっちゃいけど、お母さん猫はどうしてんの?」と突然、剛が一言。

「あ、控え室でちゃんと飼い主の方と待ってます。」
「一緒なんか、それやったらよかったわ。」

ホッと胸をなでおろした剛の横で、じっと子猫を見つめていた光一もふいにポツリと。

「・・・“ごはん”に似てんな。」
「うん。」
「毛色も大きさも、あの頃のまんまや。」
「捨て猫じゃないのが大きな違いやけどな。」
「そうやな」

子猫を挟んで二人だけの会話をしていたら、
待ちくたびれたかのように子猫は大きな欠伸を一つ。


そんな愛くるしい姿に二人は、


 そっと顔を見合わせて・・・


   小さく笑った。


 





  


   小話「こねこに恋したふたり」








それは、かなり遡った過去の出来事。
その日の彼らのスケジュールは、野外での雑誌撮影から始まった。

都内の、とある児童公園につれてこられた光一と剛は、
「子供の頃を思い出して、あらゆる遊具を使ってめいっぱい遊んでっ」というカメラマンの指示に、
「えぇ~恥ずかしいわぁ」「何して遊ぶん・・・」と、最初こそ愚痴めいてはいたけれど、
一つ一つの遊具にふれあう度に公園で遊んでいた少年時代を思い出していったのか、
思いの他、楽しげに遊ぶ二人の笑顔がたくさん見れた。

例えば、ヘンテコな形の遊具を前に「これなんや?」と首を傾げる光一に、
「これ、あれやんっ。こうやって・・・」
説明しながら、おもむろに遊具に跨り、「こういちっこういちっ」と遊具のお尻を叩いて催促する剛。
すると、「あぁ!」と気がついて、言われるがままに剛の後ろへと跨り
バイクのニケツを楽しむかのように、

「これ、結構揺られんなぁ(笑)」
「大人二人分の重量かかっとるからなぁ」
「んふふっ! メキメキゆうとるっ」
「大丈夫か?壊れてもしらんでっ(爆)

なんていいながらも、遊具を揺らして声をあげて笑う二人。

きっと。
早くから仕事をこなしていた彼らにとって
こんな風に童心に返って遊ぶなんていうことは、本当に久しぶりの事だったのだろう。
寒い冬空の下での撮影にも関わらず、
途中からは「汗かいたっ」なんて無邪気な笑顔を見せて上着を脱ぎ始めたりして。

まだまだ少年のあどけなさが残る笑顔がそこにはあった。




やがて、撮影も順調に進んでいき、一旦休憩の声がかかった時。
光一は一人、撮影陣の輪を抜け出した。
そして・・・

「たしかここらへんで声したと思ってんけどなぁ」

と、一人ごちながら、植木を覗き込むと・・・


「あっ!! やっぱりおったっ!!」


そう言って笑顔を見せた先にいたのは、小さくまるまったまっくろな子猫。
まだまだ大人になりきれていない、小さな小さな子猫は、
真冬の寒さをしのぐ様に、茂みの中でまるまっている。
色も黒いからそれこそ周りと同化して、声さえあげなかったらきっと気付きもしなかっただろう。

でも、このすぐ傍にあった遊具で撮影しているときに、
弱弱しく「みぃ~みぃ~」と鳴いたその声を聞き逃さなかった猫好きの光一は、
その後もずっと気になっていたのだ。

「こっちおいで、ほらっ。逃げたらあかんで?」

そっと子猫に声をかけながら手を伸ばすと、
首をちょこんと傾けはしたものの逃げるそぶりは見せず、
子猫は素直に光一の手の中に納まった。

その時。


「どうした?」

突然、背後から声をかけられて、子猫に夢中になっていた光一は「わっ!」と驚いた。

「なんや、剛か、びっくりした・・・」
「こんなところで一人でなにしてるん思ったら―」
「ごめんごめん(笑)」
「どうしたん、このちっちゃいかわいい子猫(笑)」
「なっ!かわいいやろ?」


光一は、剛にも見えるようにと抱えていた子猫をいったん地面へと下ろした。
それと、真冬の空の下とは言え風のない今は、
日陰よりも陽の当たる場所の方が少しでも暖かいと思ったから。

そして、光一の手から離れた子猫はやっぱり、
逃げることもなくその場でちいさくまるまってしまった。
それを、じっと見ていた剛が。

「・・・こいつ、俺たちが近寄っても逃げへんとこ見ると人慣れしてんのかな」
「そうやな。なんなく捕まえられたしな。飼い猫かな?」
「首輪はついてへんけどな・・・」

光一の問いかけに、子猫を覗きこんで観察していた剛は、そうこたえた。

 

 


「こんな赤ちゃんやのに、近くに親猫もおらなさそうなんもな」
「迷子にでもなったんかな。」
「もしかしたら、誰かが飼ってたのに育てられへんからって捨てたってこともあるんちゃう」
「そうやったらひどすぎんな」
「ほんまやったら、無責任すぎてゆるされへんわっ!!」
「かわいそうに・・・人慣れっていうよりも、弱って逃げる力ももぉ、

   ないのかもしれへんな・・・」

結局のところ、迷子になったのか。それとも捨てられたのか。
二人にはわからないながらも、
子猫を抱えた時に、見た目よりもはるかに軽くて骨ばった感触を思い出して
光一は胸が痛んだ。

それから、暫く子猫を眺めながら、あ~だこ~だと二人で話し込んでると
陽の光を背中に浴びて、少しあったまってきたのか、
子猫が二人の方へと顔を向けて、何かを訴えるように「みぃみぃ」と鳴き出した。

「おっ!なんか鳴き出したで、光一(笑)」
「ほんまや、なんやろ?」
「おなか空いてるんちゃう?」
「そうやろなぁ~おなかも、喉も渇いてるかもな」
「猫の餌はさすがにないなぁ。でも、水でいいんやったら容器探してくんでくるわっ」

言うが早いか、剛はあっという間に駆け出していった。


「さすが犬飼い始めただけあって対応が早いなぁ(笑)」


そんな頼りになる相方の後姿を目で追いながら、光一は嬉しそうに呟いた。



改めて子猫へと視線を向けると、
いつしかずっと閉じられていた双方の愛くるしい目が開いてて、じっと光一を見上げていた。
しかし、よく見ると目には目ヤニも溜まってて、ますます可哀想な気持ちが溢れてくる。

「お前、なんでひとりぽっちでここにいるん?」
「ほんまに捨てられてもうたん?」

話かけたところで、返事なんてかえってくるはずないのに・・・
でも、喋りかけずにはいられない。

頭をひとなでしてやると、気持ちよさげに目を細め、
落ち葉を拾って目の前で振れば、興味深そうに前足を伸ばしてくる。

そのしぐさ、表情。
どれをとってもかわいくて仕方がない。

これが成長しきった大人の猫だったら、それでも今、このときだけ可愛がって
じゃあ、バイバイ!で終わるけど、
この子猫は、ほんとにまだ赤ちゃんで・・・見兼ねる程によわよわしくて・・・

いっそ、このままこの子を連れて帰って、自分が面倒を見ようかとも一瞬頭を過ぎったが、
あいにく、こんなにも猫好きなのに、実は猫アレルギーな光一。
少し触れ合うくらいなら大丈夫だが、
いざ一緒に過ごすとなると、鼻水や目のかゆみに襲われてひどい状態に陥ってしまう・・・

剛も情の深い人間なので、少し前までなら、面倒をみてくれたかもしれない。
でも、いまは子犬を飼い始めたばかりなので、子猫の面倒も一緒にみてほしい・・・
なんて、さすがにいえるわけもなく。

飼ってあげたいのに飼ってあげれないジレンマに、光一は思わずため息をついた。

すると・・・



「えらい、大きなため息ついてますね、光一さん(笑)」


いつの間にやってきたのか。

子猫を前にがっくりと項垂れていた光一の姿が面白いと、剛は小さく笑って、
そのまま横へとしゃがみこんだ。

「容器がなかなか見つからんから、紙皿に水汲んできたわ。」

そう言いながら、零れないように運んできた紙皿を子猫の前にそっと置くと、
やっぱり水を欲していたのか、子猫はペロペロと舐め始めたのだ。

「あ、飲んでる飲んでるっ」
「よかったなぁ」
「うん」

無心に水を飲む子猫を、お互い無言で見つめていたとき―


「大丈夫やから。」

ふいに剛が呟く。

「・・・へっ? なにが?」
「お前、この子猫の心配してため息ついてたんやろ?」
「・・・・・」
「まだ赤ちゃんやもん。野良猫として一匹で生きていくにはちっちゃすぎるよな」

瞳を揺らしてそう語る剛の横顔を見つめながら、
互いに同じ思いを抱いてた、以心伝心な自分達を改めて感じる。
それだけでも嬉しくて。

ほんとうに嬉しくて。


それなのに―



「でも、見つかったから。」
「・・・えっ?」
「んふふっなんやねんっ そのきょとんとした顔(笑)」
「なにが見つかったって?」
「こいつ引き取ってくれる人。」

そう言って子猫を抱き上げると―

「だからもう大丈夫。」



ついさっき・・・

水を汲みに駆け出した剛だったが、光一から少し離れたところでふと振り返ると、
ちょこんと丸まった背中が子猫へと一生懸命語りかけているように見えて、
微笑ましく思えたと同時に、情がわいて何とかしたいとか言い出しかねないと少し心配になる。

でも生憎、自分は子犬を飼い始めて間もないし、光一ももちろん飼えない理由も知ってるだけに、
そんな風に言い出す前にいっそ子猫の面倒を見てくれる人を見つけられたら・・・と、
そう思うが早いか、剛は早速、「誰か子猫貰ってくれる人い~ひんかなぁ?」と、
周りにいたスタッフに声をかけまくった。

しかし案の定、「すでにペットを飼ってる」「飼えないマンションに住んでる」と、
様々な理由で、簡単には飼い主は見つからず。
これはもう長期戦で、知り合いに聞いて回るしかないかと思った時、
不意に一人だけ、もしかしたら・・・という人物が思い当たり、
剛はダメもとで、マネージャー経由で連絡を入れてもらった。

それは、ケンシロウを飼いはじめてまだ間もない頃
嬉しくてつい、仕事場に連れまわしては動物好きな共演者やスタッフのみんなとよく
ペット談義に花を咲かせていた剛だったが、
その中に「自分は飼うなら猫が飼いたい」と漏らしていた人がいたのを思い出したから。

あれから気がつけばもう半年以上経っているから期待薄だとは思いつつも、
祈る気持ちで、繋がった相手へと事情を説明してみれば、

まさかのOKの返事。


「なかなか飼いたいとは思いつつも、行動に移せなかったから嬉しいって
 二つ返事で頷いてくれはって」
「ほんまにっ? 引き取ってくれるって!?」
「うん。」

瞳を輝かせて問いかける光一に、剛は力強く頷いた。

というのも・・・

ずっととは言えないが、それでも撮影中は共に行動していた自分達だったが、
剛は、子猫の声には気付かなかった。

たまたまなのか、それとも猫好きの光一にだからこそ届いた声だったのか。

一人っきりの闇から、光の中へと救い出された小さな命。



「光一に見つけてもらって、命拾いしたなぁおまえっ」



剛はそう言って飛び切りの笑顔を子猫へと向けたとき。


「わっなんや!?」


突然、光一に背中から抱きつかれて、剛は思わず声をあげた。


「つよしっ!ありがとうっ!! お前はほんまいい奴やなっ」

光一は一目も憚らず、喜びいっぱいに抱きしめる。
想像もしてなかった配慮ある行動に、嬉しさのあまり力が入りすぎて、
思わず「イタイイタイ(笑)」と剛の口からこぼれはしたが、
一向に離れようとしない光一の喜びようがまた剛にとっても嬉しくて。

でも、まだ伝えていなかったことを思い出して、

「ただし、一つだけ条件だされてん。」

と、背中越しから伝えた剛。


「え?条件!?」
「うん。」

突然の「条件」という言葉に、冷静に戻った光一は、
至極まじめに、その先を促すように剛の顔を覗き込んだ。

すると。


「この子猫の名前を、俺たちで考えて決めて欲しいねんて。」
「名前?」
「うん。」
「俺らで決めてええの?」
「うん。ってかお前が決めて。」
「俺?」
「うん。」
「名前か〜悩むなぁ〜」

急に責任重大な名づけ親を任されて、困り果てた光一ではあったが・・・

「“ごはん”ってどう?」
「えっ!? 悟空やなくて、悟飯の方なん?((笑)」
「ちゃうちゃうっ!ドラゴンボールの悟飯やなくてっ」
「あ、ちゃうんかい(笑)」
「こいつ、めっちゃちっちゃいし、よわよわしいし・・・」
「うん。」
「だからごはんをめいっぱい食って元気に大きく育って欲しいなっていう思いを籠めて」
「あ、それでごはん」
「うん(笑)」
「ええやんっ」
「そう?」
「うんっ」
「じゃあ、お前は今日から“ごはん”やで!」

そう、光一が子猫へと言い聞かしたその時。

「みぃ~」

まるで、ちゃんと伝わったかのようなタイミングで鳴いた「ごはん」に
ふたりは一瞬で恋におちたかのように

揃って「可愛いなぁ~」と口にした。

光一に見つけてもらわなければ、
今も、もしかしたらひとりぽっちで寒さを凌いでいたかもしれない小さな子猫。
でも、差し伸べられた手によって子猫の未来は開け、「ごはん」はきっと幸せになれる。


光に包まれた小さな命が、つよく元気に育ちますように―


そんなふたりと子猫の姿を、
いつの間にか、しっかりカメラに収められていたこと知るのは少し後のこと(笑)


でも、そこには―

愛に溢れた自然で優しい二人の素顔が

  写真の中に映し出されていた。





      -前編 完-

 

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