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あの一瞬に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、仕事で全国を回る中でも、結構大きなイベントであり、
聞かされた本人たちも、後に伝わった世間をも驚かせる内容のもので。

でも、驚く暇もなくあっという間にその日はやってきて、
二人は今、紹介のアナウンスがあるまで、ドーム内の通路脇でひっそりと佇んでいたのだが―


「中丸、大丈夫か?」


隣で、何度も深呼吸をする後輩を気にして、光一は、そっと声をかけた。


「あ…な、なんとか…でも緊張します。」
「うん、緊張するよな」
「え?光一君もですか?全然そんな風に見えないけど」
「するよ。マウンドを取り囲むファンは、純粋に野球を見に来てる人達が殆んどなんだから。
 その中に、映画の宣伝とはいえ、部外者がマウンドに立つのは、正直気が引けるし緊張もする…」
「そうですよね…僕たちとは全然縁のない人がほとんどですもんね」
「でも…」


そこで、ふと遠いまなざしで、何かを思い出すように視線をあげた光一に、
中丸はその先に続く言葉を大人しく待った。

「この空間が、なんか懐かしい」
「え?ヤフードームですか?」
「…そうやねんな、もう福岡ドームじゃないねんな。」
「改名されたんでしたよね。詳しくは知らないけど」


光一の言葉にしっかり返事を返す中丸だったが、
でも、すでにその頃には、過去の記憶を辿っていた彼がいた。



このドームでコンサートしたの、もう何年前になるんやろか。

そういえば、剛の持ち込んだゲームやりたさにあいつの部屋に入り込んで、
次の日もドームコンがあるというのに、一人黙々とゲームやってて。

そしたら、ぼ~っと窓の外をみてた剛が突然、「光一、きてみっ」って呼ぶもんやから、
慌てて剛の傍に寄ってったら、ホテルから見下ろせる砂浜に、
大きく掘られた「KinKi Kids」の文字を見つけて。

二人ですごいなっていつまでも眺めてたあの夜を、
今も覚えてる…



「ファンの子やったんやろな…」
「はい!?」
「あ、ごめん、こっちの話」

その話を、わざわざコンサート会場で話したのが、このドームだった。

そんな懐かしく思い出されるその場所に、
今日は、剛ではなく、光一は後輩とやってきてるのだ。



「・・・もう、そろそろかな」

光一が、そう言った10秒も経たないうちに、
自分たちを呼ぶアナウンスがドーム内へと響き渡り、
ドームが揺れるような観客の湧く声が響く。

すると。



・・・いくでっ光一・・・



そう言って、背中を押した剛を感じ、
光一は、あの時のドームへと飛び出す一瞬にシンクロする。



・・・うん、いこかっ・・・





今一度、思い起こされた懐かしい記憶に、光一は小さく微笑むと、


「いくぞ!中丸っ!!」


気合いをいれるかのように、彼の背中を大きく叩いて、
今度こそ、二人一緒に、明かりの射すマウンドへと駆けていく。

俺達の仕事はまだ、始まったばかり。



  懐かしのドームを、楽しんでくるな、つよし。



そんな俺の声が、 届くだろうか。


遠い空の下にいる君に。













 

 

 


ついつい始球式での光ちゃんを想像してしまいました。
「KinKi Kids」と言った光ちゃんは、きっと、ソロの仕事をしていても、
やっぱり「KinKi Kidsの堂本光一」であって。
Awayな場所に、ほんの少しの寂しさを感じたのではないかと…
全国はやっぱり二人一緒に回ってほしいものですねぇ♪

 

 

 

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