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パワーの源

 

 

 

 

 

 

 

 




「あ、あの…剛さん。」

「・・・・・」

「なにかあったんですか?」

「…なんで?」

「いや、あの…なんとなく…」

「…なんもないで」

「でも…」

「・・・・・」

「あッ!飲み物でも買ってきましょうか?」

「気~つかわんでもええって。」

「じゃあ…何か用事できたらいつでも声かけてくださいね?」

「ん…ありがと。」

「・・・・・」


こんな微妙な会話を先ほどから何度となく繰り返してる剛とマネージャーである。
というのも―


どことなく剛の様子がおかしい。

別に体の調子が悪いわけではなさそうだ。

これといって不機嫌というわけでもない。
何がどうでこうなのだと、ちゃんと説明ができるわけではないのだが、
でも、とにかくいつもの剛とはどことなく違うというか…

今も、撮影の合間のちょっとした休憩時間も、
いつもならスタッフと談笑してるか、
わずかな時間でも自分なりの過ごし方を楽しんでる彼のはずが、
テーブルに突っ伏して何にも興味を示そうとしない。

だからと言って、仕事になるときっちりモードを切り替えてくるので、
支障がない分、当たり障りなく見守っていたらいいのだろうが。

ついついほっとけない性分の剛のマネは、どうにか理由を聞き出そうと、
何度となく声をかけてみるのだが、
「なんもない」の一点張りに引き下がらざるをえない…


まいったなぁ・・・


とりあえず、次なる対策を考える為に一旦楽屋を離れたマネだったが、
廊下でとある人物とばったり遭遇する。


「あれ?どうしたんですか」

「いや、ちょっと用事があって近くまできたんだけど―剛は?」

「あ、今は休憩タイムで楽屋にいるんですけど…」

「もしかして、今の剛って、扱いにくかったりする?」

「え・・・なんで知ってるんです?」

「…なるほど、見事な読みだな・・・」


そこで何らかの事情を飲み込めた彼は一人小さく頷くと、
とっとと剛のいる楽屋へと移動する。
結局今の会話で、なんの状況もわからないまま置いてきぼりをくらったマネも、
慌てて彼の後を追ったのだった。


楽屋の扉をあけると、案の定
何とも説明のしがたいオーラを纏いつつテーブルに突っ伏してる剛が目に入り
一瞬、躊躇しつつも声をかけた。


「・・・剛。」

その声に、ぴくりと反応して剛はガバリと顔を上げる。


「えっ?…あっ・・・光一?」

「―は来てないよ。」

「あ…そうやんな。―のはずないわな…」

「うん。でも、光一から言伝は頼まれてきたんだよ」

「…え?光一から?」

「そう」


そういって、光一のマネージャーは、剛の前に紙袋を差し出した。


「なんや、これ」

「光一が差し入れに貰ったものらしいけど、僕がこっちに用事があるっていったら
 ついでに寄って、これを剛に渡してほしいって頼まれて」


マネの説明を聞きながらも、剛は渡された紙袋からガサガサと中身を取り出すと、
包みの空いた洒落た箱が―つ。



「なんやこれ、すでに開けられてるやん…」

「そういえば、貰った時開けてたかな」


不思議に思いながらも、その箱の蓋を開けてみた剛だったが。


「・・・・・・」

「剛?」

「…んふふふふ」



箱の中身をみたとたん、一瞬固まったかと思うと口に手をあて突然笑い出した剛に、
その場にいた二人のマネも、何事かとその箱の中身を覗き込んでみて驚いた。


 品よくならんだ9個の焼き餅と、

 焼き餅の中身であろう奇麗に残されたアンが一つ。



そこにいる誰がみても一目瞭然な、一つは光一の食べ残したらしい餡子のようだ。

普通ならそんな差し入れ貰っても嬉しくもなんともないどころか、
こんなものいらないと突っ返してもよさそうなのだが。


剛は違った。


「ほんま、あいつはぁ~このアンがめっちゃ美味しいのにな?」


そう言って、ぽつんと残されていたアンを一つまみすると、
それはそれは幸せそうに、飛びきりの笑顔で口に放り込んだのだった。

思わず顔を見合わせる二人のマネ。

そんな二人の胸中を知る由もない剛は、さっきまでのテンションはどこへやら?
残りの焼き餅もどんどんと口へと放りこんでいき、終いには

「なぁ、わるいけど飲み物買ってきてや~
 やっぱり餅にはお茶やんなぁ~ってわけで、ホットのお茶プリーズ!!」

と、お使いまで頼んでみたり。
しかし、そんないつもの剛の様子に、マネは喜び勇んで二つ返事で飛び出していった。


すごい効果だな…


心の中で呟いてみる光一のマネは、
とにかく光一に頼まれたものはしっかり届けたぞ!と、我に返る。


「じゃあ剛、頼まれたものは確かに渡したからね、僕はもう行くよ。」

「うん、ありがと~。光一にもそう伝えとってぇ!」

「わかった、じゃあ仕事頑張って」

「お~い」


マネを見送りつつ右手をひらひら振ってみせるも、
相変わらず口元はモゴモゴと動いてる剛が、
なんだかふいに微笑ましくみえて、その姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
そして同時に、言伝を頼まれた時の光一の言葉が思い起こされた。



―もしかしたら、今のあいつパワー切れかもしれへんわ・・・
  寄れるなら、これ届けてくれへん?
  もらいもんやけど…剛のパワーの源、詰め込んどいたし―



その言葉を思い出し、改めてその意味が理解できたマネだった。
あのアンコはきっとウケ狙いだったのだろう。


でも、ほんとのところは…

ツヨシのパワー切れは、甘いものと…そして、光一だったのかもしれないな。








 

 

 

SSのわりにかなり長くなってしまいましたが―正直しんどいの剛君の餡子ネタを
ちょいとお話にしてみました♪
しかしどう考えても、回りだけ食べてその中身の餡子だけを、
はい!って渡して、食べてくれる人っているのだろうか?
相当の間柄でないとまずしないよね~そんなこと♪
人間誰しもパワー切れの時ってあるけど、やっぱりパワー補充しないとね!

 

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