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小話「St. Valentine」

 

 

 

 

 

 

時は2016年 2月14日
只今、帝国劇場で上演中の「Endless SHOCK」

   ―の舞台裏での一幕より


本日、2公演あるうちの1公演目を終えた座長の元へ
わずかばかりの休息の頃合いを計って、一人の男が訪れた。





「うわっきたっ」
「今年も来ましたよ」
「来ると思った(笑)」
「しっかり読まれてましたか。 基本、日時や曜日感覚のないあなたなのに(笑)」
「やってこれ見てみ?」
「相変わらずすごい量のチョコレートですね」
「毎年の恒例行事やからさ。嫌でも思い出す」
「さすがモテ男っ」
「いやいや。こんなにもろてもな。どんだけ返さなあかんねんっ。
 できる事ならこの日を舞台定休日にしてひっそりと部屋に籠りたいくらいやで」

普通ならどう聞いてもただの自慢話でしか聞こえないのだが
彼からすると、それさえも悩みの種になるらしく、
いっそ、嫌味に捉えるよりも同情してしまいそうになる。
でも・・・
こっちの本音を言わせてもらえば「羨ましすぎる悩み事」に他ならないのだが(笑)

なので、つい―

「じゃあ、これ以上ももらってもお返しに困るだけなら、これはもういらないですね」

そう言って、ちょっぴり意地悪く手にしていた紙袋を掲げてみせた。
すると。

「なんでやねん」

と、速攻でツッコミが入るなり、躊躇なくこの手から紙袋を奪い取ったのだ。
いつもなら、売り言葉に買い言葉で「いらん」とか言いそうなものなのに、
これに関しては冗談でも言わない、そこが彼の素直で可愛いところなのかもしれない(笑)

そして、早速とばかりに紙袋から綺麗に包装された小箱を取り出し、
鼻歌混じりで手際よく開いてみせると、

そこには―

「あっ・・・」
「おぉっ!!」
「おっぱい・・・」
「ちゃうっ!オパパーイやっ(笑)」

 

相変わらずの小学生並みの下ネタに満面の笑みを見せて喜んでいるのは、
毎年、上演すれば満員御礼の舞台に立ち続けるまさにスーパースターと呼ぶに相応しい堂本光一‼!
・・・とは、到底同一人物とは思えない男だったりするのだが(汗)

この手作りチョコを贈った主も、そんな光一君の下ネタに全力で乗っかる唯一無二の相方、
堂本剛その人であるのだから、いっそお似合いカップルという他ない。

そもそも、剛君のマネージャーである僕が、こうやって彼の手作りチョコを
バレンタインデーの舞台中に届けるという役目も、恒例になりつつある。

彼曰く、それもツッコミ満載のお笑いネタの一つとして送っているだけの事で
深い意味はない!との事らしいが・・・
その割に、毎回、結構本格的な手作りチョコを光一君へと送っている。

そして光一君もまた、テーブルに山と積まれたチョコレートには見向きもしないくせに
剛君から届くチョコは、速攻で封を開けては嬉しそうに破顔する。
テレビや雑誌で見せるような素っ気なさはどこへやらの、まさにツンデレ。


それにしても・・・

「これ、光一君が番組で作ったものと似てますね」
「ってかまさにそれやん」

そういえば、あの番組は今日、ほんの少し前に放送されたばかりだろうか。
きっとぴったりと時期と企画が重なった放送になった事だろう(笑)

「でも―」
「あ、ちょっと違うか。」
「たぶん、アレンジしてますよね。じゃないと食べれないでしょ(笑)」
「当たってるだけになんか腹たつなっ」

不服そうに呟きながらも、光一君はふと目についたメッセージカードを手に取った。

どうやら小箱と一緒に添えられていたようだ。
彼独特のイラストと見慣れた癖のある文字に目尻を下げながら読み上げる。

―覚えていますか?君の自信作の「オパパーイ」を。

 残念ながら、あの時作った”おっぱい”は残念ながら

   君好みの”おっぱい”ではなかったようなので
 今回は僕が、君の理想の”おっぱい”に近づくよう試行錯誤繰り返し、
 光一君好みの”おっぱい”を手作りしてしまみました。―

「何回、おっぱいゆうとんねん(笑)」

―ちなみに、君の味覚を刺激させた岩塩の変わりに、甘酸っぱいドライラズベリーで彩りを添え
 口にいつまでも残ってしまったというキャラメルを、ホワホワなマシュマロに変更してみました。
 すると、チョコとの甘みとラズベリーのほどよい酸味のハーモニーが素晴らしく、

 マシュマロの食感が、これぞ「オパパーイ」と呼べるやわらかな口当たり。
 まさに光一君好みの”おっぱい”になったのでは?と自負しています―

「これ王道やん、普通に美味いやろ(笑)」

―さぁ、”改良型オパパーイ” こころおきなく召し上がれ―

剛君からのメッセージに、いちいちツッコミをいれつつも、頬はずっと緩みっぱなし(笑)
で、さっそくとばかりに、チョコを一つつまむと、あっという間に口にほりこんだ。
すると―

「・・・・・」

しばし無言のまま、光一君の表情がくるくる変わる。
あれ?もしかして、剛君も失敗作!?
この前の光一君以上に見た目とのギャップのある味に仕上がったったのかな?
と、内心ヒヤヒヤで伺っていたら。



「・・・うっま~~~~いっ!!」




どうやら美味しすぎて、表情がくるくる変わっていたようです(爆)

「そうっ!俺、こんな感じを目指しててんけどな。」
「あの時は岩塩が全部打ち消しちゃいましたもんね(笑)」

あの収録時を思い出しながら二人で笑いあってる間にも、

光一君の口にどんどんと運ばれていくチョコレートたち。

そして。

 

「もうなくなってもうた」

 

ちょっぴり名残惜し気にそうつぶやく光一君の視線の先には

空になってしまった小箱がポツリ(笑)

それをみて、思わず微笑ましく思ってしまったのは―

 

過酷な長丁場の舞台を務める光一君が、みるみる痩せ細っていくのは毎年の光景。

そんな彼を気遣って、

社長を筆頭に、舞台の共演者や関係者、観劇で訪れる来客者など、

少しでも彼に精の着くものをと、差し入れを持ってくるらしいが、

舞台中は、さらに自身へと制限を課して身体の管理も怠らないという光一君は、

幕間はそれこそ、食べ物を口にしない。

想像を絶する疲労を短時間で回復させるのは容易ではないだろうに・・・

 

だからこそ、幸せそうに「美味しい」と言って食べ物をほおばってる彼が見れて、

僕も素直に嬉しくなる。

毎年、ネタだからと言ってチョコを贈り続けてる剛君ではあるけれど、

本音はきっと、ハードな舞台を続ける光一君への剛君なりの心配りなのだろう。

 

それがちゃんと伝わっているから、

光一君も素直に受け止める。

 

まさに聖なるバレンタインデー。

 

 

僕がこうやって毎年、この役を買ってでてるのはそんな二人をただ見守っていたいから。

 

 

誰にも汚されることなく、邪魔されることもなく。

二人だけの世界で。

二人だけの素敵なハーモニーを奏で続けて欲しい

 

 

と。

 

 

僕はいつだってそう心から願ってる。

 


 

 

 

聖バレンタインデー・・・恋人たちの愛の誓いの日

 

 

 

fin

 

 

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